RIEB Discussion Paper Series No.2018-J03

タイトル

大坂米市場の形成と気象変動

要旨

 江戸時代経済は、第一に閉鎖経済であること、第二に農業経済であること、第三に大坂米市場という中央市場を有したことによって特徴づけられており、世界史的視野で見ても、その特異性は際立っている。
 この特徴を考えた時、気象変動が当該期の経済に与えた影響が大きかったであろうことは容易に想像がつく。冷夏などによって米穀生産が打撃を受ければ、輸入も行われないため、米価が高騰し、米穀の消費者(都市生活者など)に打撃を与える。逆に米穀生産が快調であれば、米価が下落し、領主の歳入が実質的に目減りする。こうした構造の下では、気象が経済に与える影響は、現代とは比較に ならないほどに大きかったと考えられる。
 しかし、近世日本経済史研究において、気象変動に対して十分な注意が払われてきたとは言いがたい。これはひとえに利用可能かつ信頼の置けるデータが不足 していたことによる。この度、「気象適応史プロジェクト」(総合地球環境学研究所)によって新たに構築されたデータが広く共有されることになれば状況は一変するはずである。
 本稿では、大坂米市場の形成と発展という、近世日本経済史では語り尽くされてきた感のある事象について、気象変動を考慮に入れた場合に、どのような新しい見方が得られるのかを紹介し、今後の研究の呼び水にしたい。

連絡先

〒657-8501
神戸市灘区六甲台町2-1
神戸大学経済経営研究所
髙槻 泰郎
TEL: 078-803-7036 FAX: 078-803-7059