科学研究費補助金による研究(平成22・23年度) List of Grants-in-Aid for Scientific Research (2010 - 2011)

特定領域研究

研究課題 実験社会科学-組織構造の分析と設計(平成19~24年度)
研究組織 下村 研一(研究代表者)、山地 秀俊、磯辺 剛彦、後藤 雅敏、又賀 喜治、小笠原 宏
研究目的 まずはじめは、組織が市場および内部において一般に行なう意思決定の共通原理を見つけ、実験の設計を意識しながら決定原理のモデル構築を行なう。次にモデルが適切に構築されているかどうかを理論中心の研究会とパイロット実験により検証する。扱う問題は「企業の組織行動」と「企業統治」から始める。モデルは標準的な経済学の方法論を意識し、組織が完全に合理的な人間の集まりならばどのような行動をとるかを理論的に予測し、順次データのある事例を考察する。実験のための理論モデルを構築する過程では、本研究と関係あると思われる既存の理論モデルと実験結果のサーベイを行ない、これに並行しそれぞれの分野の専門家である他大学の研究者と研究交流を行なう。

基盤研究(A)

研究課題 グローバル経済におけるバブルと金融危機に関する研究:理論と実証(平成21~23年度)
研究組織 上東 貴志(研究代表者)、髙橋 亘、地主 敏樹、北野 重人、柴本 昌彦、敦賀 貴之、小林 照義、立花 実
研究目的 1929年のニューヨーク株式市場大暴落が招いた世界恐慌以来、資産バブルの崩壊(もしくは資産価格の暴落)により数多くの金融危機が引き起こされてきた。特に80年代以降、経済のグローバル化により国境を越えた資金移動が活発になり、バブルの発生・崩壊、及びバブル崩壊を引き金とした(通貨)金融危機が頻繁に見られるようになった。80年代後半から90年代初頭の日本のバブル経済、90年代のラテンアメリカの消費バブル及び東南アジアの投資バブルは、崩壊後に深刻な金融危機を招いた顕著な例である。
 現在世界経済は、米国の住宅バブル崩壊に端を発し、世界恐慌以来最悪とも言われる経済危機に直面している。経済のグローバル化に伴い、バブルの発生・崩壊が頻繁になっただけではなく、1国で起きた金融危機はもはや世界経済全体に深刻な影響を及ぼすようになった。その一方で、日本や欧米諸国による莫大な公的資金注入の効果に対しては懐疑的な意見も多く、バブル・金融危機・経済危機への対応策は未だ確率されていない。本研究の目的はグローバル経済におけるバブルの発生・崩壊、バブル崩壊が引き起こす金融危機、及び1国で発生した金融危機がグローバル経済に与える影響を理論・実証の双方向、及びミクロ・マクロ・グローバル的視点から総合的に分析・検証し、バブル期・金融危機時に有効な経済政策を提言することである。

基盤研究(B)

研究課題 資源配分メカニズムの分析と設計:理論と実験(平成20~23年度)
研究組織 下村 研一(研究代表者)、武藤 滋夫、大和 毅彦、橋本 介三、瀋 俊毅
研究目的 本研究では、効率的で公平な資源配分と利得配分を実現する制度はどのように設計できるのかについて、一般均衡理論とゲーム理論に基づく理論分析を行い、経済実験も実施する。具体的には、まず競争市場下の均衡の安定性分析,特に競争均衡が複数存在する条件に関する理論研究を再検討する。経済を記述する選好と初期保有のパラメータの値が与えられたもとで、均衡が唯一かあるいは複数存在するのかを示す従来の型での考察に加え、複数の価格のリストが与えられたもとで、それらが均衡価格となるような経済(選好と初期保有の値)をどのように構成するかを明らかにする条件を導出する。次に、安定性の理論を実験で検証する。あらかじめ複数種類の商品を初期保有という形で有する多数の消費者による市場での商品の取引を経て、各商品の価格が各市場の需給をバランスさせる水準に収束するのかしないのか、収束するとすればそこに至る過程はどのようなものであるか、収束しないとすれば価格はどのように変化するのかを確認する。
研究課題 ラテンアメリカ社会の調和と対立に関する政治経済学的研究(平成21~23年度)
研究組織 浜口 伸明(研究代表者)、西島 章次、村上 勇介、宇佐見 耕一、幡谷 則子、高橋 百合子
研究目的 資源収奪的な植民地経済という歴史要因に起因する格差構造を基層とするラテンアメリカ社会において、ある場合には社会の調和が保たれ、別の状況下では階層間対立が繰り返されている。このような現象を整合的に説明するために、個人あるいはグループのミクロ的行動および異なる利害グループ間の相互作用を陽表的に検討する。本研究は、地域および特定国の特殊性を考慮した地域研究の立場から、個人・組織・国家の行動の解明する社会科学の手法によりラテンアメリカ社会の特質を解明しようとする。本研究を通じてラテンアメリカ地域でこれまで行われてきた諸改革が社会に構造的な変化をもたらしたことを明らかし、今後の研究課題を提示する。
研究課題 アフリカにおける民族の多様性と経済の不安定性の総合研究(平成22~24年度)
研究組織 日野 博之(研究代表者)、高橋 基樹、浜口 伸明、下村 研一、寺西 重郎
研究目的 本研究の目的は、経済学、経済史、政治学、人類学を学際的に組み合わせ、アフリカを対象に、民族の多様性と経済の不安定性のリンケージを包括的に検証し、経済政策と経済制度への含意を導出することである。本研究は、理論、実証、実験、歴史的考察にケース・スタディーを加え、「民族の多様性と経済成長との間には、負の相関関係が真に存在するのか」等の疑問に答えつつ、分析結果から得られる見識を基に具体的な政策提言を行う。ケース・スタディーには、直近、民族間の亀裂を原因として紛争の発生したケニアを取り上げる。

基盤研究(C)

研究課題 ラテンアメリカにおける家計調査データを用いた所得分配の研究(平成20~22年度)
研究組織 西島 章次(研究代表者)、浜口 伸明
研究目的 本研究では、ブラジル、メキシコ、チリに関し、経済自由化が所得分配・賃金格差・貧困などにいかなる影響を与えているかを、家計調査ミクロデータを用いた計量分析で明らかにする。具体的な第1の研究課題は、賃金格差や所得格差を、教育、経験年数、勤続年数、職種などの個人の属性をコントロールした上で、経済のopennessの指標を追加して実証することである。第2の研究課題は、メキシコ、ブラジル、チリの比較研究である。それぞれの国では経済自由化の開始時期やその程度に差があり、こうした相違が分配や貧困にどのような差をもたらしているのか、また、それぞれの国での格差是正政策がどのような効果を有しているのかを、家計調査によるミクロデータを用いて検証する。
研究課題 製造業が行うモノとサービスによる価値創造の研究(平成22~24年度)
研究組織 伊藤 宗彦(研究代表者)
研究目的 本研究は、製造企業が行うサービスに関するものである。近年、製造業では、多くの業態でコモディティ化が顕著になっている。本研究は、コモディティ化の対策として、企業がものつくりだけではなくサービス価値を提供することによりこうしたコモディティ化を克服している事例を研究することを狙いとしている。近年、企業が考えてきた"良いものは必ず売れる"というモノ中心の考え方を"Good Dominant Logic"とすると、付加するサービスを中心にビジネスを考えることを、"Service Dominant Logic"とする考え方が提唱されている(Vargo and Lusch, 2004)。しかしながら、"Service Dominant Logic"は、あくまで概念を示したものであり、実際の市場において、どのように実践されているのか、また、どのような価値が、どれほど生み出されているのかといった実証的な研究は少ない。そこで本研究では、モノとサービスにより新たなビジネスモデルを構築しながら収益を上げている企業を取り上げ、どのような価値創造がなされているのか、またどのようなマネジメントがされているのかについて、実証的な調査・研究を進めた上で、モノとサービスによる価値創造が実行されるプロセスを明らかにし、理論的研究を発展させることを目的とする。
研究課題 『兼松史料』による戦前期日本企業の賃金構造の分析(平成22~24年度)
研究組織 藤村 聡(研究代表者)
研究目的 戦前期の日本企業の人事システムや賃金構造に関しては、すでに重工業系の官立工場や民間紡績メーカーを中心に研究が進められている。しかし、そこでの分析は専ら職工などのラインの労働者が対象であり、ホワイト・カラーの研究は乏しい。また従来の研究では資料的制約が大きいために、制度面での分析が主となり、その運用実態に関しては不明か部分が少なくない。 神戸大学経済経営研究所は貿易商社兼松(現在の兼松株式会社)が創業した明治22(1889)年から第二次世界大戦直前までの経営原資料を架蔵しており、本研究では『兼松史料』を駆使して、わずか数名の従業員で出発した兼松が、昭和期には300名を超える貿易商社に成長した過程を通じて、戦前期日本企業の人事システムの実態、とりわけ賃金構造を精密に分析する。
研究課題 国際的なM&Aにおける人的資源問題(平成22~24年度)
研究組織 Ralf BEBENROTH(研究代表者)、関口 倫紀、井口 知栄
研究目的 本研究は、海外の戦略的投資会社による、合併・買収の標的となる日本企業の人的資源問題について行う。日本の対内直接投資は極めて低い水準であるが、合併・買収市場は拡大しており、また海外企業による日本企業の合併・買収も増加している。しかし、このことについて経営学的なアプローチでは十分な研究がなされていない。本研究は企業の人的資源問題に特化し、ドイツ、イギリス、アメリカによって合併・買収された日本企業を調査、比較及び分析する。その過程において、買収・合併企業と被買収・合併企業の双方の目的、合併・買収企業の国籍の違いが与える人的資源問題への影響を明らかにし、日本の合併・買収市場及び対内直接投資のさらなる規模拡大のための示唆を提供したいと考えている。
研究課題 両大戦間期炭鉱業経営と事業費予算管理の展開(平成23~25年度)
研究組織 野口 昌良
研究目的 本研究は、九州大学・慶應義塾・福島大学各図書館・センター所蔵の炭鉱関係資料を利用し、わが国の重要炭鉱業各社によって実施された予算統制実務を検証することによって、戦間期および戦時期日本の基幹産業における会計実務というコンテクストから、これまでの予算統制の歴史的展開に関する議論に対して一定の貢献を果たすことを目的としている。 とりわけ、1920-30年代の産業合理化運動以前に、他産業に先駆けて炭鉱業各社において発達した予算統制実務がいかなる要因に基づいていたのか、その生成過程において日本政府がいかなる役割を果たしたのか、これらの諸点について精緻な分析を行うことが本研究の目的である。
研究課題 近世金融市場における私的統治と公的統治-「大名貸」の比較制度分析(平成23~25年度)
研究組織 高槻 泰郎(研究代表者)、中林 真幸、結城 武延
研究目的  金融市場における資金調達の形態は、貸し手と借り手との間に存在する情報非対称の程度に応じて、匿名的な市場取引と、関係性に依存した取引を両極とする無数の組み合わせの中から選択される。前者を公的な統治の下に行われる市場ベースの金融取引(arms-length financing)、後者を私的な統治の下に行われる関係的融資(relational financing)とすれば、我が国においては、後者の関係的融資が重要な位置を占めてきたと言われている。しかし、貸し手と借り手の間に存在する情報非対称がいかに緩和されたのか、協調融資を行った金融機関同士でいかなる情報交換がなされたのか、といった点に肉薄する研究は存在しない。本研究は、これを明らかにする鍵を徳川時代に求める。鴻池屋善右衛門(現三菱東京UFJ銀行)や加島屋久右衛門(現大同生命保険)といった両替商は、貸付先となる大名の大坂蔵屋敷に手代を派遣して財政上の意志決定に参画させつつ、融資の可否を決定し、貸付額が自身の手に余る場合には、他の両替商と協調融資を行っていた。大坂の両替商が実現した関係的融資は、幕府による債権保護が脆弱であったことを一つの背景に形成されたものであるが、近代的な司法制度が整備された後も、全ての金融取引が市場ベースの取引に収斂したわけではない。我が国において関係的融資が重要な役割を果たしてきたとするならば、少なくとも過去300年間の金融市場の歴史を振り返り、その実態を解明していく作業が求められる。

若手研究(B)

研究課題 金融政策が物価に及ぼす影響:日本の品目別消費者物価及び企業物価を用いた実証分析(平成20~23年度)
研究組織 柴本 昌彦
研究目的 本研究は、日本の産業別・品目別消費者物価及び企業物価を用いて、日本の金融政策が物価へ与える影響を精密に実証分析することを目的としている。具体的には、Factor Augmented Vector Autoregressive (FAVAR)モデルを用いて個別物価ショックと金融政策ショックに分け、それらのショックが品目別物価及び一般物価へ与える影響の違いを分析する。注目する点は以下の3点である。(1)個別物価ショックと金融政策ショックが品目別物価に与えるまでのタイムラグに違いがあるのか。(2)品目別の価格硬直性の異質性と、金融政策ショックが物価へ影響するまでの持続性とに関連性があるのか。(3)金融政策ショックが品目別物価へ与える影響の違いを産業属性等で特徴付けることができるのか。
研究課題 決算発表と私的情報に基づく取引確率との関連性に関する実証研究(平成21~23年度)
研究組織 村宮 克彦
研究目的 近年、米国では企業情報に関して、選択的開示を禁止し、情報開示に対する投資者間の公平性を確保しようとするレギュレーションFDが施行された。一方、日本でもオンライン・トレードの普及などに伴って、個人投資家が年々増加し、主に一般に利用可能な情報のみを頼りに株式売買を行う個人投資家とそうでない投資家との情報格差の問題が浮き彫りになっている。このような背景から、近年、株式市場における情報開示に対する投資者間の公平性や情報格差が注目されている。本研究課題では、最近のこうした投資者を取り巻く情報環境を鑑み、情報開示の中核にある決算発表に焦点をあて、その制度が投資者間の公平性の確保に寄与し、情報格差の改善に役立っているかどうかを実証的に評価する。
 具体的に本研究課題では、主として次の2点を明らかにすることを目標にする。すなわち、(1)決算発表が投資者間の情報格差の改善に寄与しているかどうかを実証的に明らかにし、もって株式市場における決算発表制度の役割を検討するのである。それと同時に、(2)決算発表時に経営者による次期の予想利益も同時に公表するという日本独自の制度に着目した研究も行う。そこでは、海外共同研究者の協力のもと、経営者予想利益の公表をも行う日本の決算発表制度とそれを行わない諸外国の決算発表制度を分析対象として、国ごとに決算発表と情報格差との関連性が相違するかどうかを検証する。
研究課題 非上場会社の利益調整に関する実証研究(平成22~24年度)
研究組織 首藤 昭信
研究目的 本研究は、我が国の非上場企業の利益調整行動を実証的に解明することを目的としている。具体的には、非上場企業の利益調整行動を上場企業と比較することによって、非上場企業の利益調整の特徴を検出することを目的とする。日米における先行研究のほとんどは、上場企業を分析対象としたものであり、非上場企業の裁量的会計行動に関してはほとんど解明されていない。本研究では、税コストや金融機関との結びつきの強さが、利益調整を誘引する(しない)主要な要因となるという仮説を設け、その実証分析を行う。実証分析を通じて、上場企業とは異なる利益調整行動を特定することができれば、非上場企業の企業行動の解明に貢献することが期待される。
研究課題 太陽光発電のイノベーションと企業間競争における複数製品分野間の影響関係(平成22~25年度)
研究組織 松本 陽一(研究代表者)
研究目的 日本では過去40年以上にわたり太陽電池をはじめとする太陽光発電関連技術の開発が進められ、その産業技術は一貫して世界トップの水準を維持してきた。ところが、地球環境問題への関心の高まりなどから太陽光発電の産業が急速に成長し始めた段階になって日本企業の世界的な地位が低下している懸念がある。太陽電池は半導体や液晶といった製品に類似の技術が使われ、それらに関連する企業が新規参入している。本研究は、太陽光発電におけるイノベーションに他の製品と共通の技術や、それを用いた企業がいかなる影響を与え、また、この分野の企業間競争にどのように関わってきたのかを明らかにし、そのような重層的競争構造の分析枠組みを提起する。