タイトル

利益の質に関する国際比較研究の進展と展望

要旨

Ball et al. (2000)を始めとして,財務報告における各国の差異について,国際比較分析が多く行われている。国際比較研究ではデータを統一的に分析することにより,各国の財務報告の差異を形成する要因は何かという問いに答えることができる。財務報告の差異として特に注目を集めるのが利益の質(earnings quality)である。本稿は利益の質を分析した国際比較研究を概観してその特徴を探り,将来研究への展望を探るものである。これまでの国際比較研究から,利益の質は国の様々な制度的・文化的要因により影響を受けることが明らかになってきている。先行研究で示されてきた利益の質に影響を与える国レベルの要因として,投資家保護等の法制度,税制,規制,法の強制力,政治体制,文化,信仰,言語,証券市場の発展度・金融機関の発展度(金融発展),産業の競争度,会計基準(IASとの距離,IFRSへの移行),会計・監査に対する規制等がある。利益の質は会計情報の機能に影響を及ぼすと考えられるので,会計情報は国の様々な制度と密接に関わりながらその機能を果たしていることになる。またIFRSの適用と利益の質に関する国際比較研究では,IFRSが利益の質を高める証拠と低める証拠が混在しており,単一で高品質といわれる会計基準の強制が,利益の質を必ずしも上昇させるわけではないことを示している。さらに利益の質に与える影響は,国レベルの制度的・文化的要因によって異なっている。つまりIFRSの適用による利益の質の改善には,会計基準以外の制度的な裏付けが必要であるといってよい。最後に,本稿では将来研究への展望として,個別国ベースの研究の国際比較研究への展開,IFRSの適用によるIFRS適用による利益の質の変化が契約支援機能に与える影響,非上場企業の国際比較を議論した。これらはデータの利用可能性の増大と相俟って将来重要な研究領域になるであろう。

キーワード

利益の質、国際比較研究、IFRS

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