RIEB Discussion Paper Series No.2021-J15

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タイトル

感染症の歴史から何を学ぶか?――経済学と他分野との協業に向けて――

要旨

本稿では、COVID-19とその対応への含意を念頭に置きつつ、感染症の歴史を振り返る。古代以来、人口の数十%が失われるような感染症の大流行が繰り返されたが、近代に入ると公衆衛生の普及等により、死亡率は劇的に低下した。1918年からのインフルエンザ大流行は、COVID-19と疫学的には共通する部分も多かったが、社会経済に与えた影響はCOVID-19ほどではなかった。こうした違いの原因は、この百年の間に社会的規範が変化したことに求められる。社会的規範の変化には、「総力戦」思想の浸透と、近代的な生存権の確立が寄与したと考えられる。COVID-19への対応の中で、経済学は実証的(positive)な分析の面で現実的な処方箋を考えるための有用なツールであることを示した一方、規範的(normative)な分析の面で経済学は万能ではない。自然科学だけでなく、歴史や哲学などの人文科学と対話、協業することで、社会科学としての経済学の地平がさらに広がると考えらえる。

連絡先

早稲田大学政治経済学術院
神戸大学経済経営研究所 リサーチフェロー
鎮目 雅人
E-mail: masato.shizume@waseda.jp
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