タイトル

ラテンアメリカ経済は何故長期にわたり停滞するのか?:新構造主義学派の見解を軸として

要旨

国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会 (英語略はECLAC:西語ではCEPAL) は、ラテンアメリカ・カリブ (LAC) 地域の経済が持続的成長を達成するための処方箋として、国際通貨基金 (IMF) や世界銀行 (World Bank) が1980年代初めに起きた対外債務問題の解決策として提案したワシントン・コンセンサスの理念とは大きく異なり、国際化が進む世界経済の分析に適った「新構造主義」(neo-structuralism)と呼ばれる成長戦略を1990年代から提唱するようになる。本稿では、ラウル・プレビッシュの「センター・周辺」命題に代表される従来の構造主義派 (structuralism) が掲げていたLAC経済の構造的異質性の問題意識に加えて、財政・金融勘定の自由化がもたらした影響や国際収支バランスなどのマクロ経済の新しい研究領域を広げつつ社会的公正をも推進するインクルーシブな成長を目指すという「新構造主義」の概念を総括的に分析する。特に外資の流れの役割を重視する「国際収支の支配性」の観点からLAC経済の特長 (低い成長率と高いボラティリティ、ブーム・アンド・バスト周期の特徴、同地域の対外移転勘定の推移など) を考察したうえで、新構造主義学派による1980年代の対外債務危機の解釈およびリーマンショック後のマクロ経済問題の対応政策に焦点を当てる。最後に、ワシントン・コンセンサスに基づく新自由主義期と、外資流入が希少であったにもかかわらず成長、生産性、分配の面で業績が上がった「輸入代替工業化」期とを比較したうえで、国内のマクロ経済政策を重視する政策の枠組みから国際金融変動によって起こるシステミック・リスクの対応策を注視するパラダイム転換の必要性について論考する。

連絡先

神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー
桑山 幹夫
E-mail: Mikio.kuwayama@gmail.com