RIEB Discussion Paper Series No.2022-J05

RIEB Discussion Paper Series No.2022-J05

タイトル

銀行の経営者交代の特徴について-経営者のプロフィールと財務比率を中心として-

要旨

 本研究では,2003年から2021年までのわが国の銀行の経営者交代に関し,まず経営者の退任時の年齢,在任期間,退任後の役職,新任経営者の年齢,在行期間,経歴等を分析した。そこでは退任経営者の半数以上が代表権を持つ会長に就任していることがわかった。また新任経営者は平均27年在行後に就任し,就任時の平均年齢は59歳であった。次に交代データを用い経営者交代前後の財務比率,持株比率,経営者の裁量行動の指標について,経営者交代を経常的交代と強制的交代,内部出身者の就任と外部出身者の就任に分割して,それぞれ交代が発生していない銀行と比較する形で交代前後の分析を行った。分析の結果,強制的交代,外部者の就任が発生したグループでは交代の1期前のROA,ROEの水準が,それぞれ経常的交代,内部者出身のグループと比較して,さらに交代が発生していない銀行と比較しても低い。その後,交代期,交代翌期と業績が改善していく。その改善の原因のひとつに貸倒引当金繰入額の減少がある。これに対し経常的交代や内部出身者が就任した銀行では,交代期のみ利益が停滞している。経営者交代の翌期になると利益がどの交代パターンでも回復しており交代が発生していないグループとは差が見られない。また利益マネジメント研究で用いられる異常な貸倒引当金繰入額を計算すると,強制的な交代が発生する前年度に大きな異常貸倒引当金繰入額が計上されていた。本研究はわが国の銀行の経営者交代に長期間のデータを用いて様々な観点から分析した研究であり今後の銀行の経営分析にとって有用なデータとなろう。

キーワード

経営者交代; 銀行; 財務比率; 持株比率; 利益マネジメント

分類コード

C21, M41

連絡先

〒657-8501
神戸市灘区六甲台町2-1
神戸大学経済経営研究所
榎本 正博

桜美林大学ビジネスマネジメント学群
深谷 優介
日本語