兼松セミナー(TJAR Workshop共催) Kanematsu Seminar (Jointly Supported by: TJAR Workshop)

日時 2014年3月22日(土)午後2時30分から
会場 神戸大学経済経営研究所 会議室(新館2階)
対象 教員、院生、および同等の知識をお持ちの方
使用言語 日本語
備考 論文のコピーは共同研究推進室にご用意しております。

2:30pm~

報告者 山地 秀俊
所属 神戸大学経済経営研究所
論題 ニューロアカウンティング
概要 人間は合理性と非合理性(感情、情動)を併せ持って、それらに基づいて行動するが、実際の経済活動ではそれらの現れ方が一様ではない。しかし、一様ではない人間の行動を集約し一様にする社会制度(例えば市場)が存在する。だが他方、その社会 制度の個別の人間行動の集約能力には限界がある。その間の脳活動の関与する部分、あるいは脳活動から分る合理性・非合理性の部分について、会計の問題(証券市場取引・分配行動・割引行動)に関連させながら議論する。

4:10pm~

報告者 岡部 孝好
所属 神戸大学 名誉教授
論題 姿を消した発生処理高アノマリーと利益の非持続的要素を追跡する新しい手法
概要 会計利益を営業活動によるキャッシュ・フローCFOと発生処理高(発生高ともいう)TACに二分し、それぞれの動きを跡づけてみると、TACにはすぐに消えてしまうという顕著な特性があることが明らかになる。TACがもつこの非持続性(non-persistence)という特性が、情報効率的な証券市場において看過されているという点を突き止めたのはSloan (1996)である。実証会計学におけるこの画期的な発見は、発生処理高アノマリー(accruals anomaly)として広く知られているところである。
ところが、この発生処理高アノマリーは次第に影を薄くしてきており、いまではその存在の検証も困難になっているといわれている。その原因については多数の見方があるが、誰もが認めているたしかなことは、TACの非持続性はいまでは投資者の間で広く理解されており、株価の評価に織り込み済みになっているという点である。証券市場においては同額の会計利益であっても、CFOが多い会計利益とTACが多い会計利益とは別ものとみられていて、それぞれが異なる価格で評価されているのである。
他方、会計研究者の方に目を向けると、CFOとTACとの間のこのような明確な区別は必ずしも一般的なことではない。TACがなぜ非持続的性格をもつのかは、実証会計学の研究者においてさえ不確かなことが少なくない。TACが短期間のうちに姿を消すことはたしかだとしても、TACがどこでどう創生され、そしてどこでどう解消されるのか、そのプロセスについてはなおも未知の事柄が多い。そこでこの報告では、TACの創生から解消に至る全プロセスに視野を拡げ、非持続性というその特性がどこから生まれてくるのかを究明することにしたい。
TACの生成要因の1つは見積誤差(estimation errors)であるが、収益・費用の金額の裁量的決定を通じて見積誤差が意図的に創生され、そして解消されていくプロセスについては、先行研究によりかなりの程度まで知見が蓄積されている。しかし、収益・費用の認識時点の恣意的選択にもとづくタイミング誤差(timing errors)にはほとんど注意が払われておらず、取引タイミングの操作を原因とするTACの動きは未解明のままに放置されている。そこで、日本企業における収益・費用の認識時点操作の事例を具体的に検討し、TACのプロセスを追跡する新しい実証会計学の研究方向を提示することにしよう。