科学研究費補助金による研究(平成20・21年度) List of Grants-in-Aid for Scientific Research (2008 - 2009)

特定領域研究

研究課題 実験社会科学-組織構造の分析と設計(平成19~24年度)
研究組織 下村 研一(研究代表者)、山地 秀俊、磯辺 剛彦、後藤 雅敏、又賀 喜治、小笠原 宏
研究目的 まずはじめは、組織が市場および内部において一般に行なう意思決定の共通原理を見つけ、実験の設計を意識しながら決定原理のモデル構築を行なう。次にモデルが適切に構築されているかどうかを理論中心の研究会とパイロット実験により検証する。扱う問題は「企業の組織行動」と「企業統治」から始める。モデルは標準的な経済学の方法論を意識し、組織が完全に合理的な人間の集まりならばどのような行動をとるかを理論的に予測し、順次データのある事例を考察する。実験のための理論モデルを構築する過程では、本研究と関係あると思われる既存の理論モデルと実験結果のサーベイを行ない、これに並行しそれぞれの分野の専門家である他大学の研究者と研究交流を行なう。

基盤研究(A)

研究課題 内生的時間選好を導入した国際貿易・投資の動学的一般均衡理論の確立(平成18~21年度)
研究組織 趙 来勲(研究代表者)、菊地 徹、土居 潤子、胡 云芳、上東 貴志
研究目的 本研究の目的は、内生的時間選好を明示的に導入した新しい国際貿易・投資の動学的一般均衡モデルを、収穫遁増、財市場や生産要素市場の競争の不完全性、成長率の内生的決定、貿易政策・マクロ経済政策等をとりいれて発展させ、基本的に静学的な均衡概念に基づいている既存の国際貿易理論と、近年動学的一般概念に依拠しつつ比較的に発展してきてはいるが、閉鎖済あるいは小国開放経済を前提にしているマクロ経済学の境界領域に新たな理論体系を確立することである。
研究課題 グローバル経済におけるバブルと金融危機に関する研究:理論と実証(平成21~25年度)
研究組織 上東 貴志(研究代表者)、宮尾 龍蔵、地主 敏樹、北野 重人、柴本 昌彦、敦賀 貴之、小林 照義、立花 実
研究目的 1929年のニューヨーク株式市場大暴落が招いた世界恐慌以来、資産バブルの崩壊(もしくは資産価格の暴落)により数多くの金融危機が引き起こされてきた。特に80年代以降、経済のグローバル化により国境を越えた資金移動が活発になり、バブルの発生・崩壊、及びバブル崩壊を引き金とした(通貨)金融危機が頻繁に見られるようになった。80年代後半から90年代初頭の日本のバブル経済、90年代のラテンアメリカの消費バブル及び東南アジアの投資バブルは、崩壊後に深刻な金融危機を招いた顕著な例である。
 現在世界経済は、米国の住宅バブル崩壊に端を発し、世界恐慌以来最悪とも言われる経済危機に直面している。経済のグローバル化に伴い、バブルの発生・崩壊が頻繁になっただけではなく、1国で起きた金融危機はもはや世界経済全体に深刻な影響を及ぼすようになった。その一方で、日本や欧米諸国による莫大な公的資金注入の効果に対しては懐疑的な意見も多く、バブル・金融危機・経済危機への対応策は未だ確率されていない。本研究の目的はグローバル経済におけるバブルの発生・崩壊、バブル崩壊が引き起こす金融危機、及び1国で発生した金融危機がグローバル経済に与える影響を理論・実証の双方向、及びミクロ・マクロ・グローバル的視点から総合的に分析・検証し、バブル期・金融危機時に有効な経済政策を提言することである。

基盤研究(B)

研究課題 資源配分メカニズムの分析と設計:理論と実験(平成20~23年度)
研究組織 下村 研一(研究代表者)、武藤 滋夫、大和 毅彦、橋本 介三、瀋 俊毅
研究目的 本研究では、効率的で公平な資源配分と利得配分を実現する制度はどのように設計できるのかについて、一般均衡理論とゲーム理論に基づく理論分析を行い、経済実験も実施する。具体的には、まず競争市場下の均衡の安定性分析,特に競争均衡が複数存在する条件に関する理論研究を再検討する。経済を記述する選好と初期保有のパラメータの値が与えられたもとで、均衡が唯一かあるいは複数存在するのかを示す従来の型での考察に加え、複数の価格のリストが与えられたもとで、それらが均衡価格となるような経済(選好と初期保有の値)をどのように構成するかを明らかにする条件を導出する。次に、安定性の理論を実験で検証する。あらかじめ複数種類の商品を初期保有という形で有する多数の消費者による市場での商品の取引を経て、各商品の価格が各市場の需給をバランスさせる水準に収束するのかしないのか、収束するとすればそこに至る過程はどのようなものであるか、収束しないとすれば価格はどのように変化するのかを確認する。
研究課題 ラテンアメリカ社会の調和と対立に関する政治経済学的研究(平成21~23年度)
研究組織 浜口 伸明(研究代表者)、西島 章次、村上 勇介、宇佐見 耕一、幡谷 則子、高橋 百合子、細野 昭雄
研究目的 資源収奪的な植民地経済という歴史要因に起因する格差構造を基層とするラテンアメリカ社会において、ある場合には社会の調和が保たれ、別の状況下では階層間対立が繰り返されている。このような現象を整合的に説明するために、個人あるいはグループのミクロ的行動および異なる利害グループ間の相互作用を陽表的に検討する。本研究は、地域および特定国の特殊性を考慮した地域研究の立場から、個人・組織・国家の行動の解明する社会科学の手法によりラテンアメリカ社会の特質を解明しようとする。本研究を通じてラテンアメリカ地域でこれまで行われてきた諸改革が社会に構造的な変化をもたらしたことを明らかし、今後の研究課題を提示する。

基盤研究(C)

研究課題 中進工業国としての中国・ブラジルにおける技術革新と産業集積に関する実証研究(平成18~20年度)
研究組織 浜口 伸明(研究代表者)、亀山 嘉大
研究目的 本研究は今まで空間経済学で十分に研究されてこなかった産業集積と技術進歩の関係について実証的研究を行うことによって、知識のスピルオーバーのミクロ経済学的理解を深めるような新しい知見を求めるとともに、これまで投入要素の蓄積に依存して経済発展を遂げてきた中進工業国が生産性上昇を通じて成長を持続するための開発戦略の一つとして、知識創造型産業クラスター戦略を構築するための政策含意を探ることを目的として、次代の経済大国として期待を集めている中国とブラジルを分析対象として研究を進める。
研究課題 自然利子率の計測とそのマクロ政策含意に関する比較実証研究(平成19~21年度)
研究組織 宮尾 龍蔵
研究目的 自然利子率(あるいは均衡実質金利)は、財サービス市場が均衡する際に成立する実質金利に相当し、マクロ経済学やマクロ経済政策を議論する際のベンチマークとなる基本変数である。特に金融政策の分野では、現実の市場実質金利(名目金利マイナス予想物価上昇率)と均衡実質金利の差が金融政策のスタンス(緩和的か引締め的か)を測る尺度となり、自然利子率の計測は重要な政策含意を持つ。
本研究課題の目的は、日本の自然利子率の計測とそのマクロ政策含意について、包括的な比較実証研究を行うことである。宮尾の専門分野であるマクロ経済学の知見と計量経済学・時系列分析の知識を最大限に活用し、より妥当な計測アプローチとその推計結果を導出することを目指す。
ここでは、日本に関する推計に加えて、米国・欧州といった他の先進国についても同様の検証を行い、国際的な視点からの比較研究も実施する。日米欧の比較分析により、それぞれの国の経済構造の違い、景気変動要因の違いが浮き彫りになることが期待される。
研究課題 経営者が公表する予想利益と市場の効率性(平成19~20年度)
研究組織 村宮 克彦
研究目的 本研究の目的は、経営者が公表する予想利益の有用性を企業価値評価の観点から明らかにすることである。すなわち、経営者が公表する予想利益を残余利益評価モデル(residual income valuation model)という企業価値評価モデルにインプットして株式価値(intrinsic value)を推定し、そうすることで現在割高、あるいは割安になっている銘柄を識別することができるかどうか(将来リターンを予測できるかどうか)にもとづいて経営者の公表する予想利益の有用性を判断することを目的としている。もし、経営者が公表する予想利益にもとづく企業価値評価モデルによって将来リターンを予測することができれば、経営者によって公表される予想利益は、投資意思決定上の有用性があり、投資者の企業価値評価にとって有用な情報であることを示すことができる。本研究課題は、先行研究のように経営者予想利益と株価や株式リターンといった市場変数との関連性を検証し、その予想利益の潜在的な有用性を示そうとするものではなく、企業価値評価の観点から経営者予想利益を利用して将来リターンを予測できるかどうかを検証し、投資者にとっての実際的な有用性を示そうとしている点で本研究独自の貢献が期待されよう。
研究課題 情報家電産業における製品イノベーションの価格へのインパクトの研究(平成19~21年度)
研究組織 伊藤 宗彦
研究目的 本研究では、POSデータを用いた統計的手法による実証研究と、実際の企業への訪問調査により、製品戦略と価格の関係について、特にイノベーション(製品品質)が価格に与える影響を測定する。
(1)過去10年間の特定製品の価格推移を中国、日本、ヨーロッパ、アメリカ市場について明確にする。
製品特性を市場環境(市場規模、競合状況、参入企業数)、タイムトレンド(製品成熟度など)、品質(たとえばパソコンであればCPU速度、メモリー、ディスク容量、画面解像度などの技術に関連する項目)に分解し、価格との関係を特定する。
(2)上記分析を通年、単年、隣接年と分けて行うヘドニック価格関数を求めることにより物価変動要素を排除し、できる限り製品品質と価格の関係を定量化する。
(3)複数の産業(ノートパソコン、デジカメ、DVD、液晶・プラズマテレビなどを考えている)について行い、価格下落の程度の差を明確にする。
(4)上記価格推移の産業間格差の要因を定量的に分析する。
研究課題 ラテンアメリカにおける家計調査データを用いた所得分配の研究(平成20~22年度)
研究組織 西島 章次(研究代表者)、浜口 伸明
研究目的 本研究では、ブラジル、メキシコ、チリに関し、経済自由化が所得分配・賃金格差・貧困などにいかなる影響を与えているかを、家計調査ミクロデータを用いた計量分析で明らかにする。具体的な第1の研究課題は、賃金格差や所得格差を、教育、経験年数、勤続年数、職種などの個人の属性をコントロールした上で、経済のopennessの指標を追加して実証することである。第2の研究課題は、メキシコ、ブラジル、チリの比較研究である。それぞれの国では経済自由化の開始時期やその程度に差があり、こうした相違が分配や貧困にどのような差をもたらしているのか、また、それぞれの国での格差是正政策がどのような効果を有しているのかを、家計調査によるミクロデータを用いて検証する。

若手研究(A)

研究課題 製品構想を規定する技術的要因と非技術的要因の分析(平成20~23年度)
研究組織 長内 厚
研究目的 本研究は、企業のR&D活動の中で、事業化の起点となる製品構想を規定する技術的な要因と非技術的な要因の分析を行い、不確実な将来の市場ニーズに対応した製品開発のマネジメントについて考察するものである。本研究の目的は、製品開発に先立つ先行開発における技術成果が、製品開発の果実としての事業成果に結びつくことができるように、効果的な先行開発を規定する要因を分析することを主眼としている。この分析を通じて我が国のエレクトロニクス産業が直面している長期的な凋落状況の要因を明らかにすることが期待できる。

若手研究(B)

研究課題 ミクロデータからみたインド労働市場の構造と変動(平成18~20年度)
研究組織 佐藤 隆広
研究目的 本研究の課題は、インドにおける労働市場構造やその変動が貧困削減や経済発展に果たす役割や、それらを効果的に実現するために必要とされる貧困削減政策や経済政策について理論的かつ実証的な研究を行うことである。以下の3つの研究テーマに重点を置く。第1に、製造業部門労働需要関数の推定を通じてグローバル化の雇用に対する影響を定量的に分析する。第2に、労働供給の規定的要因として人口増加が考えられることから、個票データを利用して出生率の決定要因を分析する。第3に、インドの貧困削減に向けた公共政策を評価する。個票データを用いたミンサー型賃金関数の推定を通じて、土地制度や土地改革などの制度的要因が農業労働需要にどのような影響を与えているのかを検証したい。
研究課題 金融政策が物価に及ぼす影響:日本の品目別消費者物価及び企業物価を用いた実証分析(平成20~23年度)
研究組織 柴本 昌彦
研究目的 本研究は、日本の産業別・品目別消費者物価及び企業物価を用いて、日本の金融政策が物価へ与える影響を精密に実証分析することを目的としている。具体的には、Factor Augmented Vector Autoregressive (FAVAR)モデルを用いて個別物価ショックと金融政策ショックに分け、それらのショックが品目別物価及び一般物価へ与える影響の違いを分析する。注目する点は以下の3点である。(1)個別物価ショックと金融政策ショックが品目別物価に与えるまでのタイムラグに違いがあるのか。(2)品目別の価格硬直性の異質性と、金融政策ショックが物価へ影響するまでの持続性とに関連性があるのか。(3)金融政策ショックが品目別物価へ与える影響の違いを産業属性等で特徴付けることができるのか。
研究課題 連結会計制度改革が企業の経営者行動に与えた影響に関する実証分析(平成20~21年度)
研究組織 首藤 昭信
研究目的 本研究の目的は、2000年に導入された連結会計制度改革がわが国企業の企業経営ならびに裁量的会計行動に与えた影響について実証的に分析することである。新制度の導入からすでに7年が経過するが、この制度が企業の契約システムや経営者行動に与えた影響は明らかではない。会計制度の経済的影響を分析するにあたり、(1)証券市場に与えた影響と(2)企業の契約システムや利益調整(earnings management)に与えた影響を分析するアプローチに大別される。本研究は(2)の視点から新連結会計制度の影響を分析する。具体的に本研究が計画している実証分析は、[a]連結会計制度改革が減益及び損失回避の利益調整に与えた影響、[b]連結会計制度改革が経営者報酬システムに与えた影響についての研究である。これらの研究を実施することにより、わが国の会計制度改革の経済的影響を実証的に明らかにする。
研究課題 企業が異質な下での空間経済学と国際経済政策(平成21~24年度)
研究組織 大久保 敏弘
研究目的 企業間の生産性の違いが鮮明になり、既存の空間経済学や国際貿易の研究とは異なる知見が得られるであろう。政策的なインプリケーションも既存の研究と変わる可能性がある。どうやって産業空洞化を防ぎ、雇用を浮揚させ(特に地方の)地域経済を活性化できるのか、優良企業を地域にくいとめていくのか、どのように海外生産拠点がおかれ現地及び日本の市場や企業にインパクトを与えるのか、といった問題を理論と実証から答えられるだろう。
研究課題 決算発表と私的情報に基づく取引確率との関連性に関する実証研究(平成21~23年度)
研究組織 村宮 克彦
研究目的 近年、米国では企業情報に関して、選択的開示を禁止し、情報開示に対する投資者間の公平性を確保しようとするレギュレーションFDが施行された。一方、日本でもオンライン・トレードの普及などに伴って、個人投資家が年々増加し、主に一般に利用可能な情報のみを頼りに株式売買を行う個人投資家とそうでない投資家との情報格差の問題が浮き彫りになっている。このような背景から、近年、株式市場における情報開示に対する投資者間の公平性や情報格差が注目されている。本研究課題では、最近のこうした投資者を取り巻く情報環境を鑑み、情報開示の中核にある決算発表に焦点をあて、その制度が投資者間の公平性の確保に寄与し、情報格差の改善に役立っているかどうかを実証的に評価する。
 具体的に本研究課題では、主として次の2点を明らかにすることを目標にする。すなわち、(1)決算発表が投資者間の情報格差の改善に寄与しているかどうかを実証的に明らかにし、もって株式市場における決算発表制度の役割を検討するのである。それと同時に、(2)決算発表時に経営者による次期の予想利益も同時に公表するという日本独自の制度に着目した研究も行う。そこでは、海外共同研究者の協力のもと、経営者予想利益の公表をも行う日本の決算発表制度とそれを行わない諸外国の決算発表制度を分析対象として、国ごとに決算発表と情報格差との関連性が相違するかどうかを検証する。

若手研究(スタートアップ)

研究課題 科学と産業との結びつき方に関する技術分野間・企業間の比較研究(平成20~21年度)
研究組織 松本 陽一
研究目的 経済成長のためにはイノベーションが重要である。企業の競争優位構築のためにもイノベーションは重要である。そのためのひとつの有力な手段は、科学の先端的な知見を活用することである。科学との関連性が強くなる産業分野が増え、産業における科学への関心は顕著に高くなっている。科学の知見の重要性が高まりつつある中で、科学と経済社会とがどのように関連性をもち、それが経済の動向や企業の競争とどのように結びつくのか、という点を明らかにすることはますます重要になっている。その解明には地道なファクトファインディング(発見事実)の積み重ねとエビデンス(証拠)に基づいた議論が必要である。本研究の目的は、いかにして企業が科学の知見を結集・活用するか、またその際に科学の活動の場である学会がどのような役割を果たすのか、産業との関連性の高まりが科学の発展にどのように影響するか、といった点を明らかにするため、基礎となるファクトを収集し、イノベーションの新たなモデルを構築することである。
研究課題 日本的利益管理方式と組織能力開発に関する研究-アメーバ経営の導入事例から-(平成21~22年度)
研究組織 劉 建英
研究目的 日本はいま100年に一度の深刻な不況に苦しんでおり、この長引く不況を脱出するためには、企業は健全な経営体質を構築することを求められている。その中で京セラによって生み出された独自の経営手法であるアメーバ経営は、同社の目覚しい成長を可能にしたとして、大きな注目を集めている。現在、京セラだけではなく、多くの企業は、経営体質を強化し、収益性を改善するため、アメーバ経営を積極的に取り入れようとしている。そして、その多くは京セラ同様、継続的な成長路線を歩んでいることから、近年日本企業に留まらず、韓国や中国といった海外企業からも熱い視線を浴びるようになり、これらの海外企業はアメーバ経営を移転することを積極的に検討している。本研究では、まずアメーバ経営で利益を改善する構造を明確にしたうえで、国内及び海外にある他社に移転する際、同じ成果が挙げられるための促進要因、阻害要因を究明することを研究目的とする。