タイトル

地域の観点から見た金融行動と金融リテラシー(2)
-大阪大学「くらしの好みと満足度についてのアンケート」に基づく考察-

要旨

本稿では、大阪大学「くらしの好みと満足度についてのアンケート(2010年調査)」を利用して、家計の金融行動と金融知識の現状の地域的な違いについて検討した。その結果、金融資産の額や株式保有確率(株式を持っているか否かの比率)、株式保有比率(金融資産の中での株式の比率)などの金融行動の点で(単純に比較すると)地域間の相違が見いだされた。この地域的な違いは、所得、年齢、学歴などの要因をコントロールすると、金融資産残高については見られなくなるが、株式保有確率や株式保有比率については残った。ちなみに、株式保有確率に関しての推計結果によると、女性の株式保有確率が低く、学歴が低いと株式保有比率が低く、逆に、高齢であるほど、月収が多いほど、世帯金融資産が多いほど、さらには、世帯保有不動産資産が多いほど、株式保有確率が高い。一方、地域ダミーは、九州、東北、甲信越で有意に負となっており、推計に使ったコントロール変数だけでは表し切れていない地域性が影響していることを示唆している。株式保有比率に関しては、所得等の要因をコントロールしても、東海地域は関東地域に比べて有意に株式保有比率が低いとの結果が得られている。 金融行動や知識に関する自己評価(たとえば、「私は金融に詳しい」)については地域間の相違は見いだされなかったが、「子供の頃、親から金融の話をよく聞いた」という回答については、地域間に相違があり、全国の中では「東海」の家庭で金融の話が行われておらず、この点については、地域間に統計的に有意な相違があるとの結果となった。 大阪大学調査の特徴は、金融知識に関して直接的な質問を用意していることである。初歩的な利子率の問題でも正答率は7割を切っており、分散投資の問題では正答率は4割にも満たず、現状では、日本における金融知識が十分ではないことがわかる。また、この金融知識に関して、地域間に統計的に有意な違いがあることが検出された。さらに、大阪大学調査では、税制に関する知識についても直接的な質問が用意されている。税制に関する知識についても地域間に統計的に有意な違いがあることが検出された。
 本稿では、こうした違いが狭い意味での地域特性(文化や風土など)に依存するのか、それとも地域の所得環境などの経済的な違いによるものなのかを調べてみるために、金融知識の多寡の要因分析を行ってみた。その結果、女性、若者、低収入者、低金融資産保有者、低学歴ほど、金融知識が乏しい傾向が見られ、一方で、地域ダミーは有意とはならなかった。つまり、金融知識の多寡については、所得などをコントロールすると、地域的な相違はないということになる。同様に、税制に関する知識も、所得などをコントロールすると、地域間での格差はないと判断できる結果が得られた。 最後に、生活設計の実践度に関しては、地域間に違いを見いだすことはできなかった。

キーワード

金融知識、金融行動、金融リテラシー、地域間格差


連絡先

神戸大学経済経営研究所
家森 信善
E-mail: yamori@rieb.kobe-u.ac.jp