プロジェクト

時系列データを用いてマクロ経済における景気循環変動及び経済政策に関する実証分析を行っている。特に、計量経済学及び時系列分析手法を応用することで、経済学的な因果関係に基づいた実証分析を行う。更に、現代の数量データのみならず、江戸時代や明治・大正時代も含めた歴史データ及びテキストデータも分析対象にすることで、データに基づいた経済理論の現実妥当性を包括的に検証する。

キーワード

マクロ実証分析、金融政策、計量経済学、時系列分析

研究プロジェクト


研究助成金

1. 金融政策の役割及び波及経路の再検討

 金融市場・実体経済における金融政策の役割を理解するには経済理論モデルを用いることが必要不可欠であるが、その現実妥当性は現状では限定的である。

とりわけ、標準的な経済学の教科書で想定している金融政策は現実の金融政策運営と整合的ではない。例えば、LM 曲線で想定される金融政策は、「短期金融市場へのベースマネーの供給→貨幣市場におけるマネーストックの増加→貨幣需要を通じた政策金利低下」といった貨幣政策を中心に考える。しかし、ベースマネーとマネーストックとの関係を表す貨幣乗数は90年代以降不安定であり、中央銀行がマネーストックを直接操作することは困難である。更に、近年ではベースマネー供給とはほぼ独立な形での政策金利誘導が実際に行われている。これらの観測事実は、現実の短期金融市場における金融政策の役割が標準的な教科書の説明とは全く異なることを示唆している。

また、LM 曲線で含意されている金融政策は貨幣市場安定化の役割としての貨幣政策にのみ焦点を当てる一方、現実の金融政策運営は景気やインフレ率に関するマクロ経済安定化の役割を果たすために政策短期金利を含めた広範囲の金融市場へ働きかけを行っている。 Shibamoto (2016a)は、政策金利が内生的に景気や物価に反応するという金融政策の役割を無視することで政策効果が過小評価されることを実証的に明らかにした。この点と関連し、中央銀行が景気やインフレ率に関して政策金利を誘導することを描写した金融政策反応関数(MP)を用いたAS-IS-MP モデルがAS-IS-LM モデルに代わり国内外における主要な金融政策分析ツールの一つになっている。


ただし、近年の中央銀行は必ずしもAS-IS-MP モデルにおいて想定されているような政策金利誘導のみを政策手段としているわけではなく、ベースマネーの供給(量的緩和)や長期国債/社債/株式等の非伝統的資産の購入(質的緩和)といった非伝統的な政策手段も活用した政策運営を行っている。Nakashima, Shibamoto and Takahashi (2017)は、政策金利誘導・量的緩和・質的緩和の効果を分割して分析する手法を開発し金融市場・実体経済に与える動学的因果効果を推定したところ、政策手段の違いによって金融市場(株価や長期金利)を通じた実体経済波及効果が異なることを明らかにしている。


また、政策手段を通じた役割のみならず、期待に働きかける政策(期待管理政策)の重要性も近年指摘されている。Shibamoto (2016b)では、市場とのコミュニケーション効果が政策手段自体の効果とは別に存在していることを実証分析で明らかにし、中央銀行の意図を正確に伝えるための市場との対話の重要性を指摘している。更に、Shibamoto (2017)では、将来の政策についてのフォワードガイダンスに関し「経済状況の変化に応じて将来の政策行動の変化を伝える性格のもの」(デルフィ型フォワードガイダンス)と「将来の政策当局自身の行動を制約する性格のもの」(オデッセイ型フォワードガイダンス)とで政策効果が異なる可能性があることを指摘している。

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2. 長期停滞期における景気循環変動メカニズムの解明

日本及び先進諸国において近年指摘されている長期停滞(Secular Stagnation)の背後にある経済メカニズムを実証的に検討する。特に、日本の90年代におけるバブル崩壊以降の失われた20年と呼ばれる長期的な経済停滞、そして世界金融危機後の先進諸国において、「持続的な需要不足」及び「潜在成長率(自然利子率)の低下」が「同時に」生じている。本研究プロジェクトでは、標準的な経済理論における需要サイドは供給サイドに長期的には影響しない(古典派の二文法)という前提の現実妥当性を検討し、そして、需要サイドと供給サイドが相関する可能性も考慮した上で長期停滞下におけるマクロ経済メカニズムを実証的に明らかにすることである。

実体経済における金融政策の役割を理解するには総需要・総供給関係に基づく景気変動メカニズムを明らかにする必要があるが、現実のデータは標準的な総需要・総供給関係の現実妥当性を統計的に支持しないことが多い。Shibamoto and Miyao(2012)は、需要は生産に長期的には影響しないという標準的な経済理論による仮定(古典派の二文法)の現実妥当性が支持されず、90年代以降の日本の長期停滞期における生産と物価の推移を説明する際の需要サイドと供給サイドとの相関の重要性を指摘している。また、柴本(2016c)では、標準的に用いられる相対的危険回避度一定型消費資産価格モデルに基づくオイラー方程式(IS)の現実妥当性は認められないことを明らかにしている。更に、Shibamoto (2009)では、標準的なAS曲線の現実妥当性は限定的であるものの、金融政策の供給サイドに与える影響も考慮した場合のAS曲線のインフレ率の説明力は比較的良好であることを実証的に明らかにしている。

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3. 期待形成メカニズムに関する文理融合研究

 近年、安倍晋三内閣の経済政策である「アベノミクス」が日本のみならず世界中の学会・メディア等で注目されている。自民党は「失われた20年」と呼ばれる日本経済の長期低迷、そして「デフレからの脱却」を目的として、「大胆な金融緩和」・「機動的な財政出動」・「民間投資を喚起する成長戦略」を「3本の矢」としたマクロ経済政策を政権交代後の公約として掲げた。株式市場参加者は、このようなニュースに即座に反応し、政権交代がささやかれはじめた2012年後半以降、日本の株価は上昇に転じた。金融市場の好転を受けて、景気や物価といった実体経済も現在回復を続けている。

経済学分野において、株価に代表される金融及び経済変数は、将来の期待に依存すると考えられている。上記の事実から明らかなように、たとえ実際に経済政策が行われていないにもかかわらず、将来に対する政策に関するニュースに応じて株価は大きく変化し、そして実体経済にも波及する。将来の期待の役割を無視して、実際に起こっている経済現象の因果関係を理解することはできない。

しかし、従来の経済学の計量手法による経済予測モデルでは、期待の役割を十分に考慮することができていない。実際、上記のような市場マインドの変化を従来のマクロ変数等の数量データだけでは十分に捉えることはできないだろう。このことは、政策当局・シンクタンク等で主に用いられている経済予測モデル(時系列モデル、経済理論を応用した構造モデルなど)では、上記のような期待を通じた現実の経済現象を捉えきれていないことを意味する。そのため、これまでとは異なる新たな手法に基づく経済モデルを開発することが必要不可欠である。


近年、認知科学研究領域における脳の認識のメカニズムを模した深層学習技術が、人工知能やデータ工学の分野で注目されている。実際、深層学習が,画像認識や音声認識で従来のモデルのパフォーマンスを上回ることが知られている。更に、深層学習の応用が言語情報の表現や認識にも拡がってきており,新聞記事・ニュースストリーム・ウェブなどの大量の言語データでモデルを学習することで,言語情報からの知識(たとえば日銀総裁が何を言ったかなど)の認識が近い将来可能になると見込まれることが期待されている。このような手法に基づく経済モデルの開発は、従来の数量データでは捉えきれない情報を、膨大な言語データから掘り起こそうという新しい試みと言える。

本研究では、深層学習技術等を用いることで、数量データでは捉えきれない人々の期待に関する情報を言語情報から抽出することを試みる。テキストマイニング手法を応用して株価に代表される金融変数に与える影響を分析する研究はこれまでにも行われており、その重要性を指摘する声も少なくない。本研究では、実物物価を含めた様々なマクロ変数に与える影響など、経済学のこれまでの知見を活かした上で将来の期待の役割を包括的に分析することを試みる。

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4. 江戸時代経済に関するマクロ時系列分析

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