タイトル

地域の観点から見た金融行動と金融リテラシー(1)
-金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」に基づく予備的考察-

要旨

本稿では、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」の集計公表データに基づいて、家計の金融行動と金融知識の現状の地域的な違いについて検討した。金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」によると、「中部」や「北陸」が貯蓄に熱心であり、「九州」や「北海道」は貯蓄が少ない。金融資産の多寡は、地域の所得環境の影響を受けているが、所得を考慮してもなお地域差が見られる。つまり、貯蓄性向が地域間で異なっているものと予想される。また、株式の保有比率について見ると、「関東」や「近畿」に比べて、他の地域での比率が低い。このリスク資産に対する投資姿勢の地域間の相違は金融資産残高などをコントロールしても見いだされた。一方、生活設計を立てている家計の比率を見ると、「関東」が高く、「九州」で低い傾向が見られるが、金融資産残高をコントロールすると、地域間の差異は見いだされなくなった。金融知識の指標として、預金保険制度に関する(主観的な)知識の地域的な違いを見ると、「関東」や「近畿」で高く、「北海道」や「九州」で低かった。これは、金融資産残高などをコントロールしても、地域間での違いが見いだされた。一方で、金融情報の入手に関する専門家の利用については、「関東」の家計は(相対的に)積極的であったが、金融資産残高をコントロールすると、地域差は有意とはならなかった。このように、観察される地域間の相違には、所得や保有する金融資産残高の地域間の相違の影響を受けているものもあるが、金融資産の多寡や株式投資比率などに関しては所得や金融資産残高の違いだけでは説明できなかった。  こうした所得や金融資産残高では説明できない地域の違いは、本稿では考慮できていない所得の将来見通しや学歴の地域差などの先行研究で指摘されている要因や、本稿執筆の問題意識である地域における金融インフラの違いが作用している可能性がある。本稿では、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」の(個票ではなく)集計公表データを利用したために、十分なサンプルを確保できておらず、あくまでも予備的な考察にとどまり、今後の一層の研究が必要である。

キーワード

金融知識、金融行動、金融リテラシー、地域間格差


連絡先

神戸大学経済経営研究所
家森 信善
E-mail: yamori@rieb.kobe-u.ac.jp