RIBEセミナー・兼松セミナー
ワークショップ「学際的会計研究へのいざない」
ワークショップ「学際的会計研究へのいざない」
RIEBセミナー/兼松セミナー/日本経済会計学会/神戸大学大学院経営学研究科共催
日時 | 2025年6月22日(日)12:30 ~ 16:00 |
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会場 | 神戸大学六甲台第1キャンパス |
対象 | 神戸大学現教員および院生の方 |
使用言語 | 日本語 |
備考 | 当ワークショップは、「日本経済会計学会第42回年次大会」のプログラムの一環で開催いたします。 ご参加希望の方(神戸大学教員および院生のみ)は下記「参加登録フォーム」より、必要事項を入力の上、送信してください。 |
参加登録 | ※事前登録制です。下記より参加登録をお願い致します。追って、詳細をご連絡いたします。 参加登録 締切:6/15 |
12:30~12:40 座長解題
- 報告者
- 田口 聡志(同志社大学大学院商学研究科)
- 解題要旨
- 最初から「ちゃぶ台返し」のようで恐縮であるが、座長(田口)は、自分自身のことを、⼀般的な意味(?)での「学際的」研究者だとは⼀度も思ったことはない(どちらかというと「会計学」からは完全にこぼれ落ちてしまった、いわば「落ちこぼれ」研究者である)。
そして、⼀般的な意味での「学際的」には、しばしばネガティブなイメージがつきまとう。形式的な分野横断、借り物の手法を振りかざす、中途半端な立ち位置…など、残念でネガティブなイメージである。しかし今回、我々が論じたいのは、このような「ネガティブ&なんちゃって学際」ではない。
それでは、今回の統⼀論題に掲げる「学際的会計研究」とはなにか。ここでは、会計・監査に係る経済現象を対象としつつも、既存の「会計学」の枠組みを所与の前提にはしない(ナチュラルに無視する)研究を指すものとしたい。つまり、既存の学問領域から、いい意味で「こぼれ落ちて」いる研究である(これをいま、暫定的に「リアル学際」「シン・学際」とよぶことにする)。さらに、論題に敢えて「いざない」と付けたのは、特に若手研究者・院生が、「何だかよくわからないけど、楽しそう!」「今はすぐできないが、いずれは…」と感じる明るい話をしたいという趣旨である。
そして、なぜ、いま学際的会計研究なのかについて、端的には、テクノロジーの進展による会計実務・会計研究の⼤きなゆらぎが挙げられる。生成AI が経済社会に進展するスピードは速く、会計実務を大きく変容させている。さらに、新しいテクノロジーは、我々の研究手法やプロセス自体も大きく変えようとしている。その意味で、科学が担うべき役割や研究者の役割が、まさにいま問われているといえる。そして、このような学問のゆらぎにおいては、「こぼれ落ちた」研究 ―つまり、「リアル学際」「シン・学際」が、その羅針盤ないし「道先案内⼈」になるのかもしれない。これは、あくまで1つの⼤きな「仮説」であるが、当日の討論においては、この点をはじめ、未来の会計研究のあり方を深掘りしていきたい。
報告者の3先生は、いい意味で会計学を「こぼれ落ち」(!)(座長のような「落ちこぼれ」では決してない)、かつ未来の会計研究の⼀翼を担うと目されるフレッシュな研究者である。さらに、討論者の2先生は、座長がかつて「『ルビコン川』を渡った」(田口 2015, 2025)先で出会った、実験社会科学および実験経済学領域の「戦友」であり、「Nature Communications」誌など海外の有力Journalに精力的に論文を連ねるなど、国際的にも活躍する先端的な(まさに「リアル学際」な)研究者である。報告者、討論者、そして、会場の先⽣⽅とともに、未来の会計研究を、そして未来の経済社会の「行く末」を、(現代社会の変化の速さに敢えて逆らって)ゆっくり、そしてじっくりと、考えることができたら幸いである。
12:40 - 13:15
- 論題
- 協力ゲームによる会計制度の公理的分析-減価償却を題材に
- 報告者
- 荒田 映子(慶應義塾大学商学部)
- 概要
- 本報告では,報告者が行ってきた協力ゲームを用いた減価償却を分析する試みを紹介するが,その前提として,統一論題のタイトルである「学際的研究」とは何か,を問い直したい。報告者自身は,当初から「学際的研究」を志してきたわけではない。会計基準の構造をより深く理解するための納得のゆく方法を模索するなかで,協力ゲーム理論という非常に興味深い外部の理論に出会い,それを長年かけて咀嚼し,理論が明らかにすることと自らの問いを行き来しながら,応用可能なかたちに少しずつ消化してきた。その結果,当初は他分野の“ 借りもの”だったモデルも,次第に自分の問題意識に即した分析の道具として,手になじむようになってきたように感じている。その意味で,本研究は「異分野の手法を用いている」という形式的な意味での学際性というよりも,外部の理論を自らの問いに即した形にまで整え,会計制度の分析に適用してきたという点で,ある種の“手のかかる”学際的研究であるといえるかもしれない。また,会計学のメインストリームとはまったく異なる手法を用いているために,当該分野内でのシステマティックな評価を得ることが難しく,理論の確からしさを担保するために他分野の学会や査読に頼らざるを得ないという事情もある。本研究は,手法の選択や応用の段階で,その妥当性や含意について,会計学の外の視座と対話することが求められており,そうした試行錯誤の過程そのものが学際性の本質であるとも考えられる。
報告では,減価償却方法の妥当性を分析する協力ゲームを紹介する。減価償却は一般には「計画的,規則的」に行わなければならないとされるが,すべての「計画的,規則的」な方法が実務で採用されているわけではない。そこで実務で採用されている減価償却方法がどのような意味で「計画的,規則的」なのかを明らかにするために,減価償却の手続きを協力ゲームで定式化し,そこでよく用いられる解概念が有しているとされる性質(公理)を,定額法や定率法といった各償却方法が満たしているかどうかを確認する。また,これらの公理間の論理的な関係も明らかにする。このような分析から,たとえばすべての別払い可能な協力ゲームでは必ずしも成立するとは限らない公理間の論理的関係が,減価償却ゲームに限定すると成立することが示される。これにより,減価償却(あるいは会計手続き)特有の性質が浮かび上がる。また,多くの先人たちが指摘するように,事前に最適な会計基準を規定することは不可能だが,Generally Accepted とされる会計手続きの背後にある公理とその論理的関係を整理しておくことは,望ましい手続きを考える際に有効となろう。いいかえれば,たとえ現在のルールが望ましいかどうかわからなくても,その性質を整理しておくことは長期的に意味がある。
この研究は,数理システム論や数理経済学の研究者との協働を通じて進めてきた。分野が異なるので役割分担が明確になりがちではあるが,報告者は会計的視点を丁寧に説明し,同時に相手の理論や証明を理解する対話を重ねてきた。証明も可能な限り自らの手で行い,その過程を通じて会計制度の本質が垣間見えるような瞬間があることは,研究上の大きな喜びである。こうした経験をふまえ,「学際性とは何か」を形式ではなく過程として捉える視点を,本報告で提示できればと考えている。一方で報告者と,今の若い世代とでは,社会から要請される役割や業績の出し方も大きく異なっている。現代のアメリカ型の研究者評価制度が導入されつつあるなかで,ここで示すような“手のかかる”学際的研究が,今後も実現可能であり続けるかについては,慎重に考える必要があると感じている。
13:15 - 13:50
- 論題
- テキスト分析及びオンライン実験を用いた会計研究
- 報告者
- 廣瀬 喜貴(同志社大学商学部)
- 概要
- 報告者は、これまでに三つの主要な研究領域で活動してきた。第一に、ゲーム理論を応用したラボ実験研究では、公認会計士試験合格者と監査法人のマッチング改善や、自主規制団体による自浄作用の重要性を明らかにした。第二に、自然言語処理の手法を用いたテキスト分析研究では、経営分析、ディスクロージャー、不正会計、監査の観点から文字情報に関する研究を実施した。MD&A についてリーダビリティ(可読性)の観点から共同研究を行い、制度導入以来 MD&A が読みやすくなってきていること、IFRS の任意適用により MD&A の文字数は減少するが難易度は変化しないこと、不正企業の MD&A は難易度が高く、不正を行った企業の経営者は文字情報を読みにくくする傾向があることを明らかにした。
第三に、オンライン実験研究では、経営者によるプレス・リリースについて、読みやすい開示を行っている企業は、読みにくい開示を行っている企業よりも企業価値が高く評価される現象を観察した。この実験では、特に業績不振企業においても読みやすい開示が高評価につながることが判明した。これは経営者が戦略的にリーダビリティを操作する可能性を示唆している。現在の研究では、BERT を用いた機械学習・深層学習アプローチによる公会計文献のトピック分類、リーダビリティとトーンが投資家に与える影響の分析、Key Audit Matter の読みやすさが投資家に与える影響、監査法人の交代に関するインタビュー調査と実験研究の組み合わせなど、テキスト分析及びオンライン実験の手法を用いた研究に取り組んでいる。
特に生成 AI と監査の関係については、2022 年の ChatGPT 公開以降、学術界で急速に研究が進展している。現在の研究では、監査人と生成 AI による共同監査が監査実務をどのように変革するのかという点に焦点を当てている。先行研究では、実務界・学術界の双方において、生成 AI は公認会計士に置き換わるものではなく、公認会計士と生成 AI が共同で(協働して)監査をすることが望ましいという共通認識が形成されつつあることが報告されている。
14:00 - 14:35
- 論題
- 行動契約理論的研究によるマネジメント・コントロールの拡張と応用
- 報告者
- 若林 利明(早稲田大学商学学術院)
- 概要
- 本報告では、マネジメント・コントロールの手段を会計的なものに加えて、行動的なものの併用へと拡張すべきであるのはいかなる状況のときであり、いかなるメカニズムで組織コントロール(望ましい行動を引き出すこと)に資するのかを、若林(2024)および Wakabayashi(2023)に基づき紹介する。これらは、会計事象を心理学の要素を取入れた経済学の理論を用いて説明する、学際的研究の一例に該当すると考えられるからである。
マネジメント・コントロールとは、他人に委任した意思決定のコントロールと定義されることが多く、その問題意識の中心にはエイジェンシー関係がある。業績指標と報酬を結びつけることはマネジメント・コントロールのための有用な手段となる。本報告ではこのような「会計的」な手段に加えて、行動目標の設定など「行動的」な手段を併用することを検討する。 例えば、従業員が取るべきふさわしい行動の目標や指針を明示的に定めている企業は多い。また、目標管理(MBO)や総合的品質管理(TQC)でも行動に関する目標を重視している。しかし、経営者は従業員の行動を完全に知ることはできないから、経営者は「行動指針」から逸脱した行動を指摘することも困難であろう。では、企業は何のために行動の目標や指針を定めているのであろうか。本研究はこれを説明するためにアイデンティティ(帰属意識)の媒介としての役割に着目している。アイデンティティとは、自分がどのようなカテゴリーに属しているかという個人の心理的意識であり、その意識は規範を守る姿勢に相違を生じさせる。 本報告では契約理論に依拠する数理モデル分析の結果を通じて、例えば特定の業種、テレワークなどの働き方、新卒や中途入社などの採用のあり方、あるいは M&Aなどの全社戦略の特徴などに応じて、どのような管理手法が最適になるのか具体的な指針を明らかにする。
14:45~16:00 統一論題討論
14:45 - 14:55
- 論題
- 討論(1)
- 報告者
- 上條 良夫(早稲田大学政治経済学部)
14:55 - 15:05
- 論題
- 討論(2)
- 報告者
- 後藤 晶(明治大学大学院情報コミュニケーション研究科)