タイトル

介護給付水準の保険者間相互参照行動-裁量権の違いに着目して-

要旨

本論文では、厚生労働省『介護保険事業状況報告』2006-11年度保険者別パネルデータを用い、介護給付水準(被保険者1人あたり居宅・施設・地域密着型サービス単位数)の保険者間相互参照行動を推定し、その特徴・要因を裁量権の違いに着目して分析を行う。2000年に介護保険制度が施行され、市町村を中心とした保険者の下、居宅・施設サービス、2006年度からは地域密着型サービスが提供されている。居宅・施設サービスにおける事業所設置権限は都道府県に、地域密着型サービスは保険者に設置権限が存在する。現在、地方分権の流れから、介護保険制度では都道府県から保険者へと裁量権が移譲している。本論文では、裁量性が反映されると考えられる相互参照行動に焦点を当て分析を行う。同一都道府県保険者を参照にするモデルにおいて、全ての介護サービスで相互参照行動を確認した。その強さは、施設サービスが最も強く、次いで地域密着型サービス、居宅サービスであった。施設サービスの強さは、施設待機者地域差拡大を阻止する目的で、都道府県による調整機能が強く働いたと考えられる。居宅・地域密着型サービスは類似のサービスであるが、地域密着型サービスは保険者主体の裁量権を通して、同一都道府県保険者の給付水準に敏感に反応したと考えられる。近隣都道府県における保険者の影響も考慮した分析から、居宅・施設サービスでは近隣都道府県における保険者の影響を受ける一方、地域密着型サービスでは近隣都道府県からの影響は大きくないことを確認した。居宅・施設サービスの裁量権は都道府県にあるため、これらのサービスは近隣都道府県からの影響を強く受けたと考えられる。いずれの分析においても、相互参照行動には裁量権の違いが大きな影響を与えていることを確認した。介護保険制度で地方分権が進んでいること、そして保険者に裁量権が存在する地域密着型サービスの相互参照行動が強いことから、今後介護給付水準相互参照行動はより強くなっていくことが示唆された。逼迫する介護保険財政において、先進的な取組の波及によるサービス効率化から、費用面で効率的な供給が促進されると考えられる。またヤードスティック理論の背景から、介護サービスの増加が住民にとって良いものと仮定された場合、相互参照行動による介護サービス増加は、当該地域に住民の意向が反映されたという点では住民の厚生上良いことと考えられる。その過程において、保険者が各地域選好特性に合わせた供給が行われているという点で、国による画一的供給よりも効率的であることが示唆される。

連絡先

〒135-8181
東京都江東区有明3-3-3
武蔵野大学経済学部経済学科 講師
(神戸大学経済経営研究所ジュニアリサーチフェロー)
松岡 佑和

※本ディスカッションペーパーは平成27年度兼松フェローシップ受賞論文です。