RIEB Discussion Paper Series No.2021-J04

RIEB Discussion Paper Series No.2021-J04

タイトル

金融機関の経営統合と地域金融―「金融機関の経営統合に関する中小企業の意識調査」の概要の報告―

要旨

 金融機関の経営統合への関心が高まっており、政府は金融機関の経営統合を進めるための環境整備を行っている。今後、金融機関の経営統合が増える可能性が高いと考えられることから、そうした経営統合を認めるべきか、あるいは認める場合にはその後の金融行政はどのような点に留意すべきかについて検討する材料を提供するために、われわれは2020年10~11月に「金融機関の経営統合に関する中小企業の意識調査」を実施した。本稿は、その調査結果の概要を紹介することを目的にしている。
 本調査からは、以下のような結果が得られた。トップ行のシェアが高い県ではメインバンクの職員の「訪問がない」との回答率が高いし、担当者の親身な姿勢に対する評価も低い。コロナショックへの対応をみると、トップ行のシェアが高い県では、メインバンクの対応について「高く評価する」との回答率が最も少なく、「何の対応もしてくれなかった」の回答率が(競争度の高い)都市部と同様に高い。つまり、競争的な市場や極めて寡占的な市場という両極の市場環境においてリレーションシップバンキング的な対応が弱い傾向が見られる。また、メインバンクの経営統合における立場別に、メインバンクが経営統合したことの評価を尋ねたところ、メインバンクが主導側として関与した場合には肯定的な意見が多く、吸収された側の場合には、否定的な意見が多いことがわかった。ただ、全体でみると、否定的な意見はわずかであり、多くの企業が容認している。将来にメインバンクが経営統合する場合の賛否について尋ねてみても、消極的な賛成も含めて賛成が半数を超えており、明確な反対は4%弱にとどまった。
 以上のように、多くの企業がメインバンクの経営統合自体には強く反対していないといえるし、経営基盤の強化などのメリットがあることも広く認識されている。しかし、経営統合には企業にとってマイナスの面があることも本調査で明らかになったし、寡占度合いの高い市場では、必ずしもリレーションシップバンキングが盛んなわけでもない。政策的に経営統合を進めていく場合には、経営統合のマイナス面をできるだけ回避しながら、経営統合のプラス面の成果を顧客企業に還元していくように金融機関を誘導していけるかが課題である。

連絡先

神戸大学経済経営研究所
家森 信善
E-mail: yamori@rieb.kobe-u.ac.jp

立命館大学経営学部
播磨谷 浩三

摂南大学経済学部
小塚 匡文

香川大学経済学部
海野 晋悟
日本語