RIEB Discussion Paper Series No.2025-J06

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タイトル

授業改善による格差是正の持続的効果:大阪市におけるSESと学力・学習意識の実証分析

要旨

 多くの国と同様、日本でも、子どもの貧困が深刻な社会問題となっており、貧困が学力格差を生み、将来の所得格差につながることが指摘されている。本研究は、大阪市が 2017 年度以降に実施してきた授業改善を中心とする学力向上施策の効果を検証するものである。大阪市の学力向上施策は、定期的に学校訪問を行い直接授業の見直しや教員研修を通じて教員の指導力を高め、児童生徒の学力向上を達成する点に特徴がある。分析では、大阪市の「子どもの生活に関する実態調査」(2016 年、2023 年)と全国学力・学習状況調査(2017年、2025 年)のデータを用いて、家庭の社会経済的背景(SES)別に、学力向上施策と学力の関係を明らかにしている。家庭の SES を学校ごとに集約し、学校 SES を 4 つのレベルに分けて分析したところ、大阪市においても SES が低いと学力が低い傾向にあることが確認された。しかし、最も不利なレベル 1 の学校はすべての教科で有意に学力向上が見られた。加えて、小学校国語、中学校国語、数学では、レベル 1 が最も高い成績増加率を示していた。さらに、最も SES が低い小学校 20 校・中学校 10 校を個別に抽出した分析でも、学力向上が確認された。同時に、「授業の内容がよく分かる」という児童生徒の学習意識も改善し、政策効果が認知的成果と非認知的成果の両面に及んでいることが明らかになった。授業改善型アプローチは費用対効果が高く、他の自治体にも応用できる持続可能な政策モデルとして評価される。これらの知見は、教育格差是正政策の新たな可能性を示すものであり、全国的な証拠に基づく政策立案(EBPM)の推進にとって重要な示唆を与えるものである。

キーワード

SES; 大阪市; 学力向上; 全国学力・学習状況調査; 教育格差; 授業改善

分類コード

I24, I28

連絡先

〒657-8501
神戸市灘区六甲台町2-1
神戸大学計算社会科学研究センター
西村 和雄
TEL: 078-803-7036 FAX: 078-803-7059

同志社大学経済学部
八木 匡

大阪市総合教育センター
古閑 龍太郎

同志社大学経済学部
岩澤 政宗

大阪市総合教育センター
谷口 璃華
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