科学研究費補助金による研究(平成15・16年度) List of Grants-in-Aid for Scientific Research (2003 - 2004)

基盤研究(A)

研究課題 生活の質を持続的に向上させる政策評価方法の研究:理論と実証(平成16~18年度)
研究組織 下村 研一(研究代表者)、橋本 介三、白旗 慎吾、山地 秀俊、福重 元嗣、坂本 亘、坂田 裕輔、永松 伸吾
研究目的 1992年リオの「環境と開発に関する国連会議」において「持続的成長」時代の到来が宣言され十年以上経過した。この間政策領域では環境に対する意識が着実に向上し、政策手段も多様化し、政策形成に参加する主体や範囲も拡大してきた。その反面、生活の質の安定的な向上のための政策設計、執行、評価のプロセスは錯綜し、更に複雑化する様相を見せている。この状況下で市民と政府は、環境保護と両立可能な交通整備・都市再生・地方活性化のために、何の政策をどのようにすべきか。その中でわれわれはどのような厚生理念を求めていけばよいか。この問いに答えるため、本研究では経済学の理論的方法と実証的方法(統計分析と実験を含む)に基づき、立案、執行、評価の過程まで含めた政策のあり方を再検討する。本研究の学術的特色は生活の質の向上を政策目標とした新たな経済学の基礎の開拓と、体系的な政策設計、執行および評価の方法の確立を目指すことである。

基盤研究(C)

研究課題 ラテンアメリカにおける第二世代改革に関する政治経済学的研究(平成13~15年度)
研究組織 西島 章次(研究代表者)、細野 昭雄、松下 洋
研究目的 現在のラテンアメリカ諸国は、政府介入に基づく開発政策から経済自由主義(ネオリベラリズム)に立脚する開発政策へと急激に転換し、市場メカニズムに基づく政策改革を実施している。しかし、自由主義に基づく政策改革が、全ての経済問題を解決する訳ではない。このため、現在のラテンアメリカでは第二世代の政策改革が不可避となっている。第二世代の政策改革では、ラテンアメリカ固有の条件のもとでの市場を補完し社会的公正を実現する新たな政府の役割が問われ、そのための政府自体の改革が問われている。現在のアメリカの状況では、民主主義の進展や政治制度改革などが政府改革への前提条件となっていることから、極めて政治・経済的な観点からの研究を必要としている。具体的な研究課題は、(1)政府改革への政府自身のインセンティブはいかに生じるのか。グローバリゼーションはいかなる影響を与えているのか、(2)第二世代の政策改革に対し、民主主義の進展など政治的要因はいかに関わるのか、である。
研究課題 取引制度生成過程に関する研究(平成13~15年度)
研究組織 小島 健司
研究目的 各国・各時代の経済主体の行動やそれらが作り出す制度を比較する研究への取り組みは、近年国際的広がりを見せつつある。 各国・各時代における経済主体の行動・組織を分析対象として進められる研究では、経済制度の特性を文化特殊性に直接帰属させる理解から、異なる制度環境のもとでの経済主体行動の斉合態様として認識する方向に展開しつつある。さらに、どのようにして各国・各時代の制度環境が異なる経済主体の行動および制度に影響を及ぼしているのか。 この問題に対しては、特定制度環境での経済主体間相互作用の態様である制度の存在とその生成過程の分析が必要になる。分析に際しては、制度を存続させ、生成させる仕組みの解明が必要になる。 本研究はこのような研究動向を背景に特定制度の環境のもとでの取引主体の行動とそれらが織りなす制度を分析対象とし、理論・実証的方法を補完的に用いて取引制度理論の構築を試みようとするものである。
研究の意義としては、特定制度環境での取引制度をその存在と生成の根拠を示すことによって、特定取引制度に対する理解を深めることができる。また、今日的な取引制度の国際的相互理解をより深めることができる。
研究課題 部品等の中間財貿易が国内雇用等に及ぼす影響に関する計量的実証研究(平成13~15年度)
研究組織 冨浦 英一(研究代表者)、片山 誠一
研究目的 我が国においては、近年、深刻な経済情勢を反映して、国内雇用等に関する関心が高まっている。他方、企業は国境をまたいで生産工程を最適地に分割して立地する傾向が強まったことから、 貿易に占める部品等の中間財の比率が高くなっている。このため、部品を始めとした中間財の役割の増大という貿易構造の変化によって、我が国の場合に、輸入浸透が国内雇用に与える影響等にどのような違いが生じるのかを分析することは重要な課題となっている。しかしながら、データ上の制約もあって、このような分析は我が国では未だ限られているのが現状である。
そこで、本研究では、輸入品構造の細分を考慮した貿易統計の再集計データの構築を試みることによって、円高による輸入価格の低下が国内産業にもたらす効果を、最終製品を巡る競争の激化と、輸入中間財の投入費用低下の二面から定量的に分析することを目指す。
研究課題 商品開発ネットワークにおける情報技術の戦略的活用に関する研究(平成13~15年度)
研究組織 延岡 健太郎
研究目的 商品開発や技術開発の概念や方法がITによって根本的に革新されつつある。本研究の目的は、企業間ネットワークも含めたバリューチェーン全体から、ITを活用した商品開発のあり方を理論的・実証的に明らかにすることである。特に次の3つの分野について明らかにする。第一には、新世代3次元CADの活用に代表される設計開発方法の根本的な革新である。3次元へ設計ツールが変更され、デジタル試作やシミュレーションなどによって、開発設計プロセスやタスク構造、組織構造が根本的に変化しつつある。この点に焦点を当てて、ITを最大限に活用するための開発・設計の組織構造、プロセスのあるべき姿を明らかにする。第二には、企業間ネットワークへITがもたらす影響を明らかにする。電子商取引、インターネット入札などにより、そのあり方が大きく変わろうとしている。従来の日本的なパートナーシップ型関係か米国的なビジネスライクな関係かという単純な理論的枠組みについても、再構築する必要がある。最後に第三として、これらの革新を実施するための組織的マネジメントの条件について明らかにする。特にトップマネジメントの役割が大きいはずであり、そのあり方について明らかにしたい。
研究課題 投票行動の社会心理学的要因:現代日米トレンドの比較(平成14~15年度)
研究組織 梶原 晃(研究代表)、Alan S.Miller
研究目的 投票率の低下と政治的無関心の蔓延は現代日本の大きな問題となっている。それにもかかわらず日本における低投票率の原因に関する実証研究は非常に少ない。そこで、申請者は「これらの投票結果は、社会的ジレンマの現われに他ならない」と位置づけ、日本人の投票行動に関する社会・構造的変数と個人・心理的変数の相対的な重要性を分析・解釈するための研究を始めている。この研究の重要性は投票行動という狭義の関心にとどまらないものである。投票行動は社会的ジレンマの構造を持っており、この問題に関する解決を示すことは、向環境行動を促進するなどの別の形態の社会的ジレンマの解決にも貢献するものである。
研究課題 離散選択問題が引き起こす景気変動に関する研究(平成15~18年度)
研究組織 上東 貴志
研究目的 本研究の目的は、離散選択問題と景気変動の関係を明らかにすることである。離散選択問題とは、(通常)有限個の選択肢の中から最適なものを選択する問題のことである。 例えば、車を買い換えるべきか、新しいパソコンを買うべきか等は離散選択問題である。離散選択問題の研究が現実経済を理解する上で重要であるのは、現実経済における財の多くが不可分であり、不可分財の売買を扱った問題はすべて離散選択問題であるからである。ところが、既存のマクロ経済理論の大部分は、財が無限に可分であるという仮定の上に成り立っている。標準的なマクロ経済理論によると、不況下のような恒常所得の少ない時には、消費もほぼ比例的に少なくなる。しかし、現実経済では財の多くが不可分であるので、この理論は必ずしも当てはまらない。特に、景気指標としても使われる耐久消費財の新規購入に関しては、不況下のような恒常所得の少ない時には「購入量を減らす」と言うよりも「購入自体を見合わせる」と言った方が消費者の現実的な行動様式をより的確に表していると思われる。したがって、不可分財の存在、しいては離散選択問題の存在は、不況を長引かせる、あるいは経済を不安定にする要因の1つであると考えられる。このように、離散選択問題と経済行動の複雑性の間には重要な関係があると考えられるのだが、この関係に焦点を置いた研究は当研究者の最近の研究を除けばほとんど皆無である。本研究の目的は、未開発領域である離散選択問題と景気変動の関係を明らかにすることである。
研究課題 日本の自由貿易協定に関する理論的・戦略的研究(平成15~17年度)
研究組織 井川 一宏
研究目的 我々は、日本が計画しているFTAに関して、その実現可能性と問題点および戦略的な意義について、最近の国際経済理論を踏まえて分析を行う(不完全競争理論と空間経済学の理論と最適通貨圏の理論に基づく分析と、ゲーム論的な戦略均衡の分析をもとに、FTAを検討する)。本研究の特色は、包括的整理よりもむしろ日本のFTA戦略的な意義を明らかにすることにある。世界各国はそれぞれの国益を考えた戦略をとり、それがお互いに影響しあって特定の経済状況となった現実が動いている。 FTAはまさにその戦略の結果(戦略の交差する場)であり、日本のFTA戦略の経済的な意義を検討することは、現実的にFTAを理解するために不可欠である。日本にとって、特に日韓FTAは地域経済化とグローバル経済化の両方を考慮した場合の最優先戦略である。この点を明らかにしながら、東アジア(ASEAN、中国、日韓)FTAの形成に向けた戦略が、NAFTAやEUを考慮したグローバル戦略においても重要な意義を持つことを明らかにしたい。
研究課題 貿易政策の動学的研究:保護貿易政策の形成と展開の研究(平成15~17年度)
研究組織 片山 誠一(研究代表者)、太田 博史、冨浦 英一
研究目的 生産構造の補完性を考慮して保護関税政策を決定して行くように考える。1980年代に有効保護論として実行保護関税率の議論がなされたが、理論的にはこの有効保護論の動学的分析といえよう。このようなモデルを構築しないと、近年の国際通商問題の進展、特に、相互にセーフガードの発動を差し控えてきた行動は理解できないと考える。当該研究の独自性は、有効保護論の拡張ともいえる生産構造の補完性を考慮して、相互の保護政策の展開過程を最適関税政策を動学的に展開するものであり、まだ従来の文献にないユニークなものであるといえる。理論的展開と同時に貿易政策の歴史を実証的に把握し、その理論の裏付けを行いたい。
研究課題 多様な規制制度から来る証券市場における会計情報の偏在と価格形成に関する実験的研究(平成15~16年度)
研究組織 山地 秀俊
研究目的 経営、経済の問題解決に向けたアプローチ方法の一つに、実験室の中で直接に人間行動を管理しながら得られたデータを使用して仮説検証を行う手法がある。このアプローチは被験者行動を厳密に管理するために専用の実験室を必要とする。具体的には、実験心理学の分野で行われる実験のように、個体が他の個体から受ける影響を限定するために被験者ごとに個別のブースが用意された環境で実験が行われなければならない。こうした実験環境を利用しながら、会計における主要問題である、株主がコーポレートガバナンスにおいて果たす機能や、監査人が果たすべき社会的機能あるいは、株式市場での価格成立システムの特徴の分析、情報の信頼性と資本コストの関係等の実験的研究を行う。特に、上でも触れたように、会計に絡まる多くの諸制度の規制によって、ある証券に関してその価値を表象する多様な情報が、証券市場に流布しているが、そうした複数の情報が存在する場合に、証券市場はあるべき価格を形成できるのか否かについて実験的技法を用いることによって検討したいと考えた。
研究課題 日本製造業の製品開発競争力を高める企業間ネットワーク構造とプロセスの研究(平成16~19年度)
研究組織 延岡 健太郎
研究目的 企業の競争力を決定する要因として、部品取引関係などの企業間ネットワークの重要性が高まっている。電子・情報機器、家電、通信機器などでは、部品・デバイス企業と組み立て企業が複雑なネットワークを構成しているが、その戦略とマネジメントのあり方によって、企業の価値創造能力や企業競争力の多くの部品が決定されているといっても過言ではない。この点を背景として、本研究の目的は産業別に規定される最適な企業間ネットワークの構造とプロセス、マネジメントの理論を構築し、それを実証的に研究することである。更には、企業が最適と考えられる企業間ネットワークを実際に構築し、それをマネジメントするための、ベストプラクティスを産学連携研究活動を通して導き出し、政策及び産業・企業へ提言する。
研究課題 環太平洋地域における通貨統合・金融協力の展望と日本の役割(平成16~18年度)
研究組織 後藤 純一
研究目的 本研究の目的は、環太平洋地域における金融統合・通貨統合の妥当性の有無を検証することである。つまり、環太平洋諸国(あるいはその部分集合)が、金融統合・通貨統合を進めていくグルーピングとして適切なものであるかどうかを客観的に考察しようとするものである。マンデルによって開発された最適通貨圏の理論によればいくつかの基準が提供されているが、本研究ではマクロ経済指標の同期性に注目し、主成分分析と呼ばれる手法によってデータを分析し、環太平洋諸国(主として東アジア諸国とアメリカ・オーストラリア)が通貨統合の経済的前提条件を満たすものであるか否かを検討する。また、CGEモデルのシュミレーションにより個別国に対するインパクトを検証するとともに、通貨統合・金融協力を進めていく上で日本はいかなる役割を果たすべきであるかということに重点を当てた分析を行う。
研究課題 為替レート政策のマクロ経済効果に関する比較実証研究(平成16~18年度)
研究組織 宮尾 龍蔵
研究目的 為替レート政策のマクロ経済効果を正確に把握することは、持続的な景気回復を模索するわが国のマクロ政策議論にとって欠かすことの出来ない視点である。本研究は、わが国の為替レート政策のマクロ経済効果について、国際的な視点からの包括的な実証分析を行う。ここでは、為替介入が為替レート変動に及ぼす効果、そして為替レート変動が国内および海外経済へ及ぼす影響について、最近の計量分析の主流である時系列分析に基づき明らかにする。その際、最近の国際マクロ経済学の理論的進展(いわゆる「新しいマクロ経済学(New Open Macroeconomics)」など)の成果も実証フレームワークに取り込み、また現地生産の進展や国際分業など経済のグローバル化の影響を考慮来ることも試みる。
研究課題 ミクロ統計データを用いた日本企業のグローバル化に関する計量的実証研究(平成16~18年度)
研究組織 冨浦 英一(研究代表者)、片山 誠一
研究目的 グローバル化は輸出入の単なる量的な拡大だけでなく、近年、その様態の多様化、深化をも伴っている。近年になって、海外生産、中間財貿易・逆輸入、更には、国境を越えたアウトソーシングが活発化している。他方、同じ為替レート変動にさらされていながら、企業のグローバル化戦略の選択は、同じ業種の中にあっても、驚くほど、企業によって異なっている。そこで、本研究では、製造業全般をカバーした政府実施の企業統計から抽出した日本企業に関する大規模なミクロ・データを用いて、企業のグローバル化戦略の選択(国境を越えたアウトソーシングを実施しているか否か等)が、企業のいかなる特性(規模、生産性、賃金、研究開発率等)と有意な関係を有しているかを計量分析することを主たる目的とする。実証分析の成果は、産業空洞化といった現実の政策課題への対応に当たっても、重要な現状把握となる。
研究課題 南北貿易における資源環境政策と動学的貿易利益の研究(平成16~18年度)
研究組織 太田 博史(研究代表者)、片山 誠一
研究目的 環境保全を強調する人々にとって、国際貿易は環境の悪化を意味する。一方、伝統的な貿易論の立場からは、適切な環境規制の下では、依然として各国が貿易の利益を享受することができるという主張がなされる。環境規制の強い国は、緩い国で生産される財を大量に輸入するインセンティブを持つ。輸出国民の環境保全意識がさほど高くなければ、輸出収益の獲得のために、環境破壊が進むことになろう。重要なのは、その輸出財が輸出国にとって必ずしも、伝統的な貿易理論による比較優位財になるとは限らないということである。環境資源より相対的に労働豊富な国であっても、外国に比べて国内での環境規制が緩ければ、環境集約財を輸出する可能性がある。本研究では、環境資源を利用して作られる製品の輸出国による貿易政策が、環境保全に及ぼす影響を分析し、先進国に比べて途上国は環境資源を集約的に使用する財の輸出を増加させるべきか否かについて検討する。さらに、要素賦存比率が貿易パターンの決定に寄与しない場合には、それに取って代わる新しい要因を探求する。研究の最終目標は、国際貿易が世界の環境保全に寄与するか否かに関する理論的帰結を提示することである。
研究課題 融資時の企業判断にかかわる意思決定プロセスの実験的研究(平成16~18年度)
研究組織 梶原 晃(研究代表者)、砂川 伸幸、関口 倫紀
研究目的 融資にかかわる意思決定をする金融機関の社員が実際に行っている企業判断の意思決定プロセスを解明するために、本研究では、ポリシーキャプチャリングと呼ばれる実験的手法によって、より正確な形で金融機関の社員が用いる判断基準を吟味する。ポリシーキャプチャリングとは、意思決定に用いられる判断基準を本人に直接聞くのではなく、複数のシナリオを提示して実際にいくつかの判断を下してもらい、その判断結果から、用いられた判断基準を間接的に推定する心理学的実験的手法である。このような実験的手法は、組織行動学や社会心理学における意思決定研究では活用されているが、ファイナンスや会計の分野における研究ではまだ普及していない。本研究によって、ファイナンスや会計学が理論的な視点から導いた規範的な企業評価のあり方と、行動学的・心理学的なアプローチによって吟味される、金融機関の社員が行なっている実際の判断との乖離の存在とその要因を理解し、金融における融資その他の判断業務の改善を図るうえでのヒントとなることが期待される。すなわち本研究は、学際的な見地から新しい研究分野の地平を切り開いていこうとする学問的な貢献に加え、金融機関実務というわが国でも特に改善が求められる業務に対する新しい含意の提供という実務的貢献が期待されるものである。
研究課題 エレクトロニクス産業の競争力創生のためのグローバル製品開発体制に関する研究(平成16~18年度)
研究組織 伊藤 宗彦
研究目的 日本企業は、製品開発・生産の効率性を追求し、それを競争力の源泉としてきた。
このような日本企業が強みとしてきた製品開発の効率性の仕組みは学術レベルで、かなり解明されてきた、それは、企業内で保有される資源の優位性、また、系列などに代表される独特の企業間ネットワークの仕組みであった。近年の製品開発に関する研究成果は、製品開発能力、つまり製品の持続的競争力を発揮するためには、製品開発の効率性だけでなく、イノベーションを効率よく起こす仕組みが必要であるという結論を得ている。しかしながら、日本企業は、長年、自社内に製品開発に必要な資源を抱えており(垂直統合構造)、製品開発効率は高いがイノベーションは起こりにくい構造であることが言われてきた。一方、米国では、製品開発・生産の分業(水平分業構造)がイノベーションを促進するという研究成果が出ている。本研究では、パソコン、携帯電話など、巨大化した世界市場の中で、日本企業が競争力を低下させた理由として考えられてきた製品開発の仕組み、特に効率性に関するものではなく、イノベーション能力を維持・向上させていく用件を明らかにする研究である。このような研究課題を解くために、今後、ますます重要性が増大するであろうソフトウェア開発を詳細に研究する。
研究課題 東アジア諸国の自由貿易協定戦略の一般均衡論的評価(平成16~17年度)
研究組織 利 博友
研究目的 世界各地域で締結されている自由貿易協定(FTA)は、近年急速にその数を伸ばしている。FTAは地球規模の自由貿易を促すのか、或いは妨げるのかという問題を巡っては熱い論争が繰り広げられているが、WTOを中心とする多国間の貿易自由化交渉があまり進展していないのも事実である。本研究では、動学的な計算可能一般均衡(CGE)モデルを使用し、以下の3点を明らかにする。
(1)日本・中国・韓国・ASEAN諸国において、どのコンビネーションのFTAがすべての加盟国に恩恵をもたらすのか。
(2)FTAのsequence(例えば、中国・ASEAN FTAと日本・ASEAN FTAの順序)が、加盟国の経済厚生にどのように影響を及ぼすのか。
(3)世界貿易自由化が2020年までに達成されると予想した場合、東アジア諸国にとって、例えば日韓、中 ASEAN、日 ASEAN、ASEAN+3等のFTAを締結した後で多国間の完全貿易自由化に到達した方がより有益なのか、 或いはFTAに加盟せず、一方的な自由化を促進しながら世界貿易自由化に到達した方が多くの恩恵を受けることができるのか。
本研究の成果は、今後の東アジア諸国のFTA戦略に重要な政策的インプリケーションを持つことが期待される。

奨励研究(A)・若手研究(B)

研究課題 GDPギャップの推計とマクロ政策判断に関する比較実証研究(平成14~15年度)
研究組織 宮尾 龍蔵
研究目的 本研究課題は、GDPギャップの推計に関する包括的な比較実証分析を行うことを目的とする。GDPギャップの大きさとその変動傾向を正確に把握することは、現在のわが国で進行中のマクロ経済政策議論にとって欠かすことの出来ない視点である。 GDPギャップは、現実GDPと潜在GDPの差として定義され、潜在GDPの推計方法には時間トレンドやフィルタリングに基づくものと、マクロ生産関数を利用するアプローチが存在する。本研究課題では、まず、それぞれの分析アプローチの特徴や問題点を整理し、どの推計手法がどの観点から望ましいかを明らかにする。また、GDPギャップの推計値はマクロ経済や金融政策に関する理論(フィリップス曲線、政策反応関数)にも利用されることから、各推計値と経済理論の整合性、現実妥当性という観点からも比較研究を行う。
研究課題 部品調達ネットワークの構造変化と企業間信頼-自動車産業と家電産業の比較分析-(平成15~16年度)
研究組織 真鍋 誠司
研究目的 日本の自動車産業と家電産業は、戦後の日本を支えてきた、世界的競争優位性をもつ産業である。だがその一方で、製品を構成する部品の取引形態には相違が、認められる。すなわち、自動車部品取引が長期継続的な関係を基礎にしているのに比べ、家電産業における電子部品取引はややスポット的な取引であると言われている。また、日本製造業では、「脱系列化」現象がおきているとの指摘がある。しかしながら同時に、組立メーカー(自動車組立メーカー・家電組立メーカー)からみて重要な基幹部品を製造する部品メーカーに対しては、組立メーカーによる囲い込みが行われている可能性がある。このような取引関係の相違や変化に影響を与える要因として、取引経験に基づく信頼や、新規取引先に関する知識といった、企業間信頼が関与していると考えられる。したがって、本研究では、「日本の自動車産業と家電産業における調達ネットワークについて、製品の構造や企業間信頼比較を通じて、調達の構造的・機能的特徴を理論的かつ実証的に明らかにする」ことを研究の目的とする。