科学研究費補助金による研究(令和4・5年度)

基盤研究(S)

研究課題

包括的な金融・財政政策のリスクマネジメント:金融危機から国際関係・災害リスクまで(令和2~6年度)

研究組織

上東 貴志(研究代表者)、西村 和雄、Charles Yuji Horioka、髙橋 亘、北野 重人、敦賀 貴之、堀井 亮、関 和広、多湖 淳、小林 照義、柴本 昌彦

研究目的

財政破綻のリスクは過去10年以上にわたって叫ばれているが、実際に破綻するか否かは意見が分かれる。その大きな理由としては、財政破綻リスクは直接的には観測でない上に、トレンドから大きく逸脱するようなリスクは現在のマクロ経済学の標準的な手法では推定はできないことがあげられる。さらに、近年、日本では自然災害による甚大な被害が多発し、国際関係でも緊張感が高まっており、経済システム外からのリスクも無視できない。本研究の目的は、計算社会科学の分析手法とスーパーコンピュータ技術を駆使することにより、直接的に観測できないリスクを推定し、適切に対応できる包括的な金融・財政政策を導出する手法を確立することである。


基盤研究(B)

研究課題

世代間移転と社会経済的地位・格差の継承に関する実証分析(平成30~令和4年度)

研究組織

Charles Yuji Horioka(研究代表者)、新見 陽子

研究目的

これまでの研究では、世代間における社会経済的地位の相関が強く、社会経済的地位が代々継承される傾向にあることが示されている。しかし、親から子への世代間移転(親から子への教育投資や遺産、生前贈与など)が、世代間の社会経済的地位および格差の継承にどの程度貢献しているのかは明確にされていない。そのため、本研究の目的は、親から子への様々な形の世代間移転が、世代間の社会経済的地位の継承、またそれに伴う格差の継承にどの程度貢献しているのかを、日本などからの個票データを分析することによって明らかにし、格差を軽減するための政策提言を行うことである。本研究の貢献は、(1)世代間の社会経済的地位および格差の継承における世代間移転の役割について検証している点、(2)親から子への移転を網羅的に捉え、様々な形の世代間移転を考慮している点、(3)国際比較を行っている点、(4)経済学的な観点から分析を行っている点である。

研究課題

中国の労働市場制度と貿易構造・貿易量の関連に関する経済分析(令和元~5年度)

研究組織

趙 来勲(研究代表者)、阿部 顕三

研究目的

We examine China's labor market structure, focusing on how the labor-market reforms affect Chinese trade and FDI. We aim to build a framework that can incorporate the hukou system, the partial loosening of hukou control, and its impacts on rural-urban migration, their interplay with the surge of Chinese manufacturing, inward FDI and exports.

研究課題

貨幣モデルにおける財政・金融政策:実験によるアプローチ(令和3~7年度)

研究組織

神谷 和也(研究代表者)、小林 創、七條 達弘、清水 崇

研究目的

本研究の概要は、ミクロ経済学的基礎を持つ貨幣モデルにおいては、均衡価格および社会的余剰が異なる均衡が無限個存在することが知られており、したがって金融政策や財政政策により、どの均衡が実現するかを理論的には判断できないので、政策効果を実験により分析する研究である。つまり、実験においては一つの結果が選択されるため、被験者が政策によりどのような価格や社会的余剰を選択するかが確定する。具体的には、貨幣実験においてほとんど分析されてこなかった財政政策および貨幣量を実験途中で変化させる金融政策を分析する研究である。

研究課題

なぜ社会経済的地位は世代間で継承するのか?世代間移転の役割を中心に(令和5~9年度)

研究組織

Charles Yuji Horioka(研究代表者)、柴田 章久、宇南山 卓、照山 博司、新見 陽子

研究目的

本研究の核心をなす問いは、社会経済的地位・格差が世代間で継承されるメカニズムは何なのか、である。より具体的には、本研究では以下の3つの問いについて考察する:
(i)社会経済的地位は世代間でどの程度継承されているのか?(ii)世代間の社会経済的地位の継承、またそれに伴う格差の継承に、世代間移転(教育投資や生前贈与、遺産など)はどの程度寄与しているのか?(iii)世代間移転を決定づける要因は何であるのか?
本研究の目的は、理論・実証両面の分析を通して上記の3つの問いに答え、分析結果を踏まえて、より公平な社会を実現するための政策を提言することである。

研究課題

日本近世中後期における領主階級の利殖活動―経済史・政治史・法制史の融合―(令和5~7年度)

研究組織

髙槻 泰郎(研究代表者)、荒木 仁朗、佐藤 雄介、酒井 一輔、萬代 悠

研究目的

日本近世中後期において、領主階級、すなわち幕府・大名・公家・寺社・旗本による利殖活動の実態を解明するものである。近世の領主階級といえば、借財を重ね、その返済に苦慮していたイメージが持たれているが、領主自身の資金に、民間からの融資も受け入れて基金を形成し、それを領主名義で貸し付ける(「利殖」)ことによって得た利金を、融資した者達と領主が分け合うという動きが、18世紀中期頃から始まり、19世紀以降には爆発的に拡大していたことについてはあまり知られていない。本研究では、いつ、どのようにして領主階級の利殖活動が始まり、どのような経済的背景から拡大していったのか、その功罪とは何か、について考察する。

研究課題

デジタル化による専門職の革新:関連クロステック産業との横断的事例研究と国際比較(令和5~8年度)

研究組織

後藤 将史(研究代表者)、琴坂 将広

研究目的

本研究は、組織論と起業家論の視点から、専門職とクロステック産業が共進化する、人工知能時代の新しい専門職のあり方とその未来を検討し理論構築を行う。
具体的には、代表的専門職(法務・会計監査・医療)と関連クロステック産業の探索的事例研究を行い、近年の変化とその示唆を解明する。さらに、世界的な変化の中での日本の固有性と課題を明らかにするため、海外研究協力者と共に監査・法務につき欧・米との国際比較研究を行う。


基盤研究(C)

研究課題

市場均衡の動学的安定性と効率性に初期条件が及ぼす影響の研究(令和元~5年度)

研究組織

下村 研一(研究代表者)、瀋 俊毅、大和 毅彦

研究目的

経済の初期条件である消費者の選好・資産分布と企業の競争形態が均衡の動学的安定性と効率性に与える影響を考察する。研究では、まずなるべく単純な理論モデルを用いて一意性・複数性も含めた市場均衡の動学的安定性・不安定性の特徴づけを資産の初期分配と個人の効用関数の両面から行い、その結果を市場実験により検証したい。また、複数の寡占市場・独占的競争市場の理論モデルを用いて、動学的安定性・不安定性と総余剰の大小の特徴づけを、モデルを構成するパラメターから行い、他のすべての条件が不変な状態で、市場の競争形態あるいは企業数が変化したとき、価格、生産量、総余剰がどのように変化するかを理論分析により検証したい。

研究課題

戦前期商社の内部不祥事と経営組織(令和元~5年度)

研究組織

藤村 聡(研究代表者)

研究目的

これまで戦前期商社の人事システムを分析し、従業員の過半を学卒者(高等教育修了者)が占める人員構成や、処遇における学歴格差の稀薄さという特徴を発見した。その原因として従業員による内部不祥事に注目し、明治36年~第2次大戦期の三井物産の社報を検討した結果、不祥事には学歴による偏りが存在し、学卒者の規律意識の強さが明らかになった。今回の課題では三井物産の明治創業期~大正初年の重役会議事録を分析すると共に、件数は少ないものの長文の報告書が残る兼松や、従業員の不祥事によって突然に経営破綻した古河商事のケースも加えて、不祥事が経営組織に及ぼした負のインパクトの実態などを解明したい。

研究課題

日本の人事管理研究についての計量的学説史レビュー(令和元~5年度)

研究組織

江夏 幾多郎(研究代表者)、田中 秀樹、余合 淳

研究目的

本研究では、近年の社会科学領域において普及しつつある「システマティック・レビュー」と呼ばれる計量的な分析手法を用いて人事管理研究のレビューを行うことを通じて、当該研究領域の「これまで(状況把握)」と「これから(方針提案)」について、具体的な提言を行いたい。しかも、人事管理研究についての従来のシステマティック・レビューでは検討対象とされてこなかった「日本の人事管理研究」を検討材料とすることで、この手法の有用性の確認、手法の彫琢に加え、日本の社会的・学術的な文脈に固有の「これまで」と「これから」の提案を目指したい。

研究課題

自動車保有による子あり世帯の時間制約の緩和と、子への人的資本投資に関する実証研究(令和2~5年度)

研究組織

松尾 美和(研究代表者)

研究目的

本研究では米国の交通行動データ(National Household Travel Survey 2017)を用いることで、世帯の自動車保有が(1)子供の交通行動(2)子の送迎を含む親の時間利用(3)子の人的資本投資へ与える影響を夫々考察する。二人親家庭だけでなく貧困ひとり親家庭に絞った分析も行って貧困の再生産の要因も明らかにする。

研究課題

世界的な民間債務の拡大に潜むリスクと新興国のマクロ経済政策(令和2~5年度)

研究組織

北野 重人(研究代表者)

研究目的

本研究は、世界経済の大きなリスク要因として近年関心の高まっている、いわゆる過剰債務の問題に関するリスクと、それに対応するマクロ政策について分析を行う。特に、新興国において民間部門の債務の増加が著しい状況を踏まえ、オーソドックスな財政・金融政策のみならず、新たな政策として注目されている資本規制政策やマクロプルーデンス政策を含めて、それに対応する新興国におけるマクロ政策の効果について包括的に検討するものである。

研究課題

コーポレート・ガバナンスの変容が経営者交代と利益マネジメントの関係に与える影響(令和2~4年度)

研究組織

榎本 正博(研究代表者)

研究目的

経営者交代は経営者を規律つけるコーポレート・ガバナンスの仕組みとして経営者報酬と並び重要な機能をかたしている。本研究は、コーポレート・ガバナンス機構が変容するもとで、経営者が交代時に利益マネジメントを通じて会計情報の質にどう影響を与えるかを調査し、そこから経営者が実施する会計実務の背後に存在する規則性の推移を解明することにある。

研究課題

インドにおける内部労働市場の発達:ミクロデータとフィールド調査を利用して(令和3~7年度)

研究組織

佐藤 隆広(研究代表者)、古田 学

研究目的

企業や自営業者が労働を需要し、家計が労働を供給し、公共政策や労働法制などの政府介入に影響されながらも、労働市場において賃金を軸にした需給調整がなされる。こうした伝統的であり古典的なメカニズムに加えて、本研究は、会社内部における権威に基づく労働配分の編成にも特段の注意を払う。会社部門はインドの高度成長を支えるリーディングセクターである。この会社部門における労働配分の編成を無視して、インド労働市場の分析を行うことは不十分である。すなわち、本研究は、「市場」と「組織」の両方における労働配分メカニズムをバランスよく考察することで、インド社会における労働市場の長期動向を規定するメカニズムを明らかにする。

研究課題

慢性的な低インフレ下におけるマクロ経済と金融政策に関するマクロ実証分析(令和3~6年度)

研究組織

柴本 昌彦(研究代表者)

研究目的

バブル経済崩壊後、日本経済は慢性的な低インフレに直面している。本研究の目的は、マクロ計量経済学手法を時系列データに応用することで、慢性的な低インフレ下におけるインフレ動学、マクロ経済、金融政策の相互依存関係を明らかにすることである。そのために新たな実証分析フレームワークを提示する。具体的には、①循環的・持続的なインフレ率の変動要因、②インフレ率の変動が金融市場・実体経済に与える動学的因果効果、③金融政策の期待管理の役割を実証分析することで、低インフレ・デフレがマクロ経済に深刻な影響を及ぼしているのか、そして金融政策が物価安定にどの程度寄与したのか定量的に明らかにする。

研究課題

非相似拡大的選好と経済成長に関する理論分析(令和4~6年度)

研究組織

岩佐 和道(研究代表者)

研究目的

通常の動学モデルでは、異時点間の消費の代替弾力性が一定(CIES)で、相似拡大的な効用関数を仮定した分析が行われる。しかしこれらの仮定のもとでは、所得格差の拡大が需要構造の変化を通じて経済に及ぼす影響に関して、理論的な考察を行うことができない。本研究では、二種類の消費財が存在する二部門成長モデルに、非相似拡大的選好を導入することで、所得格差の存在や拡大が経済の成長経路や長期的均衡に及ぼす影響に関して、定性的な分析を行うとともに、定量的な分析に適したCIESの性質を有しつつ、非相似拡大的な効用関数を用いて、課税や所得移転などの経済政策の効果を定量的に評価することを目的とする。

研究課題

日本の人事管理における研究と実践の関係性の推移:体系的文献レビューを通じた検討(令和4~7年度)

研究組織

江夏 幾多郎(研究代表者)、田中 秀樹、余合 淳

研究目的

本研究では以下の問いの解明を行う。
1.人事管理における研究と実践のギャップを、先行研究ではどう論じてきたのか。
2.日本の人事管理における研究や実践のギャップは、どのような形で観察されるか。
3.今日の日本の人事管理実践において、研究知はどの程度普及しており、その傾向に何らかの偏りは確認されるか。
4.今日の日本の人事管理における研究者と実践家の関係性、研究知と実践知の関係について、研究者と実践家のそれぞれはどのように捉えているのか。

研究課題

The Power of Technology: Data Scienceで読み解く技術が及ぼす企業や国への影響(令和5~9年度)

研究組織

田中 克幸(研究代表者)

研究目的

Google、Apple、Facebook、Amazon、MicrosoftなどのIT企業の躍進は、情報という新たなインフラの創作に至るほど巨大な影響を世界に及ぼしている。これら企業の原動力である技術は、企業や国の発展や経済の活性化に大きく影響する重要な要素の1つとなっている。
本研究では、技術の力がどのような影響をどのように企業や国に及ぼしているのか、企業に関する有形・無形資産データを結びつけBigDataを作成し、さまざまなDataScience手法を用いてミクロ・マクロ両方の視点より分析し、技術と企業・国の詳細な関係メカニズムをシステマティックに解明する新たな方法論の確立していく。

研究課題

コミュニケーションシステムと都市地域空間の発展:東京一極集中と働き方改革への示唆(令和5~7年度)

研究組織

濱口 伸明(研究代表者)、後閑 利隆、近藤 恵介、後藤 啓、藤田 昌久

研究目的

Activityに応じたコミュニケーション(Activity Based Communication, ABC)を空間的相互作用の中心に置くと、在宅勤務やサテライトオフィスを場として我々の働き方が変化する一方で、現実の都市・地域空間は歴史的に形成された鉄道・道路インフラを基盤とした求心的構造にあり、両者の間に不一致が広がっている。本研究は空間経済学の理論的・実証的研究を発展させ、都市・地域空間構造の見直しを期待する社会的要請に応えようとするものである。

研究課題

経済グローバル化と所得格差:チリの家計調査データを用いた実証研究(令和5~9年度)

研究組織

村上 善道(研究代表者)

研究目的

本研究は、2000年以降のチリを対象に、9時点の家計調査データを用いてグローバル・バリューチェーン(GVC)の参加度・上流度と鉱物価格変動が技能労働者の賃金プレミアムに与えた影響を分析する。本研究の着目する変数は、GVCの参加度・上流度は労働者の属する産業によって外生的に異なり、鉱物価格は労働者の居住する地域の労働市場でどの程度当該産業が存在するかで外生的に異なる。従って、本研究は、個人レベルの家計調査データに産業または地域レベルのパネルデータをマッチさせて差分の差分法を用い、これらの因果的効果を明らかにする。

研究課題

利害関係者と利益の質:ステークホルダー資本主義から株主資本主義へ向かう日本の分析(令和5~7年度)

研究組織

藤山 敬史(研究代表者)

研究目的

従来、日本の国レベルのコーポレート・ガバナンスは多様な利害関係者を重視するステークホルダー型であったが、米英のように株主をより重視する株主型へと向かって変化してきている。会計学ではこの国レベルのコーポレート・ガバナンスが利益の質(性質)に影響を及ぼす要因として議論されてきた。また、各利害関係者が望む利益の質はかならずしも一致するとは限らない。このような学術的・社会的背景の下、本研究では、それぞれの時代の利害関係者(銀行、従業員、取引先、外国人株主)が利益の質(利益平準化や保守主義、利益調整など)にどのような影響を与えてきたのかを検討する。

研究課題

大株主の属性と会計情報(令和5~7年度)

研究組織

榎本 正博(研究代表者)

研究目的

本研究は大株主の属性と会計情報の関係を対象とする。具体的には大株主がその介入や退出を背景に、企業のガバナンス構造を通じて会計情報に与える影響を、各大株主の属性とその相互関係を考慮して検討する。また大株主が産業内の複数の企業の株主となっている「共通株主」にも注目する。共通株主は情報処理・監視コストが低減するため効率的な行動が可能になる。その結果として会計情報にどのような変化があるかを共通株主の属性を考慮して検討する。


挑戦的研究(萌芽)

研究課題

人生100年時代の高齢社会に求められるファイナンシャルプランニング論の構築(令和3~5年度)

研究組織

家森 信善(研究代表者)、祝迫 得夫、上山 仁恵

研究目的

従来、若中年家計がいかに資産を蓄積・運用するかが議論され、高齢家計の金融行動に焦点を当てた議論は乏しかったが、金融資産の取り崩し方法や判断能力が衰える中での金融助言者の活用など、高齢者特有の金融問題が高齢社会を迎えた日本において顕著になってきており、新しい研究が必要になっている。そこで、人生100年時代を迎えた日本において高齢者が安心して暮らせるためにどのような金融リテラシーが必要か(助言者の適切な利用を含む)を、家計アンケートの結果を利用して明らかにして、高齢者のためのファイナンシャルプランニング論の構築に挑戦する。

研究課題

現代的「職人」の組織化理論構築:杜氏制度をめぐる新たな組織化の探索的事例研究(令和5~7年度)

研究組織

後藤 将史(研究代表者)

研究目的

本研究は、日本酒産業を題材に、伝統的杜氏制度を補強する、企業や社会を巻き込んだ新しい知識継承と再活性化の動きについて研究を行う。消滅の危機にある伝統的な専門的職業者(職人)の制度は、企業や技術の力を借りてどのように継続していくのか。本研究は、杜氏制度とそれにまつわる近年の変化の事例研究を通じて、日本酒産業以外も含む伝統産業の保全と持続に対する実務的な示唆を抽出することを目指す。


若手研究

研究課題

資源豊富国における海外直接投資と国内企業の生産性:チリにおける事例研究(令和2~5年度)

研究組織

村上 善道(研究代表者)

研究目的

外国直接投資(FDI)の受け入れを通した技術移転が新興国における国内企業の生産性向上の重要な経路であることは広く知られており、資源関連産業であっても製造業同様、多国籍企業へ中間財を供給することによる後方連関効果によって、国内企業の生産性向上がみられるかは、新興国の経済発展にとって重要な点である。本研究は経済パフォーマンスが良好な資源豊富国である南米チリを事例として、事業所レベルのパネルデータセットを作成し、多国籍企業がどのような特性を持つ場合に中間財を海外から輸入するのではなく現地調達を行うかに関して、多国籍企業が生産する財のグローバル・バリューチェーン(GVC)における位置に着目して実証分析を行う。

研究課題

革新的技術の台頭が専門職組織と制度にもたらす変化に関する事例研究(令和2~4年度)

研究組織

後藤 将史(研究代表者)

研究目的

本研究は、人工知能をはじめとする革新的技術が、公認会計士や弁護士など専門職のあり方とその組織をどう変えるかを明らかにする。特に、基準や制度がどのように変わるか、どのような新しい職業アイデンティティが生まれるか、ビジネスモデルがどう変化するか等を、事例から検討する。それらを通じて、革新的技術が人間の専門性のあり方をどう変化させ、人工知能時代の専門性とはどのようなものになるかを探索する。

研究課題

従業員と会計情報・ディスクロージャー(令和2~4年度)

研究組織

藤山 敬史(研究代表者)

研究目的

本研究は(1)従業員が企業についてどれだけ知っているのか、そして、(2)従業員と関連してコストや利益の性質がどのようになっているのかを検討する。研究(1)では、労使交渉においてどのような情報が企業と従業員の間で共有されているのかを調査する。さらに、早期・希望退職の募集に従業員がどれだけ応じるのかについて株式市場がどのような判断をするのかについて分析する。研究(2)では、日本企業の人件費が売上高の変化に対してどのように変化するのかを分析する。さらに、時系列での利益の変動性が各国の労働法制の違いによってどのように異なるのかを分析する。

研究課題

アントレプレナーの行動バイアスと企業行動(令和3~6年度)

研究組織

髙橋 秀徳(研究代表者)

研究目的

我が国の産業競争力を強化するため、政府は規制改革や、企業の収益力向上に向けた事業再編や起業促進などの産業の新陳代謝を進めている。このような企業とアントレプレナーを取り巻く外部環境の整備とともに、企業およびその経営者がどのように投資機会・事業機会を認識し行動するのかという心理プロセスを理解することも重要である。本研究では、企業行動や起業活動における意思決定者の心理的要因および心理的バイアスの役割を明らかにする。

研究課題

高齢化社会の介護と就業に関する政策評価分析(令和2~4年度)

研究組織

明坂 弥香(研究代表者)

研究目的

この研究課題は、研究A:介護サービス拡充が介護者に与える効果のシミュレーション分析、研究B:夫の就労延長が妻の就労期間に与える影響の分析の二つの研究で構成される。
研究Aでは、介護サービスの利用が介護者の就業に与える効果だけでなく、健康状態や消費行動に与える影響を推定する。また、利用者間で効果に異質性があることを想定し、現在サービスを受けていない人々がサービスを受けた時の効果を調べる。
研究Bでは、法定退職年齢引き上げの影響を用いて、夫婦の就業決定パターンを明らかにする。定年延長という家計に負の所得ショックを与えない就業の変化が生じた時、配偶者がそれを受け、どう就業行動を変えるのか調べる。

研究課題

母親の教育と子供の健康:独自アンケート調査とランダム化比較試験による実証分析(令和5~9年度)

研究組織

石川 祐実(研究代表者)

研究目的

母親の教育が子供の健康に与える影響とその背景を分析する。[研究1]で母親の教育年数が長くなれば子供の健康状態が向上するかを明らかにする。[研究2]で母親の教育年数が長くなれば子供への健康投資を増やすか、子供への健康投資が増えれば子供の健康状態が向上するかを明らかにする。[研究3]で教育的情報介入は子供への健康投資を増やすかを明らかにする。三つの研究を通じて女性の教育が次世代の子供の健康状態の向上を支えられる可能性があるのか、に答える。また、背景のパスと教育的情報介入の因果効果を検証することによって、すでに低学歴の母親の子供に対して、どのような方法で教育水準の効果を補うことができるかに答える。

研究課題

地球温暖化が子どもの学習に及ぼす影響とその対策(令和5~7年度)

研究組織

明坂 弥香(研究代表者)

研究目的

地球温暖化やそれに伴う異常気象が、人々の生活に与える影響が問題視されている。大人への影響もさることながら、子どもへの影響は人的資本の蓄積や発育の過程を通じ、より大きく長期的なダメージとなる可能性がある。本研究では、「子どもが経験する暑さが、学習成果等の人的資本蓄積に負の影響を与えるか」を検証する。さらに教室の空調設備等、子どもが過ごす環境を整備することによって、暑さが子どもに与える影響を緩和できるか」を検討する。温暖化による暑さ対策は、世界共通の問題であり、本研究の分析結果は国内外において、今後の方策を検討するための重要なエビデンスとなりうる。

研究課題

The choice of partial versus full acquisition modes in cross-border deals and the contingent role of industries(令和5~6年度)

研究組織

Ahmed Kashif(研究代表者)

研究目的

We know little about how industry affects the focal relationship between formal institutional distance and the acquisitions modes. Specifically, I am interested in researching about how acquirer and target industry factors (categorical classification as well as characteristics such as concentration and growth) moderate the focal relationship between formal institutional distance and the acquisitions modes.


国際共同研究加速基金

研究課題

前近代経済における公共投資の実施形態に関する清朝中国と徳川日本の比較研究(令和元~4年度)

研究組織

髙槻 泰郎(研究代表者)

研究目的

18世紀末までは、東アジア、インド、ヨーロッパの経済発展の水準はほぼ横並びであり、アジアとヨーロッパが「大分岐」を起こしたのは19世紀以降であるということは定説となっている。一方、18世紀における中国の発展が直ちには工業化に結びつかなかったのに対して、18世紀のアジアの中では比較的遅れていた日本が19世紀後半から急速な工業化を遂げたのはなぜかという問題(「小分岐」)については、今まさに国際的な議論が活発に行われている研究課題である。
そこで、本研究課題では、清朝中国と徳川日本における公共財投資の実態を比較する。公共財の存在は工業化の前提条件となるため、19世紀以降の両国の差を生んだ要因を解明する上で有効である。具体的には、公共財投資が民間の地域リーダーの資本によって担われた清朝中国と、幕府によって指名を受けた大名が豪商から調達した資本によって大規模公共財投資を実施した徳川日本の比較を行う。


研究活動スタート支援

研究課題

父親の育児休業取得の促進要因とその効果(令和4~5年度)

研究組織

石川 祐実(研究代表者)

研究目的

なぜ日本で父親の育休取得が進まないのだろうか。本研究では、その促進要因と効果を検証する。[研究1]では個人、家庭、職場に着目し、各レベルにおける促進要因を炙り出す。[研究2]では、父親の育休取得が母親の就業を促進させるか、母親と子供の健康を増進させるかを明らかにする。
二つの研究を通じて父親の育休取得率向上を目指すための基礎統計を提供する。本研究は実験や計量上の工夫により因果効果の解明を目指す点と健康を包括的・客観的に捉える点に特徴がある。

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