プロジェクト概要

近年、日本企業のインド進出が目覚しい。在インド日本国大使館によれば、2008年での進出企業数・拠点数は550社・838拠点であったのが、2016年には1305社・4590拠点にまで増加している。この8年間で企業数でみて755社の日系企業が新規にインドに進出し、その拠点数をみると実に3752拠点も増加している。国際協力銀行によれば、インドは、インドネシアや中国を押しのけて2014年から2016年の3年連続で日本企業からは最も有望な事業展開先国としてみなされている。実際、インドは、2015 年には景気後退にある中国を抜いて、主要国では経済成長率が最も高い国になった。IMFの予測によれば、インドの成長率は7%台半ばから後半を推移し、2021年まで一貫して中国のそれを上回る。1980年以降、中国とインドの経済成長率の1年以上にわたる逆転現象は天安門事件直後を除くと史上初めてである。


さらに、近年、南アジアへ進出する日系企業が急増し、インドの情報通信産業(ICT)や製薬産業はもちろん、アパレル製品の輸出が目覚ましいバングラデシュの繊維産業や日系企業が市場を独占しているパキスタンの自動車産業にも注目が集まっている。これらのことは、世界経済における成長の極が東アジアから南アジアへと漸次移行するという壮大なドラマの幕開けを意味するのか、それとも、景気循環要因による成長率の一時的な逆転現象でとるに足らない瑣末なエピソードに過ぎないのだろうか。


以上のように、目覚しい経済成長で日本企業から最も注目されているインド経済を始めとする南アジア経済を、経済学・地域研究・経営学・地理学・人類学という多様なディシプリンからなる混成研究チームによって、その産業発展の特殊性と普遍性のみならず南アジア進出日系企業がその産業発展に果たす独自の役割にも焦点を当てて実証的に分析することが、基盤研究(A)「南アジアの産業発展と日系企業のグローバル生産ネットワーク」(2017~2021年度、課題番号:17H01652、研究代表者:佐藤隆広)の課題である。本研究は、日系企業のグローバル生産ネットワークによる南アジア産業発展の再編を日本的生産経営システムのハイブリットモデルと企業異質性に注目する新新貿易理論をベースにして産業のみならず企業単位も含めて実証的に分析する。また、新しい政治経済学の立場から、南アジア産業発展の政治経済学も分析する。さらに、本研究は、企業の生産性を企業異質性の源泉と経済実績の尺度として最重視する。したがって、企業生産性の精度の高い推定にも注力したい。


なお、本研究は、基盤研究(B)「インドの産業発展と日系企業」(2013~2016年度、課題番号:25301022、研究代表者:佐藤隆広)を継承発展させたものである。基盤研究(B)の研究成果物は、佐藤隆広編『インドの産業発展と日系企業』叢書77、神戸大学経済経営研究所、2017年として無償公開している。本研究においても、評価の高い海外学術雑誌への投稿はもちろんのこと、日本社会への研究成果の還元のために日本語での啓蒙書を含む研究成果物も積極的に公開したい。


2017年7月31日
研究代表者
神戸大学経済経営研究所教授
佐藤隆広

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