RIEB Discussion Paper Series No.2016-J01

タイトル

金納御手伝普請に見る幕藩関係―寛政度御所造営に係る熊本藩上納金を素材に―

要旨

寛政度御所造営は、紫宸殿、清涼殿などの中心殿舎において平安朝の復古様式が採用されたこと、そしてその建築様式がその後の御所造営においても概ね踏襲され、現在の京都御所に至っていることから、建築史・美術史研究において注目を集めてきた(1)。また、その政治的重要性から、政治史の文脈においても研究が進められてきた。これを藤田覚の仕事に代表される朝幕関係史の文脈と、松尾美恵子の仕事に代表される金納御手伝普請としての御所造営に見る幕藩関係史の文脈とに区分するならば、本稿は後者の文脈において寛 政度御所造営に係る大名上納金を考察するものである。特に注目するのは、熊本藩から幕府へ納められた20 万両の上納金、それも同藩が志願しての上納金である。
 従来、寛政度御所造営は「費用を惜しまず古制に則った造営」と認識されてきたが、財政難に苦しむ幕府が朝廷側に押し切られ、復古的な造営をせざるを得なくなったというのが真相であったことを藤田覚が明らかにした(2)。朝廷との交渉に当たった松平定信は、以下のように述懐する。

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