国立大学附置研究所・センター会議 令和8年度第3部会シンポジウム「古文書をビッグデータへ―OCR が拓く歴史研究の新地平―」を開催

Topics (2026.10.01)

国立大学附置研究所・センター会議
令和8年度第3部会シンポジウム「古文書をビッグデータへ―OCR が拓く歴史研究の新地平―」を開催しました

神戸大学・大同生命保険株式会社 共同研究成果報告

 神戸大学計算社会科学研究センター(以下「CCSS」とする)では、令和8年10月1日に、国立大学附置研究所・センター会議 令和8年度第3部会シンポジウム「古文書をビッグデータへ―OCRが拓く歴史研究の新地平―」(国立大学附置研究所・センター会議主催)を、神戸大学百年記念館(神大会館)とオンラインによるハイブリッド形式で開催しました。

 本シンポジウムは、大同生命保険株式会社、RIEB セミナー、科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「TEI を中心とした高度な歴史テキスト構築」(#25H01244)の共催により行われました。

 日本には、現在確認されているだけでも20億点以上の古文書・古記録が私蔵されているといわれています。しかし、専門家が目録を作成し内容を読み解くには膨大な時間を要するため、その多くが活用されないまま眠っています。CCSSと大同生命保険株式会社は共同研究を通じて、江戸時代の豪商で大同生命の源流である「加島屋」に伝わる膨大な古文書のデジタルアーカイブ化と、「古文書OCR」による中身検索システムの構築を進めてきました。

 本シンポジウムは、くずし字OCRの実践における現時点の到達点を確認するとともに、生成AI等の活用が人文・社会科学研究にもたらす可能性と課題を整理することを目的とし、朝山くみさん(フリーアナウンサー)による総合司会のもと、講演とラウンドテーブルを行いました。

 大川剛直副学長(デジタル化担当)による開会挨拶、大江紀貴さん(大同生命保険株式会社執行役員)による挨拶に続き、高槻泰郎さん(大阪大学大学院経済学研究科 教授・神戸大学経済経営研究所 リサーチフェロー)から本シンポジウムの趣旨説明が行われました。

【高槻泰郎/大阪大学大学院経済学研究科 教授・神戸大学経済経営研究所 リサーチフェロー】

 講演1では、小風尚樹さん(人間文化研究機構本部 人間文化研究創発センター 特任准教授・国立歴史民俗博物館研究部 特任准教授〔兼任〕)が「歴史学におけるAI・計算機・人間の協働」と題して講演を行いました。小風さんは、「歴史家の仕事の91%がAIに代替可能」とするMicrosoft社の調査報告を手がかりに、歴史研究における人間とAIの適切な役割分担について説明し、歴史研究の作業環境を、問い・設計・判断を担う人間(Mind)、確率的な生成を行う生成 AI(LLM)、確定的な処理を行う計算機(Computational)の3つの領域に整理したうえで、Claude Codeなどのエージェント型AI の登場により、確率的な判断と決定論的な実行の切り替えを AI 自身が担うようになりつつある現状を、海外の研究事例を交えて紹介しました。

 また、AI による「見えない判断」やハルシネーション(もっともらしい誤り)のリスクを指摘し、人間の役割は個々の実務判断から、作業の「境界の設計」や「独立した経路での検証」、そして「何を問い、どう解釈するか」という核心部分へと移りつつあると述べました。歴史家の専門性を守るためには、AIを避けるのではなく、むしろその作業境界の設計に深く関わる必要があるという問題提起がなされました。

【小風尚樹/人間文化研究機構本部 人間文化研究創発センター 特任准教授・国立歴史民俗博物館研究部 特任准教授〔兼任〕】

 講演2では、上東貴志教授(神戸大学計算社会科学研究センター 長)が「古文書OCRによる検索システムの構築と活用」と題して講演を行いました。上東教授は、GPT-6AstraやClaude Opus 5.5などの最新の生成AIの急速な進化と、それらを活用したデジタル人文学の実践成果を説明し、プロンプトのみから生成した進化論のJavaScript動画や、絵巻物『熈代勝覧』や大坂玉水町の「加島屋本宅」の史料・設計図をAIに読み込ませてBlender用の Pythonコードを生成し、Web上で操作できる高精度な3Dモデルを構築するデモンストレーションが披露されました。

 さらに、続け字のために文字の区切りが難しいことや、同じ文字でも多様な形状をとることといった、くずし字特有の課題を紹介したうえで、TOPPAN「ふみのは」、CODH「みを」、国立国会図書館「NDL古典籍OCR」という 3 つの主要な古文書へのアプローチを解説しました。一文字単位ではなく「行のまとまりとして読む」NDLの技術や、上東教授らが開発した、画像を活字化せずにそのまま識別する CNN手法(特許取得)なども紹介され、2025年から本格化している加島屋古文書の検索システム構築への応用と、「誰もが歴史の新発見に関わることができる未来」の可能性が示されました

 授賞式の後には入賞論文の発表会が行われ、審査員による総評と出席者による質疑応答が熱心に行われました。

【上東貴志/神戸大学計算社会科学研究センター センター長・教授】

 休憩をはさんだラウンドテーブル「OCR技術の可能性と課題」では、高槻泰郎さんの司会、朝山くみさんのアシスタントのもと、講演を行った上東教授、小風さんに加え、歴史学の視点から村和明さん(東京大学大学院人文社会系研究科 准教授)、史料提供及び企業史調査の視点から吉田一正さん(大同生命保険株式会社 コーポレートコミュニケーション部 社史担当課長)が登壇し、討論が行われました。

 歴史学、社会科学、資料編纂といった異なる立場から、くずし字OCRの普及による歴史研究の加速化に期待が寄せられた一方、AI の出力に対する人間による史料批判や検証手順の確立など、デジタルアーカイブを持続的に運用していくための課題についても活発な意見交換が行われました。

【左から:朝山くみ/フリーアナウンサー、高槻泰郎/大阪大学大学院経済学研究科 教授・神戸大学経済経営研究所 リサーチフェロー、
上東貴志/神戸大学計算社会科学研究センター センター長・教授、小風尚樹/人間文化研究機構本部 人間文化研究創発センター 特任准教授、
村和明/東京大学大学院人文社会系研究科 准教授、吉田一正/大同生命保険株式会社 コーポレートコミュニケーション部 社史担当課長】


 最後に、上東貴志センター長から閉会の挨拶がありました。

 シンポジウムには、神大会館に直接来場いただいた52名、オンラインによる152名、計204名の方に参加していただきました。

 終了後に実施した参加者アンケートでは、OCR技術の導入によって歴史認識の更新がさらに加速し、より正しい歴史が効率的に解明されていくことへの期待や、専門家にしか読めなかった古文書が誰でも読めるようになることで一般の方々の関心が高まり、各地に私蔵されたまま埋もれている貴重な史料が世に出るきっかけになるのではないかといった声が多く寄せられました。一方で、AIの出力には誤りが含まれうることを利用者が強く意識すべきであり、小さな誤りが見過ごされて積み重なることで将来的に歴史の歪曲につながるおそれがあるとの指摘もありました。どこまでを AI に委ねるかの選定も含め、利用する人間が最終確認を怠らない「判断の積み重ね」が重要であるとの意見が多く寄せられ、技術への期待とともに、その活用のあり方について考える機会となりました。

神戸大学計算社会科学研究センター


2026年10月1日(木)14:00~17:00 [受付開始 13:30~]・ハイブリッド開催

国立大学附置研究所・センター会議 令和8年度第3部会シンポジウム
「古文書をビッグデータへ-OCRが拓く歴史研究の新地平-」

国立大学附置研究所・センター会議 主催
神戸大学計算社会科学研究センター/大同生命保険株式会社/RIEBセミナー/科学研究費助成事業学術変革領域研究(A)#25H01244「TEIを中心とした高度な歴史テキスト構築」 共催

会場
神戸大学百年記念館(神大会館)/ Zoomウェビナー
定員
対面:先着250名/オンライン:先着250名

開催案内チラシ [PDF: 3.14MB]

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