科学研究費補助金による研究(平成27・28年度)

基盤研究(S)

研究課題

包括的な金融・財政政策のリスクマネジメント:理論・実証・シミュレーション(平成27~31年度)

研究組織

上東 貴志(研究代表者)、西村 和雄、高橋 亘、貝原 俊也、北野 重人、敦賀 貴之、堀井 亮、小林 照義、柴本 昌彦、小柳 義男、齋藤 政彦、佐野 英樹

研究目的

日本の政府債務は膨張の一途を辿っているが、財政破綻の可能性は10年以上前から叫ばれており、近い将来に財政破綻が起こるか否かは意見の分かれるところである。その大きな一因は、財政破綻リスクは直接観測できないことであると考えられる。
しかし、東日本大震災で経験したように、深刻なリスクは事後的に初めて認識されることが多い。本研究の目的は、これまでの研究代表者の共同研究の成果に基づき、最新のスパコン・シュミレーション技術を駆使して、バブル崩壊・金融危機・財政破綻のリスクを事前に推定し、これらのリスクに適切に反応する包括的かつ最適な金融・財政政策を導出する手法を確立することである。
さらに、多層的金融ネットワーク・モデルを構築し、同様の技術により、危機発生後の危機管理の手法の確立も目指す。


基盤研究(A)

研究課題

日本型経営システムの形成と発展プロセスの研究(平成28~31年度)

研究組織

伊藤 宗彦(研究代表者)、西谷 公孝、遠藤 貴宏、松本 陽一、榎本 正博、濱口 伸明、髙槻 泰郎、上東 貴志

研究目的

東京証券取引所と金融庁が策定したコーポレートガバナンス・コードが本年度から開始された。
従来、我が国のコーポレート・ガバナンスは企業の永続的成長を目指し、経営者と株主との関係よりもむしろ、企業と従業員、金融機関、顧客、取引先との長期的信頼関係を基に構築され、日本型経営と呼ばれてきた。
しかし、優れた経営を担保するための制度や慣行は少しずつ変容し、不祥事が表面化したり、経営破たんする企業が増えてきた。
神戸大学が所蔵する企業原資料、中でも、鐘紡資料には100年以上に及ぶ稟議書や帳簿などがほぼ完全な形で残されており、日本型経営の発生プロセスとその本質を明確化できる第1級の資料と考えられる。

本研究では、鐘紡資料を基に、企業の発生から成長、成熟段階の経営者の意思決定プロセスを分析し、日本型経営システムの本質を再定義することにより、企業のコーポレート・ガバナンスの在り方を提言したい。


基盤研究(B)

研究課題

国際的買収による世界市場への参入とその動学的影響(平成24~28年度)

研究組織

趙 来勲(研究代表者)、阿部 顕三

研究目的

It is often said that export is the engine of development. However, central to the issue is the question of, how firms in poor countries succeed in global competition. In this project, we investigate international acquisition as a new strategy for developing countries to emerge into the global market. We argue that, good firms in these countries can successfully convince global consumers of their quality by international acquisition. In contrast, bad firms cannot accomplish such a task. We intend to prove theoretically and find empirical evidence for this new strategy. We analyze the consequences of such acquisitions and their relationship with international trade and competition, in both the short run and long run. Finally, we also examine whether governments should liberalize FDI (foreign direct investment), in view of this type of acquisition.

研究課題

地域創生のための地域金融機関の役割に関する研究(平成27~29年度)

研究組織

家森 信善(研究代表者)、栗原 裕、濱口 伸明、播磨谷 浩三、打田 委千弘、小川 光、北野 重人、近藤 万峰、冨村 圭

研究目的

本プロジェクトの問題意識は、既存企業を保護するだけでは地域経済の衰退は止まらず、地域創生のために創発的企業展開(新商品の開発、新産業への展開、さらには、新規性を持つ企業の創業など)を金融面からサポートしていくべきだという点にある。
そこで、地域金融機関の経営や金融行政の側面に焦点を当て、独自性のある金融機関アンケート調査を活用して創発的企業展開を実現するための課題を明らかにする。

本プロジェクトの最終的な目的は、リレーションシップバンキングや金融市場の競争の質に関する学術的な分析に基づいて、地域経済が直面する課題に対応できる地域経済政策のために金融面からの具体的政策提言を行うことである。

研究課題

ラテンアメリカ発展停滞のパズル(平成28~30年度)

研究組織

濱口 伸明(研究代表者)、高橋 百合子、村上 勇介、桑山 幹夫、村上 善道

研究目的

目まぐるしく変化するラテンアメリカ・カリブ諸国(LACs)の政治経済変動を理解するための分析枠組として、この地域の固有性が取り入れられた構造主義的アプローチによる、政治学と経済学の融合的研究を行う。本研究により、(1)新自由主義改革がなぜLACsの繁栄につながらなかったのか、(2)「黄金の10年」の社会的成果がすでに脆弱さを見せているのはなぜか、(3)これまで行われた諸改革が持続的な制度構築と高質なガバナンスに反映されたと評価できるか、(4)国民の経済的厚生水準の上昇と安定につながらない企画を決定したことで代表制民主主義への信頼が揺らぎ、ともすると汚職や非正規の取引がもの求められるのはなぜか、等の重層的な問題から成る「LACs発展停滞のパズル」の全体像が明らかになる。

研究課題

貨幣のサーチ・モデルにおける価格の決定要因:理論と実験(平成28~32年度)

研究組織

神谷 和也(研究代表者)、小林 創、七條 達弘、清水 崇

研究目的

貨幣のサーチ・モデルには、一般に広く価格及び社会的余剰が異なる均衡が無数に存在することが知られている。
この無数に存在する定常均衡を使い、外生的ショックにより(定常均衡内で)ダイナミックに変動する現実的な状況を表現することができ、金融政策の効果の理解に飛躍的な進歩をもたらす可能性がある。

そこで、当該研究は、カギとなる価格決定の要因に理論・実験両面から接近し、金融政策をはじめとする政策立案に貢献する知見を得るための実験を行い、実際の経済主体がどのような均衡・価格を選択するかを明らかにする。さらに実験結果から新たな均衡選択理論を構築する。

研究課題

人的資本と経済成長(平成28~32年度)

研究組織

西村 和雄(研究代表者)、上東 貴志、岩佐 和道、八木 匡

研究目的

我が国の経済成長は四半世紀に渡り低い水準にとどまり、2014年の一人あたりの名目GDPでは、日本は27位と9位のシンガポールや10位のアメリカに水をあけられた。経済成長と教育の効果が、国の競争力・豊かさ・大学の位置づけに関係しているのは明らかといえる。

本研究は、人的資本の経済成長における役割について、理論、実証の立場から分析を行う。経済成長モデルで、人的資本の蓄積や世代間の公平性について理論的に分析を出し、教育投資の生産性への寄与について、幼児教育についての実証研究を行い、生産性や幸福感への効果を分析する。

研究課題

両替商金融から近代金融へ:新資料に基づく加島屋久右衛門と鴻池屋善右衛門の比較研究(平成28~30年度)

研究組織

髙槻 泰郎(研究代表者)、宮本 又郎、結城 武延、小林 延人

研究目的

本研究は、近世大坂両替商による資本蓄積過程と近代的金融機関への移行過程を分析することにより、我が国の経済が明治以降に急速な成長を遂げた背景を考察するものである。

近世大坂の大両替商は、幕末に向けて収益を低下させ、明治初頭の銀目廃止によって打撃を受けたと一般的に理解されており、近世の金融市場と近代のそれとは断絶するかのように描かれてきた。
近年の研究によって、商人が利用する手形決済ネットワークが移行期においても機能していたことが明らかにされているが、大両替商の動向については、依然として不明な部分が多く残る。

そこで本研究は、近世・近代大坂の金融界を牽引した商家・廣岡家の新発見資料を第一の検討素材として、両替金融がいかにして近代金融へと移行していったのかを具体的に描き出すことを目指す。


基盤研究(B)(海外)

研究課題

グローバル・サプライチェーンの構築とマネジメントに関する調査研究(平成24~27年度)

研究組織

伊藤 宗彦(研究代表者)、加藤 厚海、石井 真一、朴 泰勲、下野 由貴、原口 恭彦

研究目的

本研究の目的は、グローバル・サプライチェーンの構築パターンとその有効なマネジメントのあり方を検討することである。
具体的には、自動車産業におけるサプライチェーンの取引関係に注目し、生産面だけではなく、販売・サービスの視点からサプライチェーンの連携を明らかにし、サプライチェーンの現地化プロセスの解明、サプライチェーンの内部の取引慣行の解明、の3つの視点から検討を行う。

現在、新興国市場の拡大に伴う急速なグローバル化の進展が、従来の先進国主導のサプライチェーン構築のあり方に大きな変化をもたらしている。
したがって、本研究では、グローバル化の中心となっている新興国、特にアジア(中国、インド、東南アジア)を対象とした、新興市場に適応した自動車産業のグローバル・サプライチェーンの構築パターンとそのマネジメントについて考察を深めることにする。

研究課題

インドの産業発展と日系企業(平成25~28年度)

研究組織

佐藤 隆広(研究代表者)、絵所 秀紀、石上 悦朗

研究目的

本研究「インドの産業発展と日系企業」は、インドにおける産業発展や産業構造変化の実態を、日系企業の活動を切り口にして「空間」(産業集積地帯)と「時間」(集積が形成される歴史的経緯)の2側面に注目して明らかにする。

本研究では、インド政府と日本政府の共同開発プロジェクトであるデリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)と半島地域産業開発回廊(PRIDE)が、インド産業発展と日系企業が果たす役割を考えるうえで重要であるとの認識を持っている。
また、本研究では、DMIC+PRIDE 地域における食品・繊維・鉄鋼・製薬・二輪・金融の6産業を重点的に調査研究する。以下の3点が本研究の特徴である。

第1に、代表性を持つインドの基幹的な統計資料を背景にして、特定の産業集積地域の特徴を洗い出したうえで現地調査行い、インド産業発展パターンの類型を摘出する。
第2に、「企業グループ」「外国直接投資」「輸出活動」「R&D活動」のインド産業発展における役割を、現地調査を通じて分析する。
第3に、自動車などの分野においてインドの工業化を牽引してきた日系企業の活動に注目し、日系企業がインドの産業発展に果たす役割を現地調査を通じて明らかにする。

最後に、研究体制としては、代表と研究分担者2名のほかに、4名の連携研究者(安保哲夫・東京大学名誉教授/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、三嶋恒平・慶應義塾大学准教授、上池あつ子・神戸大学経済経営研究所・学術研究員、宇根義己・金沢大学講師、1名の研究協力者(長田華子・茨城大学准教授)の8名から構成されている。


基盤研究(C)

研究課題

新興市場国への資本流入問題に関するマクロ的分析-世界金融危機後の新たな課題と政策(平成24~27年度)

研究組織

北野 重人

研究目的

本研究は、世界経済の大きなリスク要因として近年関心の高まっている先進国から新興市場国への資本流入問題に関して、対応する主要な3つのマクロ政策(資本規制、為替政策、財政政策)について、資本市場の不完全性や景気循環に占める恒久的生産性ショックの優位性といった新興市場国の特徴を明示的に取り入れた確率的動学一般均衡モデル(DSGE)を構築した上で、最新の分析方法であるマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)によるベイズ推定を用いて政策効果の厚生を分析することによって、これまでの研究よりも現実妥当性の高い政策評価を行い、政策的合意を得ることである。

研究課題

グローバル供給網の復元力に関する空間経済学研究(平成25~27年度)

研究組織

濵口 伸明(研究代表者)、藤田 昌久

研究目的

近年、人・物・情報の移動費用が劇的に低下する中で、企業が工程間分業と各工程の国際的な再配置を進めている結果、大規模災害が引き起こす供給網(サプライチェーン)断絶の影響は増大する傾向にある。本研究計画ではグローバル供給網の自己組織化と寸断のメカニズムを産業集積の形成理論を中心とする空間経済学の視点から理論的・実証的に分析し、供給網の復元力を強化するための企業・政府・国際協力への指針を検討し、政策分析を行う。

研究課題

競争経済に均衡の複数制と財の不完全可分性が及ぼす影響の研究(平成25~28年度)

研究組織

下村 研一

研究目的

経済理論が深入りしなかった「交換経済均衡の複数性」と「商品の可分性」が市場経済の理論予測と計算結果に与える影響を解明する。

完全競争市場の均衡は、需要と供給の関係により一意に定まるのが一般的だと考えられているが、参加者の商品の初期分配を少し変えただけで均衡が一つから複数に増えることは、市場実験のための単純な交換経済モデルでも比較的簡単に起こる。
本研究では一意性と複数性の特徴づけを行いたい。また実際の商品はほとんど不可分であるにも関わらず理論モデルでは実数の範囲まで可分だと仮定され、この設定の違いは分析にあまり本質的でないと考えられているが、可分性の下で均衡が一つになる交換経済モデルでも不可分性の下では均衡が複数の場合が頻繁にあると予想される。この予想を計算科学の手法で検証したい。

研究課題

Great East Japan Earthquake and Autonomy of Japan Based Foreign Affiliated Firms(平成25~27年度)

研究組織

Ralf Bebenroth(研究代表者)、関口 倫紀

研究目的

This research attempts to investigate the situation of foreign affiliated firms and how they developed after the disaster.
What has changed for them since March 11th 2011? How much did the disaster impact foreign firms in Japan? Especially, autonomy of subsidiaries and expatriate retreats will be investigated.

東日本大震災の影響が外国企業へどの程度混乱をもたらしたのかについて科学的に考察することを目的としている。世界から日本における外国企業は非常に大切である。

研究課題

非相似拡大的選好と内生的時間選好による動学的貿易理論の再構築(平成25~27年度)

研究組織

岩佐 和道(研究代表者)、趙 来勲

研究目的

国際貿易が経済発展や各国の所得分配に及ぼす影響に関して、これまで多くの研究がなされてきた。しかし貿易モデルをもちいた理論分析では、家計の選好として相似拡大的選好が仮定されることがほとんどであり、さらに動学的貿易モデルにおいては、一定の時間選好率が仮定されてきた。これらの仮定は分析を大幅に簡便化する一方で、現実のデータとは整合的でないことが実証研究から明らかになっている。

本研究の目的は、非相似拡大的選好および内生的時間選好を導入することで、より現実に即した動学的貿易モデルを提示し、それらのモデルの基本的な性質を明らかにするとともに、長期的な貿易利益や貿易と各国間の所得格差等に関する理論分析および政策の提言を行う。
具体的には、(1)バラエティー財、(2)内生的時間選好と所得格差、(3)内生的時間選好と不決定性、及び(4)多数財に対する非相似拡大的選好に関してモデルを構築し理論分析を行う。

研究課題

戦前期ホワイトカラー企業の学歴評価(平成26~28年度)

研究組織

藤村 聡

研究目的

戦前期の企業社会について、従来は「戦前期企業は学歴に基づく強固な身分制社会であった」と理解されてきた。これは専らメーカー企業の職工(非学卒者)と技師(学卒者)の分析に基づくものであったが、近年の貿易商社の兼松や三井物産の賃金構造の研究では、従業員の賃金に学歴差はなかったと判明しており、ホワイトカラー企業とメーカー企業は異なる論理を持っていたことが予見される。

本課題では、研究の蓄積がいまだ不十分なホワイトカラー企業を対象に、企業は従業員をどのように評価していたのか、そこで学歴はどのように扱われたのかという問題を解明したい。それは、これまでは余り論じられることがなかった企業の「意識構造」の検討であり、企業の心性という問題を視野に入れると共に、学歴社会と呼ばれる現代の日本社会の起源と成り立ちを探る試みになると期待される。

研究課題

経営者の会計的裁量行動と実体的裁量行動代替関係及び抑制に関する実証分析(平成26~28年度)

研究組織

榎本 正博

研究目的

本研究は経営者の利益を操作する2つの裁量行動、会計的裁量行動(会計方針の変更、会計上の見積の調整等:帳簿上の操作)と実体的裁量行動(R&D等の削減、値引販売等の売上調整等:実体の操作)の代替関係と抑制の分析を目的とする。

まず会計・監査の厳格化による会計的裁量行動から実体的裁量行動へのわが国全般の代替的移行関係を時系列的に示す。時系列的特徴に加え、企業は目標利益達成目的で2つの裁量行動を組み合わせるため、それらが代替関係となり、さらに監査の質が代替の程度に影響を与えることを示す。しかし実体的裁量行動の抑制要素(企業内部:近視眼的でない経営陣、企業外部:洗練された投資家等)があれば代替ではなく、双方が抑制されることを示す。本研究で2つの裁量行動の抑制の構造を提供できれば、利益の質の改善につながる。

研究課題

太陽電池産業における国際的なビジネス生態系の発達プロセスの研究(平成26~28年度)

研究組織

松本 陽一

研究目的

本研究では、太陽電池産業における国境間をまたいだビジネスの生態系がどのように成立してきたのか、その詳細を明らかにする。

我が国は2000年代初頭まで、太陽光発電の普及を世界的にリードしてきたが、欧州で太陽光発電の普及が爆発的に進むと、最大市場としての地位を欧州に、有力メーカーの座を中国の新興企業に譲った。デバイスだけでなく、太陽電池の製造装置では欧州企業が大きな存在感を示している。欧州企業が開発した装置を使って、中国企業が作った太陽電池が、欧州市場で売られる、という構図が太陽電池では成立しており、かつてリーダーであったはずの日本企業の存在感は小さい。この研究では、どのようにして、この国境間をまたいだビジネス生態系が発達し、どうして日本企業が大きな存在感を保てなかったのかを明らかにする。

研究課題

企業の会計利益操作と賃金交渉に関する脳実験研究(平成27~29年度)

研究組織

山地 秀俊

研究目的

会計学における会計利益操作と賃金交渉問題でこれまで解明されていなかった経営者・労働者の心理的特徴が単独で不平等な賃金水準へと導く影響を脳実験を通じて解明する。
具体的には、最後通牒ゲームを利用して、心理学でいう共感性の高い被験者(経営者)が、分配に際して労働者(仮想被験者)に先鋭的分配を強いるという特徴があることを心理学的行動実験とfMRIを用いた脳実験の結果から指摘する。

最後通牒ゲームの脳内反応分析研究はこれまでにも散見されたが、いずれもレスポンダー(提案判断者)側の研究であった。アロケーター(分配提案者)側で行われた研究は、これまでにも例がほとんどなく、当該領域での貢献にもなり得る。

研究課題

手持ち現金が経済人の合理性に与える効果の分析:経済実験によるアプローチ(平成27~29年度)

研究組織

瀋 俊毅

研究目的

本研究の目的は、現金を目にすることが人々の合理性にどのような効果を与えるかを探ることである。さらに、集団で行う経済活動に手持ち現金がどのような効果を与えるかについても研究を行う。

我々が行う経済活動には、個人ではなく集団で行うものが非常に多い。そのため、現金を目にすることが集団で行う経済活動に与える効果を分析することは重要である。
現金が人々の行動や合理性に与える影響が明らかになれば、その知見を人々の行動をより望ましい者に変えるような政策立案に役立てることが可能となる。

研究課題

統合報告書の実証的日英比較研究(平成27~29年度)

研究組織

西谷 公孝

研究目的

現在、財務情報と同様にサステナビリティ情報が企業の存続を判断するための重要な情報として注目されつつあり、それらを統合した統合報告の普及の可能性が世界的に叫ばれている。
本研究では、統合報告研究の世界的な第一人者であるロンドン大学のJ.ユナマン教授と協力して、サステナビリティ情報開示が進んでいる日英企業を対象に、サステナビリティ方向書と年次報告書という開示媒体の違いに着目し、サステナビリティ情報開示の現状から、統合報告のあり方とその普及の可能性を多角的に研究することを目的とする。

本研究は、サステナビリティ報告書と年次報告書それぞれにおける開示情報の内容をもとにその規定要因、財・証券市場への効果を実証分析し、一部で既に始まっている統合報告の結果との比較や先進企業へのインタビューを踏まえたうえで、統合報告のあり方とその普及の可能性を検証する。

研究課題

Outbound Japanese M&A and Target Employee(平成28~30年度)

研究組織

Ralf Bebenroth

研究目的

This kaken proposal is to research about outbound Japanese cross-border M&A.Already in the late 80s, several unsuccessful acquisitions by Japanese firms were reported.
In recent years, it becomes again popular for Japanese firms to overtake foreign firms.
This research investigates about human resources at Japanese target firms abroad and tries to find answer of how post-merger integrations of targets can be accomplished successfully.

研究課題

先進国の金融政策正常化により新興国において発生するリスクに対するマクロ経済政策(平成28~31年度)

研究組織

北野 重人

研究目的

本研究は政界経済の大きなリスク要因として近年関心の高まっている、先進国の金融正常化後に生じる可能性がある新興国からの資本流出や危機に関して、それに対応する主要な3つのマクロ政策(金融政策、資本規制政策、為替相場制度の選択)について分析を行う。

主な研究の目的は、マクロ経済学において近年活発に研究が進んでいる金融市場の不完全性、不完備性等を考慮した金融フリクションに関するモデルをより明示的に導入することで、金融部門が未発達である新興国のマクロ政策に関して、これまでの研究よりも現実妥当性の高い政策評価を行うことである。

研究課題

動学的貿易モデルを用いた経済発展と所得格差に関する理論分析(平成28~30年度)

研究組織

岩佐 和道(研究代表者)、趙 来勲

研究目的

国際貿易が経済発展や各国の所得分配に及ぼす影響に関して、これまで多くの研究がなされてきた。しかし貿易モデルをもちいた理論分析では、通常、家計の選好として相似拡大的選好が仮定され、さらに動学的貿易モデルにおいては、一定の時間選好率が仮定されてきた。
これらの仮定は分析を大幅に簡便化する一方で、現実のデータとは整合的ではないことが実証研究から明らかにされている。

本研究の目的は、非相似拡大的選好および内生的時間選好を導入することで、より現実に即した動学的貿易モデルを提示し、それらのモデルの基本的な性質を明らかにするとともに、長期的な貿易利益や貿易と各国間の所得格差等に関する理論分析および政策の提言を行うことである。具体的には、(1)生産の外部性、(2)内生的時間選好と所得格差、(3)内生的時間選好と不決定性、及び(4)多数財に対する非相似拡大的選好に関してモデルを構築し理論分析を行う。


挑戦的萌芽研究

研究課題

現代日本社会が必要とする金融経済教育と金融リテラシーの体系化の試み(平成27~28年度)

研究組織

家森 信善(研究代表者)、柳原 光芳

研究目的

金融経済教育の重要性について、内外で広く認識されるようになってきた。しかし、我が国では金融経済教育や金融リテラシーを巡る研究はようやく端緒についたばかりであり、研究を本格させる必要性がある。

さらに、地域間の格差が大きな問題になり、地域再生・地域創生が政策的な大きな課題となっている。そこで本プロジェクトでは、この二つの問題を関連づけて、金融経済教育によって金融リテラシーを高めることが、長期的に見て地域間の経済格差の解消につながるのではないかとの問題意識を持って、現代日本社会において求められている金融経済教育と金融リテラシーの内容を検討し、体系化することを目的とする。

研究課題

新しい貨幣モデルの構築(平成28~30年度)

研究組織

神谷 和也(研究代表者)、清水 崇

研究目的

本研究の目的は、政策効果を議論できる新しい貨幣モデルを構築することにある。貨幣サーチ・モデルなどのミクロ経済学的基礎付けを持つ貨幣モデルにおいては、連続無限個の定常均衡が存在する(つまり非決定である)ことが知られており、したがって政策効果も特定できない。
一方、現実の経済においては一つの均衡のみが実現し、当然のことながら政策効果も決定する。したがって、現実経済には貨幣サーチ・モデルには内包されていない何らかの要因が存在すると考えられる。

本研究では、均衡貨幣保有分布がある特性を持つか、あるいは市場制度がある条件を満たす限りにおいて均衡が決定化され、さらに政策効果も決定化されると予想し、これらの条件を満たす新しい貨幣モデルを構築する。


若手研究(B)

研究課題

低金利下における日本の金融政策に関する実証分析:資産価格を通じた波及効果の検証(平成25~28年度)

研究組織

柴本 昌彦

研究目的

低金利下に金融政策運営を行う際、非伝統的金融政策手段によって資産価格に働きかけ、それが最終的に実態経済に波及するものと期待される。本研究では、日本の低金利下における政策効果の識別を行い、そして資産価格に与える影響、更に資産価格を通じた実体経済への動学的波及効果を包括的に分析する。

本研究の特徴は、他の構造要因が資産価格に与える要因も考慮に入れた下、「政策決定が行われた時点には金融政策ショックの変動は大きくなる」という識別条件を使って金融政策が資産価格に与える因果関係を推定するという手法を日本の高頻度データに応用し実証分析することである。金融政策が資産価格に与える因果関係を厳密かつ明示的に扱うことで、様々な資産価格の役割を比較分析できるとともに、先行研究との違いも分析することができる。

研究課題

wise self-interestの仏教経済倫理:ダライ・ラマ14世を中心に(平成27~28年度)

研究組織

辻村 優英

研究目的

仏教経済倫理の現代的展開を、ダライ・ラマ14世の思想を中心にアマルティア・センとの比較を通して解明する。特に、選択の合理性に焦点を当て、現代経済学のそれと、仏教経済学におけるそれとの間の共通点と相違点を、自己利益(self-interest)の捉え方を主軸に探る。

ダライ・ラマの思想から導かれる経済倫理における選択の合理性は、現代経済学のそれと原則的には同じであり、両者ともにself-interestの追求を目的とした合理性である、という結論が予想される。ただし、ダライ・ラマのそれはwise self-interestと名付けられるものであり、メビウスの環のような構造を有している点において、現代経済学とは決定的に異なる。

研究課題

進化計算を応用した実験計画法の体系化(平成27~28年度)

研究組織

内種 岳詞

研究目的

社会現象のような多数の要因と多数の評価指標が考えられる大規模問題において、計算機シミュレーションによる問題の要因特定や解決方法発見が期待される。

大規模問題では、シミュレーション実験の組み合わせ数や結果のデータ点数が爆発的に増えるが、それらのデータに対する多変量解析より得られる結果が設計変数の数やデータ数よりはるかに小さい次元で表現されるとき、組み合わせの中には解析結果への影響が少ないものが多く含まれていると考えられる。そのため、実験の一部の組み合わせから解析結果絵の影響を推定し、解析結果に影響を与える可能性が高い実験設定の組み合わせの実験を優先する「進化計算を応用した実験計画法」を提案する。また、ベンチマーク問題に対する性能評価と実問題に対する性能評価を行うことで、提案手法の有用性を検証する。

研究課題

日米地方バス事業の効率性・有効性と,それに対する土地利用形態の影響(平成27~30年度)

研究組織

松尾 美和

研究目的

路線バスをはじめとする公共交通に公的支援をするにあたっては、適切な経営努力をしたうえで補助金額の決定をしなければならない。しかし、様々な外的要因が公共交通の運営に影響するために全国一律な判断基準を経営効率の判定に適用するのは適切とは言えず、特におかれている条件が様々に異なる過疎地においては特に難しい。
これまでの公共交通の効率性分析では、地理的条件および土地利用形態の影響については既往研究では十分な検討が行われてこなかった。

本研究では地理的条件および土地利用形態が公共交通運営の効率性に与える影響を、日米の過疎地バス交通を例に評価する。手法としてはデータ包絡分析法を用いる。本研究によって経営努力によって改善不可能な地理的要因を区別することが可能となれば、公共交通のより適正な効率性評価の指標を構築することが可能となる。

研究課題

非市場戦略の「実施」に関する研究:日本の出版業界を中心に(平成28~30年度)

研究組織

遠藤 貴宏

研究目的

出版物の定価販売をめぐり出版業界関係者と政府との間で攻防が見られてきた。本研究は、この攻防を「非市場戦略」の観点から事例分析を行う。

非市場戦略とは、ロビー活動に代表される、規制に影響を及ぼすことを目的とした意図的な企業活動を指す。非市場戦略の重要性は浮き彫りになる一方、それがどのよう敢行されて実際に規制の影響を及ぼすのかという「実施」に関しては解明が進んでいない。本研究は組織分析でもちいられてきた次の二つの視点を組み合わせて非市場戦略を分析する。何らかの必要性・適切性に関して関係者から合意を得るプロセスである「正当性」と、必要な資源を目的に応じて利用することを指す「資源動員」である。
最終的に非市場戦略の実施における「正当性」と「資源動員」の関係について類型化をする。

研究課題

財務報告と企業内部の経営意思決定との相互作用に関する理論的・実験的研究(平成28~30年度)

研究組織

三輪 一統

研究目的

企業外部に向けた財務報告(外部報告)と、企業内部での利用を目的とした管理会計(内部報告)が、実務的には密接に関連しているということが、従来から指摘されている。しかしながら、これまでの会計研究において、両者の相互作用について十分に考慮されてきたとは言いがたい。

本研究の目的は、外部報告と内部報告の相互的な影響を明らかにし、社会的に望ましい財務報告の制度設計を提言することである。具体的には、財務報告制度のあり方が、(1)企業の生産活動、(2)従業員の業務評価・動機づけといった企業の内部の経営意思決定にどのような影響を与えるのかについて、理論的および実験的手法を用いて分析をおこなう。


研究成果公開促進費

研究課題

近代経済データベース(平成27年度)

研究組織

髙槻 泰郎(作成代表者)、村 和明、折坂 篤史

研究目的

本計画は、公益財団法人三井文庫が所蔵する三井家大坂両替店の記録『日記録』と、同財団が編集した『近世後期における首相物価の動態』(以下『主要宇物価の動態』)より、18世紀中期から明治初年にわたる、日次の米価、金銀比価、金銭比価と、月次の一般物価を網羅的に採録すると共に、近世日本経済に影響を与えた経済的事象を抽出してデータベース化し、和英の解説文を付して、国内外の研究者及び一般の方々に提供する。

研究課題

鐘紡資料(平成28年度)

研究組織

伊藤 宗彦(作成代表者)

研究目的

本計画は、神戸大学経済経営研究所附属企業資料総合センターが所蔵する鐘紡資料の内、これまでの閲覧請求実績やその重要性から判断し、優先度が高いと思われる資料から順に、画像データベース化・テキストデータ化を図り、研究者の資料利用を効率化することを目的とする。
既に資料目録のデータベース化は完了し、広く公開しているが、重要資料について画像を公開し、その内容をテキストデータ化することによって、研究者の資料渉猟を効率化すると同時に、研究者の目に触れる資料を増やすことが本計画の狙いである。

研究課題

近世経済データベース(平成28年度)

研究組織

髙槻 泰郎(作成代表者)、村 和明、國本 光正

研究目的

本計画は、公益財団法人三井文庫が所蔵する三井家大坂両替店の記録『日記録』と、同財団が編集した『近世後期における首相物価の動態』(以下『主要宇物価の動態』)より、18世紀中期から明治初年にわたる、日次の米価、金銀比価、金銭比価と、月次の一般物価を網羅的に採録すると共に、近世日本経済に影響を与えた経済的事象を抽出してデータベース化し、和英の解説文を付して、国内外の研究者及び一般の方々に提供する。


国際共同研究加速基金

研究課題

非相似拡大的選好と内生的時間選好による動学的貿易理論の再構築(国際共同研究強化)(平成27年度~30年度)

研究組織

岩佐 和道

研究目的

貿易モデルをもちいた理論分析では、家計の選好に関して強い二つの仮定(相似拡大的選好と外生的に与えられた一定の主観的割引率)がおかれていた。しかし、これらの仮定は分析を大幅に簡便化する一方で、現実のデータとは全く整合的でないことがあきらかになっている。
基課題の研究では、これらの仮定をおくことなく、現実のデータに整合的な動学的貿易モデルを構築し、それらのモデルの基本的な性質を明らかにしてきた。

非相似拡大的選好および内生的時間選好のモデルへの導入方法、および動学的ヘクシャー・オリーンモデルの定常均衡の分析に関するこれまでの研究成果をもとにして、本研究では、モデルの中で内生的に生じる家計の異質性(所得の多寡により異なる消費パターンや割引率)を明示的に取り扱ったモデルを用いて、国際貿易との国内外の所得格差の関係等に関する理論分析を行い、有効な政策提言を行うことを目的とする。


研究活動スタート支援

研究課題

従業員との契約と利益調節行動の関係性に関する研究(平成27~28年度)

研究組織

藤山 敬史

研究目的

本研究の目的は、従業員との契約と利益調整の関係性について検討することである。日本では判例法理や社会慣行により従業員を整理解雇することは容易ではない。したがって、本研究では従業員と他の利害関係者との利害対立が生じる状況として人員削減をとらえ、人員削減の必要性を従業員に示す為に経営者が利益低下型の利益調整を行うのかどうかを異常会計発生高および減損損失に着目して検証する。

さらに、従業員の影響力が強い場合(たとえば、労働組合が組織されている場合や従業員持株会持株比率が高い場合)、人員削減の交渉はより困難になることが予想されるため、経営者が利益を調整する程度が異なるのかどうか検証する。本研究は、近年、適正な業績への関心が高まり、雇用慣行が変化し始める中、活発な議論が行われているコーポレート・ガバナンス改革に対して資する証拠が提示されると期待される。

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