RIEB Discussion Paper Series No.2020-J03

RIEB Discussion Paper Series No.2020-J03

タイトル

中小企業の事業承継の現状と金融機関や信用保証協会による事業承継支援の課題 -兵庫県の中小企業に対する事業承継に関するアンケート調査結果-

要旨

 円滑な事業承継の実現は現在の重要な政策課題となっており、信用保証制度もその面で貢献することが期待されている。本稿は、2019年2月に、兵庫県信用保証協会を利用している企業の内、2011年以降に事業承継を済ませた企業(事業承継済み企業)2,266社と、現在の経営者が60歳以上で事業承継が必要だがまだ実施していない企業(事業承継未済企業)6,234社に対して実施したアンケート調査「兵庫県の中小企業の事業承継に関する調査」の結果(回答数:事業承継済み企業640社、事業承継未済企業1,877社)を紹介することを目的にしている。本調査の結果から、たとえば次のような示唆が得られた。①事業承継未済企業であっても約3分の2は黒字である。事業価値のある企業が後継者不在を主たる理由として廃業することは地域経済にとって大きな痛手になるので、官民を挙げた対応策が必要である。②金融機関は事業承継に関しての相談相手となれていない。金融機関は「資金繰り以外の相談にも乗る」姿勢で臨み、企業との信頼関係を構築することで、事業承継の伴走者として企業に認識してもらえるように努力していくべきである。そうすれば、早い段階で相談を受けることができるようになり、事業承継の支援も効果的になるはずである。③事業承継者の課題は様々であり、金融機関は、金融面だけではなく、特に後継者の育成といった面でも支援していくことが求められる。④従業員承継においては、親族内承継に比べて金融上の問題が多く、金融面での支援を充実させることで従業員承継の円滑化が期待できる。⑤事業承継を実施した際に約6割の回答者は何らかの資金が必要になったと回答しており、事業承継の円滑化に金融面での支援が不可欠である。ただし、実際には資金の必要はなかった承継者でも漠然とした資金面での不安を持っている。⑥事業承継において信用保証の利用が役に立ったとの回答が70%を超えており、信用保証が大きな役割を果たしている。とくに、信用保証は(金融機関によるプロパー融資が少ない)小規模企業の事業承継に特に大きな役割を果たしている。⑦税理士や会計士は相談先としては最も多いが、相談が有益であったという比率には改善の余地が残る。⑧事業者においても、中長期の経営計画をきちんと持って事業の磨き直しをするなど後継者に承継してもらいやすい状態にしておくこと、早期の段階で信頼できる外部者に相談し、自ら準備を行うことも重要である。

連絡先

神戸大学経済経営研究所
家森 信善
E-mail: yamori@rieb.kobe-u.ac.jp

神戸大学経済経営研究所
尾島 雅夫

摂南大学経済学部
小塚 匡文

神戸大学経済経営研究所非常勤講師
橋本 理博
日本語