科学研究費補助金による研究(平成29・30年度)

基盤研究(S)

研究課題

包括的な金融・財政政策のリスクマネジメント:理論・実証・シミュレーション(平成27~31年度)

研究組織

上東 貴志(研究代表者)、西村 和雄、高橋 亘、貝原 俊也、北野 重人、敦賀 貴之、堀井 亮、小林 照義、柴本 昌彦、小柳 義男、齋藤 政彦、佐野 英樹

研究目的

日本の政府債務は膨張の一途を辿っているが、財政破綻の可能性は10年以上前から叫ばれており、近い将来に財政破綻が起こるか否かは意見の分かれるところである。その大きな一因は、財政破綻リスクは直接観測できないことであると考えられる。
しかし、東日本大震災で経験したように、深刻なリスクは事後的に初めて認識されることが多い。本研究の目的は、これまでの研究代表者の共同研究の成果に基づき、最新のスパコン・シュミレーション技術を駆使して、バブル崩壊・金融危機・財政破綻のリスクを事前に推定し、これらのリスクに適切に反応する包括的かつ最適な金融・財政政策を導出する手法を確立することである。
さらに、多層的金融ネットワーク・モデルを構築し、同様の技術により、危機発生後の危機管理の手法の確立も目指す。


基盤研究(A)

研究課題

日本型経営システムの形成と発展プロセスの研究(平成28~31年度)

研究組織

伊藤 宗彦(研究代表者)、西谷 公孝、遠藤 貴宏、松本 陽一、榎本 正博、濱口 伸明、髙槻 泰郎、上東 貴志

研究目的

東京証券取引所と金融庁が策定したコーポレートガバナンス・コードが本年度から開始された。
従来、我が国のコーポレート・ガバナンスは企業の永続的成長を目指し、経営者と株主との関係よりもむしろ、企業と従業員、金融機関、顧客、取引先との長期的信頼関係を基に構築され、日本型経営と呼ばれてきた。
しかし、優れた経営を担保するための制度や慣行は少しずつ変容し、不祥事が表面化したり、経営破たんする企業が増えてきた。
神戸大学が所蔵する企業原資料、中でも、鐘紡資料には100年以上に及ぶ稟議書や帳簿などがほぼ完全な形で残されており、日本型経営の発生プロセスとその本質を明確化できる第1級の資料と考えられる。

本研究では、鐘紡資料を基に、企業の発生から成長、成熟段階の経営者の意思決定プロセスを分析し、日本型経営システムの本質を再定義することにより、企業のコーポレート・ガバナンスの在り方を提言したい。


基盤研究(A)(海外)

研究課題

南アジアの産業発展と日系企業のグローバル生産ネットワーク(平成29~33年度)

研究組織

佐藤 隆広(研究代表者)、石上 悦朗、西山 博幸、絵所 秀紀、加藤 篤行、西 尾 圭一郎、長田 華子、上池 あつ子、宇根 義己、鎌田 伊佐生、内川 秀二、 安保 哲夫、上野 正樹

研究目的

本研究の課題は、目覚しい経済成長で日本企業から最も注目されているインド ・南アジア経済を、経済学・地域研究・経営学・地理学という多様なディシプリンからなる混成研究チームによって、その産業発展の特殊性と普遍性のみならず南アジア進出日系企業がその産業発展に果たす独自の役割にも焦点を当てて実証的に分析することである。

本研究は、日系企業のグローバル生産ネットワークによる南アジア産業発展の再編をハイブリットモデルと新新貿易理論をベースにして産業のみならず企業単位も含めて実証的に分析する。また、新しい政治経済学の立場から、南アジア産業発展の政治経済学も分析する。本研究によって、政治経済学的制約のもと、日系企業が南アジア産業発展に果たす役割が明らかにされ、南アジアの経済成長の長期展望が得られることが期待でき る。


基盤研究(B)

研究課題

地域創生のための地域金融機関の役割に関する研究(平成27~29年度)

研究組織

家森 信善(研究代表者)、栗原 裕、濱口 伸明、播磨谷 浩三、打田 委千弘、小川 光、北野 重人、近藤 万峰、冨村 圭

研究目的

本プロジェクトの問題意識は、既存企業を保護するだけでは地域経済の衰退は止まらず、地域創生のために創発的企業展開(新商品の開発、新産業への展開、さらには、新規性を持つ企業の創業など)を金融面からサポートしていくべきだという点にある。
そこで、地域金融機関の経営や金融行政の側面に焦点を当て、独自性のある金融機関アンケート調査を活用して創発的企業展開を実現するための課題を明らかにする。

本プロジェクトの最終的な目的は、リレーションシップバンキングや金融市場の競争の質に関する学術的な分析に基づいて、地域経済が直面する課題に対応できる地域経済政策のために金融面からの具体的政策提言を行うことである。

研究課題

ラテンアメリカ発展停滞のパズル(平成28~30年度)

研究組織

濱口 伸明(研究代表者)、高橋 百合子、村上 勇介、桑山 幹夫、村上 善道

研究目的

目まぐるしく変化するラテンアメリカ・カリブ諸国(LACs)の政治経済変動を理解するための分析枠組として、この地域の固有性が取り入れられた構造主義的アプローチによる、政治学と経済学の融合的研究を行う。本研究により、(1)新自由主義改革がなぜLACsの繁栄につながらなかったのか、(2)「黄金の10年」の社会的成果がすでに脆弱さを見せているのはなぜか、(3)これまで行われた諸改革が持続的な制度構築と高質なガバナンスに反映されたと評価できるか、(4)国民の経済的厚生水準の上昇と安定につながらない企画を決定したことで代表制民主主義への信頼が揺らぎ、ともすると汚職や非正規の取引がもの求められるのはなぜか、等の重層的な問題から成る「LACs発展停滞のパズル」の全体像が明らかになる。

研究課題

貨幣のサーチ・モデルにおける価格の決定要因:理論と実験(平成28~32年度)

研究組織

神谷 和也(研究代表者)、小林 創、七條 達弘、清水 崇

研究目的

貨幣のサーチ・モデルには、一般に広く価格及び社会的余剰が異なる均衡が無数に存在することが知られている。
この無数に存在する定常均衡を使い、外生的ショックにより(定常均衡内で)ダイナミックに変動する現実的な状況を表現することができ、金融政策の効果の理解に飛躍的な進歩をもたらす可能性がある。

そこで、当該研究は、カギとなる価格決定の要因に理論・実験両面から接近し、金融政策をはじめとする政策立案に貢献する知見を得るための実験を行い、実際の経済主体がどのような均衡・価格を選択するかを明らかにする。さらに実験結果から新たな均衡選択理論を構築する。

研究課題

人的資本と経済成長(平成28~32年度)

研究組織

西村 和雄(研究代表者)、上東 貴志、岩佐 和道、八木 匡

研究目的

我が国の経済成長は四半世紀に渡り低い水準にとどまり、2014年の一人あたりの名目GDPでは、日本は27位と9位のシンガポールや10位のアメリカに水をあけられた。経済成長と教育の効果が、国の競争力・豊かさ・大学の位置づけに関係しているのは明らかといえる。

本研究は、人的資本の経済成長における役割について、理論、実証の立場から分析を行う。経済成長モデルで、人的資本の蓄積や世代間の公平性について理論的に分析を出し、教育投資の生産性への寄与について、幼児教育についての実証研究を行い、生産性や幸福感への効果を分析する。

研究課題

両替商金融から近代金融へ:新資料に基づく加島屋久右衛門と鴻池屋善右衛門の比較研究(平成28~30年度)

研究組織

髙槻 泰郎(研究代表者)、宮本 又郎、結城 武延、小林 延人

研究目的

本研究は、近世大坂両替商による資本蓄積過程と近代的金融機関への移行過程を分析することにより、我が国の経済が明治以降に急速な成長を遂げた背景を考察するものである。

近世大坂の大両替商は、幕末に向けて収益を低下させ、明治初頭の銀目廃止によって打撃を受けたと一般的に理解されており、近世の金融市場と近代のそれとは断絶するかのように描かれてきた。
近年の研究によって、商人が利用する手形決済ネットワークが移行期においても機能していたことが明らかにされているが、大両替商の動向については、依然として不明な部分が多く残る。

そこで本研究は、近世・近代大坂の金融界を牽引した商家・廣岡家の新発見資料を第一の検討素材として、両替金融がいかにして近代金融へと移行していったのかを具体的に描き出すことを目指す。

研究課題

企業の構造改革における参入・撤退・資源の再配分:半導体産業の実証研究 (平成29~32 年度)

研究組織

松本 陽一(研究代表者)、中川 功一、渡辺 周

研究目的

企業が永続的に存在しつづけるためには、変化し続ける環境に合わせて自らも変化しなければならない。
そのために事業の見直しは重要な課題である。これは新規事業への進出と既存事業からの撤退によって行われるけれども、それには資源の再配分がともなう。社会制度上も法制度の面からも人員削減を避けたい日本企業としては、既存事業の人員を再配分できなければ、たとえ低収益事業であっても簡単には撤退できない。資源の再配分は事業の構造改革を実現するための、ひとつの重要な鍵である。

本研究では半導体産業を対象とする独自のデータベースを構築し、撤退と参入および資源の再配分の類型化を行い、事業構造の変革の成功要因を明らかにする。個別製品の販売動向まで補足可能なデータベースを構築し、従来の研究が実現できなかった程度の精細度で分析を行うのが本研究の特色である。


基盤研究(C)

研究課題

手持ち現金が経済人の合理性に与える効果の分析:経済実験によるアプローチ(平成27~29年度)

研究組織

瀋 俊毅

研究目的

本研究の目的は、現金を目にすることが人々の合理性にどのような効果を与えるかを探ることである。さらに、集団で行う経済活動に手持ち現金がどのような効果を与えるかについても研究を行う。

我々が行う経済活動には、個人ではなく集団で行うものが非常に多い。そのため、現金を目にすることが集団で行う経済活動に与える効果を分析することは重要である。
現金が人々の行動や合理性に与える影響が明らかになれば、その知見を人々の行動をより望ましい者に変えるような政策立案に役立てることが可能となる。

研究課題

統合報告書の実証的日英比較研究(平成27~29年度)

研究組織

西谷 公孝

研究目的

現在、財務情報と同様にサステナビリティ情報が企業の存続を判断するための重要な情報として注目されつつあり、それらを統合した統合報告の普及の可能性が世界的に叫ばれている。
本研究では、統合報告研究の世界的な第一人者であるロンドン大学のJ.ユナマン教授と協力して、サステナビリティ情報開示が進んでいる日英企業を対象に、サステナビリティ方向書と年次報告書という開示媒体の違いに着目し、サステナビリティ情報開示の現状から、統合報告のあり方とその普及の可能性を多角的に研究することを目的とする。

本研究は、サステナビリティ報告書と年次報告書それぞれにおける開示情報の内容をもとにその規定要因、財・証券市場への効果を実証分析し、一部で既に始まっている統合報告の結果との比較や先進企業へのインタビューを踏まえたうえで、統合報告のあり方とその普及の可能性を検証する。

研究課題

Outbound Japanese M&A and Target Employee(平成28~30年度)

研究組織

Ralf Bebenroth

研究目的

This kaken proposal is to research about outbound Japanese cross-border M&A.Already in the late 80s, several unsuccessful acquisitions by Japanese firms were reported.
In recent years, it becomes again popular for Japanese firms to overtake foreign firms.
This research investigates about human resources at Japanese target firms abroad and tries to find answer of how post-merger integrations of targets can be accomplished successfully.

研究課題

先進国の金融政策正常化により新興国において発生するリスクに対するマクロ経済政策(平成28~31年度)

研究組織

北野 重人

研究目的

本研究は政界経済の大きなリスク要因として近年関心の高まっている、先進国の金融正常化後に生じる可能性がある新興国からの資本流出や危機に関して、それに対応する主要な3つのマクロ政策(金融政策、資本規制政策、為替相場制度の選択)について分析を行う。

主な研究の目的は、マクロ経済学において近年活発に研究が進んでいる金融市場の不完全性、不完備性等を考慮した金融フリクションに関するモデルをより明示的に導入することで、金融部門が未発達である新興国のマクロ政策に関して、これまでの研究よりも現実妥当性の高い政策評価を行うことである。

研究課題

動学的貿易モデルを用いた経済発展と所得格差に関する理論分析(平成28~30年度)

研究組織

岩佐 和道(研究代表者)、趙 来勲

研究目的

国際貿易が経済発展や各国の所得分配に及ぼす影響に関して、これまで多くの研究がなされてきた。しかし貿易モデルをもちいた理論分析では、通常、家計の選好として相似拡大的選好が仮定され、さらに動学的貿易モデルにおいては、一定の時間選好率が仮定されてきた。
これらの仮定は分析を大幅に簡便化する一方で、現実のデータとは整合的ではないことが実証研究から明らかにされている。

本研究の目的は、非相似拡大的選好および内生的時間選好を導入することで、より現実に即した動学的貿易モデルを提示し、それらのモデルの基本的な性質を明らかにするとともに、長期的な貿易利益や貿易と各国間の所得格差等に関する理論分析および政策の提言を行うことである。具体的には、(1)生産の外部性、(2)内生的時間選好と所得格差、(3)内生的時間選好と不決定性、及び(4)多数財に対する非相似拡大的選好に関してモデルを構築し理論分析を行う。

研究課題

ミクロデータからみたインドの人口・労働・不平等の長期動向(平成29~31 年 度)

研究組織

佐藤 隆広

研究目的

本研究「ミクロデータからみたインドの人口・労働・不平等の長期動向」は、近年、若年層が豊富に存在し経済成長も著しいインドを分析対象に設定し、全国家族健康調査(NFHS)、全国標本調査(NSS)と年次工業調査(ASI)のミクロデータを用いて、1980 年代から最近までの人口・労働・不平等の長期的な動向を分析することを目的とする。

本研究は、第一に、ミクロデータを用いて、1983 年から現在までの30 年間にわたる人口・雇用・賃金を地域別・男女別・教育別・産業別・従業上の地位別・カースト別・宗教別に推定し直して首尾一貫したインド人口・労働統計を再構築することを試みる。

第二に、出生率・労働需給・賃金・不平等の決定要因に関する定量的な実証分析を行うことを通じて、インド労働市場の長期動向を規定するメカニズムを明らかにする。

研究課題

実証分析による金融市場・実体経済における金融政策の役割の再検討(平成29~ 32 年度)

研究組織

柴本 昌彦

研究目的

金融市場・実体経済における金融政策の役割を理解するには経済理論モデルを用いることが必要不可欠であるが、その現実妥当性は現状では限定的である。特に、標準的な経済理論が想定している金融政策は現実の金融政策運営と整合的ではなく、現実のデータは理論モデルの含意を必ずしも統計的に支持しない。

本研究の目的は、マクロ計量経済学手法を現実のデータに応用することで総需要・総供給・金融政策の相互依存関係を再検討し、金融政策の役割の全体像を明らかにすることである。
金融政策の役割に関する考え方を現実のデータと照らし合わせて再構築することは学術的にも重要な課題であるとともに、近年の中央銀行が直面している困難な経済状況を鑑みても今後の現実社会に対する中央銀行のあり方を考える上で重要な課題である。

研究課題

財務報告の質と投資の効率性の関連に関する実証研究(平成29~31 年度)

研究組織

榎本 正博

研究目的

本研究の目的は、財務報告の質(financial reporting quality)と企業投資の効率性(investment efficiency)との関係を明らかにすることにある。
両者に正の関係があれば、外部への財務報告の質の改善が企業内部の投資行動を効率化することを意味する。さらに財務報告の質と投資の効率性の両者に影響を及ぼすとされるコーポレート・ガバナンスがこの関係にどう寄与するかを示す。財務報告の質としては、会計発生高を始めとする利益の特性、会計基準の新設・改訂、財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備の報告を利用する。

本研究によりいかなる財政報告の質の向上が投資の効率性の改善につながるのかを特定すれば、例えばどのような財務報告を改善させる施策が、企業の投資活動のような実体的行動を効率化するかを示すことができよう。


挑戦的萌芽研究

研究課題

新しい貨幣モデルの構築(平成28~30年度)

研究組織

神谷 和也(研究代表者)、清水 崇

研究目的

本研究の目的は、政策効果を議論できる新しい貨幣モデルを構築することにある。貨幣サーチ・モデルなどのミクロ経済学的基礎付けを持つ貨幣モデルにおいては、連続無限個の定常均衡が存在する(つまり非決定である)ことが知られており、したがって政策効果も特定できない。
一方、現実の経済においては一つの均衡のみが実現し、当然のことながら政策効果も決定する。したがって、現実経済には貨幣サーチ・モデルには内包されていない何らかの要因が存在すると考えられる。

本研究では、均衡貨幣保有分布がある特性を持つか、あるいは市場制度がある条件を満たす限りにおいて均衡が決定化され、さらに政策効果も決定化されると予想し、これらの条件を満たす新しい貨幣モデルを構築する。


挑戦的研究(萌芽)

研究課題

高齢化社会にふさわしい金融リテラシーの新しい尺度構築の挑戦的な試み(平成 29~31 年度)

研究組織

家森 信善(研究代表者)、柳原 光芳

研究目的

家計金融論においては、金融リテラシーを正しく計測することが議論の前提であり、金融リテラシーの尺度については、すでに国際的に確立した尺度として、Lusardi and Mitchell (American Economic Review 2008)の3つの質問(金利計算、イ ンフレの影響、分散投資に関する質問)が知られている。
しかし、申請者はこれは国際比較としては有益であるが、日本の家計の直面する金融問題に対処する上ではもっと適切な尺度があり得るのではないかとの問題意識を持ってきた。

そこで、本プロジェクトでは、新しい尺度を提案し、その尺度を使って家計金融分野の行動の歪みを予想できるかを検討し、その結果に基づいて尺度を作り直し、さらにその改定尺度を使って検証をやり直すというプロセスを繰り返すことで、高齢化社会にふさわしい金融リテラシーの標準的な尺度を構築していく。

研究課題

人口減少時代の地域再生と空間経済学(平成30~32 年度)

研究組織

浜口 伸明(研究代表者)、藤田 昌久

研究目的

目まぐるしく変化するラテンアメリカ・カリブ諸国(LACs)の政治経済変動を理解するための分析枠組として、この地域の固有性が取り入れられた構造主義 的アプローチによる、政治学と経済学の融合的研究を行う。

本研究により、(1)新自由主義改革がなぜLACs の繁栄につながらなかったのか、(2)「黄金の10 年」の社会的成果がすでに脆弱さを見せているのはなぜか、(3)これまで行われた諸改革が持続的な制度構築と高質なガバナンスに反映されたと評価できるか、(4)国民の経済的厚生水準の上昇と安定につながらない企画を決定したことで代表制民主主義への信頼が揺らぎ、ともすると汚職や非正規の取引がもの求められる のはなぜか、等の重層的な問題から成る「LACs 発展停滞のパズル」の全体像が明らかになる。


若手研究(B)

研究課題

日米地方バス事業の効率性・有効性と,それに対する土地利用形態の影響(平成27~30年度)

研究組織

松尾 美和

研究目的

路線バスをはじめとする公共交通に公的支援をするにあたっては、適切な経営努力をしたうえで補助金額の決定をしなければならない。しかし、様々な外的要因が公共交通の運営に影響するために全国一律な判断基準を経営効率の判定に適用するのは適切とは言えず、特におかれている条件が様々に異なる過疎地においては特に難しい。
これまでの公共交通の効率性分析では、地理的条件および土地利用形態の影響については既往研究では十分な検討が行われてこなかった。

本研究では地理的条件および土地利用形態が公共交通運営の効率性に与える影響を、日米の過疎地バス交通を例に評価する。手法としてはデータ包絡分析法を用いる。本研究によって経営努力によって改善不可能な地理的要因を区別することが可能となれば、公共交通のより適正な効率性評価の指標を構築することが可能となる。

研究課題

財務報告と企業内部の経営意思決定との相互作用に関する理論的・実験的研究(平成28~30年度)

研究組織

三輪 一統

研究目的

企業外部に向けた財務報告(外部報告)と、企業内部での利用を目的とした管理会計(内部報告)が、実務的には密接に関連しているということが、従来から指摘されている。しかしながら、これまでの会計研究において、両者の相互作用について十分に考慮されてきたとは言いがたい。

本研究の目的は、外部報告と内部報告の相互的な影響を明らかにし、社会的に望ましい財務報告の制度設計を提言することである。具体的には、財務報告制度のあり方が、(1)企業の生産活動、(2)従業員の業務評価・動機づけといった企業の内部の経営意思決定にどのような影響を与えるのかについて、理論的および実験的手法を用いて分析をおこなう。

研究課題

利益平準化に対する従業員および取引先の影響の研究:国際比較および日本企業 の分析(平成29~31 年度)

研究組織

藤山 敬史

研究目的

数多くの会計研究が利益平準化に取り組んでいるが、先行研究では資金提供者(株主や債権者)の与える影響が主な分析対象であった。
近年、会計や周辺分野において従業員や取引先が企業行動に与える影響に関する研究が増えつつある。日本では従業員や取引先がコーポレート・ガバナンスの重要な主体であるが、当該両主体に関する日本企業の利益平準化の分析や労働法制が利益平準化に与える影響に関する国際比較はない。

本研究の目的は、利益平準化の程度が従業員や取引先との関係性によって日本企業間で異なるのかを明らかにすること、および、国際比較により日本の相対的な位置を確認することである。本研究は先行研究への貢献に加えて、国際財務報告基準やコーポレート・ガバナンス・コードを含む日本企業のあり方に関する実務的議論に資する。

研究課題

ラテンアメリカにおけるバリューチェーン統合と生産性・分配に関する実証研究 (平成29~31 年度)

研究組織

村上 善道

研究目的

本研究は、現在のラテンアメリカ諸国にとって地域経済統合が域内のバリューチェーンの形成の促進に有効であり、またバリューチェーンへの統合がラテンアメリカ諸国の生産性の向上と国内における格差の縮小双方に寄与するという仮説を実証的に検証する。

この目的を達成するため、近年整備されているバリューチェーンへの参加を計測するデータを最大限活用して、ラテンアメリカ諸国全体を対象としたパネルデータ分析から、地域貿易協定(RTA)が2 国間中間財貿易に与えた影響および域内の中間財貿易が各国の労働生産性や格差に与えた影響を明らかにする。さらにラテンアメリカ諸国の中でも最も早くRTA を促進してきたチリを対象に、バリューチェーンへの統合が企業レベルの生産性や企業内賃金格差に与えた影響を明らかにする。


研究成果公開促進費

研究課題

近世経済データベース(平成28・29年度)

研究組織

髙槻 泰郎(作成代表者)、村 和明、國本 光正

研究目的

本計画は、公益財団法人三井文庫が所蔵する三井家大坂両替店の記録『日記録』と、同財団が編集した『近世後期における首相物価の動態』(以下『主要宇物価の動態』)より、18世紀中期から明治初年にわたる、日次の米価、金銀比価、金銭比価と、月次の一般物価を網羅的に採録すると共に、近世日本経済に影響を与えた経済的事象を抽出してデータベース化し、和英の解説文を付して、国内外の研究者及び一般の方々に提供する。

研究課題

企業資料デジタルデータベース(平成30年度)

研究組織

伊藤 宗彦(作成代表者)

研究目的

本研究は、社会科学、特に、経済系、経営系の企業資料のデータベース化に関するものである。
神戸大学の企業資料の保有数は国内で最大である。その中でも一般に公開されていない、また既存のデータベースでは検索できない資料の閲覧、複写、データ化、分析を行うためのデータベースの構築を目的とする。

データベース化を計画しているのは、明治期以降の新聞記事、特に経済記事(約4万点)、会社営業報告書(諸会社:約8,100社(明治期~1953年)、鉄道関係会社、 996 社(明治期~昭和前期)、鉱業関係会社報告(占領初期実態調査)2,272 社(1935年~10 年間))企業原資料(兼松株式会社、鐘紡、廣海汽船株式会社、内外綿株式会社の企業内部資料)企業統計データ(財務データ、工業生産データ、人事・労務データ)についてデータベース化する。 全て、史上初めての公開データであり、企業研究を行う上で重要な資料である。近年、PC等の性能向上は目覚ましく、テキストマイニングなど高度な分析もできるようになっている。そのためのデジタルデータベースの構築を目的とする。


国際共同研究加速基金

研究課題

非相似拡大的選好と内生的時間選好による動学的貿易理論の再構築(国際共同研究強化)(平成27年度~30年度)

研究組織

岩佐 和道

研究目的

貿易モデルをもちいた理論分析では、家計の選好に関して強い二つの仮定(相似拡大的選好と外生的に与えられた一定の主観的割引率)がおかれていた。しかし、これらの仮定は分析を大幅に簡便化する一方で、現実のデータとは全く整合的でないことがあきらかになっている。
基課題の研究では、これらの仮定をおくことなく、現実のデータに整合的な動学的貿易モデルを構築し、それらのモデルの基本的な性質を明らかにしてきた。

非相似拡大的選好および内生的時間選好のモデルへの導入方法、および動学的ヘクシャー・オリーンモデルの定常均衡の分析に関するこれまでの研究成果をもとにして、本研究では、モデルの中で内生的に生じる家計の異質性(所得の多寡により異なる消費パターンや割引率)を明示的に取り扱ったモデルを用いて、国際貿易との国内外の所得格差の関係等に関する理論分析を行い、有効な政策提言を行うことを目的とする。

研究課題

前近代経済における公共投資の実施形態に関する清朝中国と徳川日本の比較研究(平成30年度~33年度)

研究組織

高槻 泰郎

研究目的

18世紀末までは、東アジア、インド、ヨーロッパの経済発展の水準はほぼ横並びであり、アジアとヨーロッパが「大分岐」を起こしたのは19世紀以降であるということは定説となっている。
一方、18世紀における中国の発展が直ちには工業化に結びつかなかったのに対して、18世紀のアジアの中では比較的遅れていた日本が19世紀後半から急速な工業化を遂げたのはなぜかという問題(「小分岐」)については、今まさに国際的な議論が活発に行われている研究課題である。

そこで、本研究課題では、清朝中国と徳川日本における公共財投資の実態を比較する。公共財の存在は工業化の前提条件となるため、19世紀以降の両国の差を生んだ要因を解明する上で有効である。具体的には、公共財投資が民間の地域リーダーの資本によって担われた清朝中国と、幕府によって指名を受けた大名が豪商から調達した資本によって大規模公共財投資を実施した徳川日本の比較を行う。


研究活動スタート支援

研究課題

位置情報を用いた消費者の商圏内買い回り行動の理解(平成30~31年度)

研究組織

加藤 諒

研究目的

本研究の目的は、近年利用が可能となっている位置情報データを用いて、消費者の商圏内の買い回り行動を理解することと、それに付随する小売店舗の価格戦略との関連性を探ることである。
近年国内でも価格戦略として、EDLP戦略を取る店舗が増加している。消費者はこのようなEDLP店舗と、HiLo戦略を行う店舗とから、購買先を選択する行動を取っている。

本研究は、個人レベルの位置情報データとEDLP/HiLo店舗を含む複数小売店舗のPOSデータ、さらに商圏内店舗のチラシデータを取得し、消費者がHiLo店舗の値引きに対してEDLP店舗との選択の中でどのように反応しているのか、を明らかにすることを目的とする。
更に産業組織論等で用いられる構造モデルや行動経済学的な参照価格の理論を用い、上記の解析で得られた示唆から価格を変更した場合、消費者の買い回りがどのように変化するのか、という反実仮想的なシミュレーションを行う。

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