科学研究費補助金による研究(平成13・14年度) List of Grants-in-Aid for Scientific Research (2001 - 2002)

基盤研究(B)

研究課題 財閥・金融・製造業における韓国の構造調整:アジア通貨危機以降日本との関係を中心として(平成13~14年度)
研究組織 井川 一宏(研究代表者)、金 奉吉
研究目的 アジア通貨危機を境に実施されている韓国経済の構造改革の特徴、特に財閥の解体、金融システムの改革、製造業の再編成の3つにおける構造改革に焦点を当てた実態研究を行う。その場合、戦後日本の財閥解体・再編の歴史、最近のバブルの処理と日本の金融機関の再編成、の関連で、日韓比較を背景にした実態研究を行う。この実態研究を通して、(1)韓国の財閥解体がどのように進められていて、その問題点はなにか、どうしなければならないかが明らかにされ、(2)韓国の金融再編の実態を明らかにすることで、はたして従来の間接金融システムがうまく機能するかどうか、外国銀行との提携などによる世界市場での生き残りの道は何かが検討され、(3)日韓自由貿易地域が形成された場合に、韓国の製造業の分業形態がどのようになるかについて、いくつかのシナリオを明らかにする。
研究課題 インフレ・ターゲッティング政策の国際比較研究 -デフレ下でこの政策は有効か-(平成14~16年度)
研究組織 石垣 健一(研究代表者)、宮尾 龍蔵、地主敏樹、藤原賢哉、藤原秀夫、北岡孝義
研究目的 1970年代、80年代は高いインフレの時代であった。このような状況から脱却するために多くの先進国でインフレ・ターゲッティング政策が採用され、90年代にはインフレ抑制に成功した。またその政策を採用しなかった米国や日本もまたインフレの抑制に成功した。しかし最近は世界同時不況の危険が高まり、インフレよりデフレが問題にされるようになってきた。本研究の目的は、インフレ抑制策として採用されてきたインフレ・ターゲット政策がデフレ脱出策として有効であるかどうか、もし有効であるとすればその条件はどのようなものであるか、また有効ではないとすれば、その理由は何であるかを解明することである。

基盤研究(C)

研究課題 貿易政策の動学的研究:関税・数量規制政策と自由貿易政策の比較と相互関連(平成12~14年度)
研究組織 片山 誠一(研究代表者)、太田 博史
研究目的 戦後の多角的貿易交渉において常に関税率の引き下げが議題にされてきた。なぜ基本的に貿易政策としてまず関税政策が使用されるか。 関税政策・非関税政策(数量政策等)の保護政策と自由貿易政策の相互関連はどのようになっているか。
発展途上国LDCは、先進国DCより関税あるいは非関税政策でより強い保護政策を採用する。 自由貿易は利益をもたらし、保護は経済成長を阻害するにもかかわらず、何らかの保護を継続する。 またDC政府は、非関税政策を関税政策より多用する傾向がある。戦後の多角的通商交渉で常に関税の引き下げが議論さてき、それに次いで非関税政策の削減が議題となっている。我々の研究では、このような一般的に観察される事実を経済学的に説明する。これによって従来の研究では必ずしも明確解決されていない問題と考えられる、関税政策・非関税政策・自由貿易政策の相互関連を明らかにする。
研究課題 ラテンアメリカにおける第二世代改革に関する政治経済学的研究(平成13~15年度)
研究組織 西島 章次(研究代表者)、細野 昭雄、松下 洋
研究目的 現在のラテンアメリカ諸国は、政府介入に基づく開発政策から経済自由主義(ネオリベラリズム)に立脚する開発政策へと急激に転換し、市場メカニズムに基づく政策改革を実施している。しかし、自由主義に基づく政策改革が、全ての経済問題を解決する訳ではない。このため、現在のラテンアメリカでは第二世代の政策改革が不可避となっている。第二世代の政策改革では、ラテンアメリカ固有の条件のもとでの市場を補完し社会的公正を実現する新たな政府の役割が問われ、そのための政府自体の改革が問われている。現在のアメリカの状況では、民主主義の進展や政治制度改革などが政府改革への前提条件となっていることから、極めて政治・経済的な観点からの研究を必要としている。具体的な研究課題は、(1)政府改革への政府自身のインセンティブはいかに生じるのか。グローバリゼーションはいかなる影響を与えているのか、(2)第二世代の政策改革に対し、民主主義の進展など政治的要因はいかに関わるのか、である。
研究課題 取引制度生成過程に関する研究(平成13~15年度)
研究組織 小島 健司
研究目的 各国・各時代の経済主体の行動やそれらが作り出す制度を比較する研究への取り組みは、近年国際的広がりを見せつつある。各国・各時代における経済主体の行動・組織を分析対象として進められる研究では、経済制度の特性を文化特殊性に直接帰属させる理解から、異なる制度環境のもとでの経済主体行動の斉合態様として認識する方向に展開しつつある。さらに、どのようにして各国・各時代の制度環境が異なる経済主体の行動および制度に影響を及ぼしているのか。この問題に対しては、特定制度環境での経済主体間相互作用の態様である制度の存在とその生成過程の分析が必要になる。分析に際しては、制度を存続させ、生成させる仕組みの解明が必要になる。本研究はこのような研究動向を背景に特定制度の環境のもとでの取引主体の行動とそれらが織りなす制度を分析対象とし、理論・実証的方法を補完的に用いて取引制度理論の構築を試みようとするものである。
研究の意義としては、特定制度環境での取引制度をその存在と生成の根拠を示すことによって、特定取引制度に対する理解を深めることができる。また、今日的な取引制度の国際的相互理解をより深めることができる。
研究課題 部品等の中間財貿易が国内雇用等に及ぼす影響に関する計量的実証研究(平成13~15年度)
研究組織 冨浦 英一(研究代表者)、片山 誠一
研究目的 我が国においては、近年、深刻な経済情勢を反映して、国内雇用等に関する関心が高まっている。他方、企業は国境をまたいで生産工程を最適地に分割して立地する傾向が強まったことから、貿易に占める部品等の中間財の比率が高くなっている。このため、部品を始めとした中間財の役割の増大という貿易構造の変化によって、我が国の場合に、輸入浸透が国内雇用に与える影響等にどのような違いが生じるのかを分析することは重要な課題となっている。しかしながら、データ上の制約もあって、このような分析は我が国では未だ限られているのが現状である。
そこで、本研究では、輸入品構造の細分を考慮した貿易統計の再集計データの構築を試みることによって、円高による輸入価格の低下が国内産業にもたらす効果を、最終製品を巡る競争の激化と、輸入中間財の投入費用低下の二面から定量的に分析することを目指す。
研究課題 商品開発ネットワークにおける情報技術の戦略的活用に関する研究(平成13~15年度)
研究組織 延岡 健太郎
研究目的 商品開発や技術開発の概念や方法がITによって根本的に革新されつつある。本研究の目的は、企業間ネットワークも含めたバリューチェーン全体から、ITを活用した商品開発のあり方を理論的・実証的に明らかにすることである。特に次の3つの分野について明らかにする。第一には、新世代3次元CADの活用に代表される設計開発方法の根本的な革新である。3次元へ設計ツールが変更され、デジタル試作やシミュレーションなどによって、開発設計プロセスやタスク構造、組織構造が根本的に変化しつつある。この点に焦点を当てて、ITを最大限に活用するための開発・設計の組織構造、プロセスのあるべき姿を明らかにする。第二には、企業間ネットワークへITがもたらす影響を明らかにする。電子商取引、インターネット入札などにより、そのあり方が大きく変わろうとしている。従来の日本的なパートナーシップ型関係か米国的なビジネスライクな関係かという単純な理論的枠組みについても、再構築する必要がある。最後に第三として、これらの革新を実施するための組織的マネジメントの条件について明らかにする。特にトップマネジメントの役割が大きいはずであり、そのあり方について明らかにしたい。
研究課題 非製造企業の国際経営-総合商社と海運企業-(平成13~14年度)
研究組織 吉原 英樹(研究代表者)、星野 裕志
研究目的 日本企業の国際経営の特徴は、グローバルに遂行する経営活動を、日本人が日本語を使ってマネジメントをしていることである。特に日本企業の国際経営の先駆けと考えられる総合商社では、日本人社員が、本社を中心として、日本語で経営されている実態が明らかになった。本社および海外の経営幹部のほとんどは、日本からの派遣社員であり、親会社と子会社間の重要な国際コミュニケーションには、日本語が利用されている。
今後これらの発見事実を基に、日本型マネジメントによってグローバル・オペレーションが行われる国際経営の形態や特徴が、総合商社と海運企業を含めた日本の非製造企業に一般的に見られるのかどうかをより厳密に実証的並びに理論的に研究することが、本研究のめざすところである。非製造企業の重要性はますます高まると考えられるが、特にその国際経営は、ほとんど研究されていない。本研究は国際経営研究の重要な空白部分を埋めるものであり、価値が高いと考えることができる。
最終年度には、論文および出版物による研究成果の公表を予定している。
研究課題 企業の変遷過程にみる企業行動の調査と分析-試行的実証研究(平成13~14年度)
研究組織 関口 秀子(研究代表者)、梶原 晃
研究目的 わが国企業の設立・合併・分離や組織変更・商号変更等(以下,変遷事由という。)の継承関係を中心とする企業変遷を図式化し、図式化された結果としての企業系譜図を作成する。さらにその図式を変遷事由等によって分類し、時点的要素も加味した企業の変遷パターンを導出する。
導出された企業変遷パターンと、企業行動を規制する経済情勢並びに法制度との相互関連性を、実証的に明らかとするための試行的研究であり、調査対象期間は、戦後から現在に至る約半世紀、サンプル社数は50社である。
即ち,各時代相において、合併等の変遷事由を中心として企業が選択した行動と、経済の変動並びに制度規制の相互関連性を具体的に調査し、企業行動の一要因を分析する。
研究課題 環境会計ディスクロージャーの経済政策-制度化に向けた実証研究-(平成14~16年度)
研究組織 須田 一幸
研究目的 環境保全の経済政策を適切に実施するには,各企業における環境保全活動の成果を正しく把握する必要がある。したがって,環境保全の経済政策において,環境会計ディスクロージャーの充実は,重要な位置を占めるといえよう。しかしわが国において,環境会計情報に対するニーズやディスクロージャー企業の動機を分析した研究は,未だ行われていない。本研究では第1に,環境会計情報の株価効果を調査し,証券市場における環境会計情報の有用性を判断する。環境会計情報の有用性を示す証拠が得られれば,現在開示されている環境会計情報の延長線上で環境会計ディスクロージャーの制度化を検討すればよい。もし,環境会計情報の有用性が支持されなければ,現在開示されている環境会計情報とは異なる方向で環境会計ディスクロージャー制度を構築する必要があるだろう。第2に本研究では,開示した企業の裁量的会計行動を分析し,環境会計情報を開示した企業の動機を分析する。
研究課題 粉飾決算の実証研究に係わる企画調査(平成14年度)
研究組織 須田 一幸(研究代表者)、乙政 正太、音川 和久、山本 達司、浅野 信博、木村史彦、榎本 正博、石川 博行、首藤 昭信、辻川 尚起
研究目的 米国ではDechow,P., R.G.Sloan, and A.P.Sweeney(1996)、Contemporary Accounting Research , Vol.13, No.1, pp.1-36に代表されるように、粉飾決算が行われる背景とその影響を示す証拠が蓄積されている。わが国では、粉飾決算を行った企業のガバナンスを分析したり、粉飾決算が証券市場に及ぼす影響を詳細に分析した研究は行われていない。そこでわれわれはDechow et al.(1996)を参考にして、まず粉飾決算企業の実態を分析する。すなわち、(1)粉飾決算企業のコーポレートガバナンスは他の企業と比較して何か特徴があるのか、(2)粉飾決算企業は粉飾が発覚するまでにどのような会計処理をしていたのか、ということを調査する。次に、粉飾決算の影響を分析する。すなわち、(1)粉飾決算に対して株価はどのような反応をしたのか、(2)粉飾決算に対して格付け機関とアナリストはどのような反応したのかを調査する。

奨励研究(A)・若手研究(B)

研究課題 アジア太平洋諸国への資本流入の維持可能性に関する実証比較研究 (平成12~13年度)
研究組織 宮尾 龍蔵
研究目的 1997年の東アジアの通貨・経済危機が生じたその根本的な要因は、巨額の資本流入とその後の流出であるという説明が一般によくなされる。しかしアジアへの資本流入は、本当に過剰で維持不可能だったのだろうか。本研究課題は、アジアへの大量の資本流入(資本収支黒字・経常収支赤字)の維持可能性の問題を、最近の実証分析の潮流である時系列分析を用いて、フォーマルに検証することを目的とする。分析手法としては、1980年代米国の巨額の財政赤字の問題を検証する際に提唱された、共和分(cointegration)の概念に基づく分析フレームワーク(Hakkio and Rush (1991), Haug (1991)など)を資本流入の維持可能性の問題に応用する。もし通貨危機国の危機発生以前の資本流入が、統計的にも維持不可能であったということが示されれば、この分析フレームワークが今後の通貨危機を事前に予測する際にも有用であると考えられ、その分析意義は大きい。
研究課題 認証制度の社会的認識に関する比較研究(平成12~13年度)
研究組織 梶原 晃
研究目的 先進工業国のうち日本と比較的近い環境保全政策をとり環境・森林認定制度では一歩先を進んでいるアメリカ合衆国を比較対象に選び、認証制度に対する企業の意識や行動の違いを比較分析すると共に、各種認証制度のコア概念である「認証」の持つ社会記号論的意味と「認証」の社会的信頼獲得ないし信頼醸成過程を個別の認証制度を事例として取り上げながら比較分析することによって、日本における環境・森林認証制度の意義とその社会的特徴に関する議論の前提を提示する。
研究課題 マクロダイナミックスの波動分解による分析(理論と景気予測への応用)(平成13~14年度)
研究組織 上東 貴志
研究目的 本研究の究極的な目的は、景気変動や政策導入後の経済変動を正確に予測できるようなモデルを構築することである。これはあくまで究極的な目的であり、二年間という短い期で達成できるものではない。現実問題としては、その様なモデルを構築すること自体が不可能に近いと考えられる。しかし、本研究で発展させる波動分解の理論を用いれば、それも近い将来実現する可能性がある。究極的な目的に向けて、科学研究費交付期間内に達成されるべき目的は二つある。第一の目的は、実際の経済でどのような複雑なダイナミックスが観測されても、そのダイナミックスを説明できる動的最適化と一般均衡に基づいた経済モデルが存在することを明らかにすることである。第二の目的はモデルの景気予測への応用である。波動分解に基づいたモデルを用いた景気予測と既存の予測方法とを比較し、前者が予測力の面で優れていることを明らかにすることが実証面においての本研究の目的である。
研究課題 GDPギャップの推計とマクロ政策判断に関する比較実証研究(平成14~15年度)
研究組織 宮尾 龍蔵
研究目的 本研究課題は、GDPギャップの推計に関する包括的な比較実証分析を行うことを目的とする。GDPギャップの大きさとその変動傾向を正確に把握することは、現在のわが国で進行中のマクロ経済政策議論にとって欠かすことの出来ない視点である。GDPギャップは、現実GDPと潜在GDPの差として定義され、潜在GDPの推計方法には時間トレンドやフィルタリングに基づくものと、マクロ生産関数を利用するアプローチが存在する。本研究課題では、まず、それぞれの分析アプローチの特徴や問題点を整理し、どの推計手法がどの観点から望ましいかを明らかにする。また、GDPギャップの推計値はマクロ経済や金融政策に関する理論(フィリップス曲線、政策反応関数)にも利用されることから、各推計値と経済理論の整合性、現実妥当性という観点からも比較研究を行う。