タイトル

わが国の中学校および高等学校における保険教育の現状について

要旨

本稿では、中学校や高等学校において保険がどのように教えられているかを確認しておくことを目的としている。第2節では、わが国の学校教育の内容を規定している学習指導要領、およびそれを補足する学習指導要領解説を参照して、そこで「保険」がどのように扱われているかを確認した。その結果、公的保険については、高校家庭科や高校社会科で扱われているが、私的保険については高校家庭科を除くと全く言及されていないことが明らかになった。第3節は、現在、実際に使われている中学校や高校の社会科と家庭科の教科書を参照して、どのように「保険」が記述されているのかを具体的に調べてみた。残念ながら、社会科の教科書では、年金などの社会保険についてはある程度の説明が行われているが、私的保険についてはほとんど言及されていない。社会科に比べると、高校家庭科では私的保険への言及がある程度行われているが、教科書によって取り扱いの濃淡にばらつきがあるし、保険をくらしの中で活用していくような視点での説明は行われていない。第4節から第6節は、これまでに学校現場に対して実施されてきた各種のアンケート調査の結果を紹介している。第4節は、2004年に金融庁が全国の小学校、中学校、高等学校に対して実施したアンケート調査「初等中等教育段階における金融経済教育に関するアンケート」の結果を紹介している。それによると、学校の先生の間では「保険」についての教育の必要性は広く認識されているが、現実には「保険」に関してほとんど教育されておらず、現実と認識の間に大きなギャップが存在している。その大きな理由は学習指導要領や教科書において保険が取り扱われていないことである考えられる。第5節は、筆者も参加した研究グループ(事務局 日本証券業協会)が2014年に実施した中学校と高等学校の教員に対するアンケート調査「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査」の紹介である。この調査では、教科書の記述が不十分な点として「保険の働き」をあげる回答者が非常に多かった。第6節は、金融証券知識の普及に関するNPO連絡協議会および証券知識普及プロジェクトが2005年に実施した「学校における経済・金融教育の実態調査」と金融広報中央委員会が2006年と2011年に実施した「子どものくらしとお金に関する調査」の結果を紹介している。第7節は、本稿のまとめである。

連絡先

神戸大学経済経営研究所
家森 信善
E-mail: yamori@rieb.kobe-u.ac.jp