タイトル

日本の酒類流通業者による情報利用の戦略の一考察 ―輸入ワイン流通の事例―

要旨

日本の一般消費者の生活に深く馴染んだ酒類産業 であるが,その国内流通システムに関する研究は驚くほど少ない 。日本固有と言われる多段階の流通構造を持ち,免許制で規制され特殊と言われた酒類流通システムを,酒類の細目問わず,流通研究の立場から,江戸時代からの形成過程やその変化に参加するメーカー,卸,小売の各プレイヤーの相互作用について議論したものは,筆者の知る限り加護野・石井(1991)が最も包括的な研究成果と言える。 本稿は,我が国の酒類流通の変革が,メーカーのマーケティング戦略と情報化を原動力として生じてきたとする加護野・石井(1991)の理論枠組みに依拠し,酒類流通における情報の役割と,それによる流通システムへの影響について考察する。特に情報化社会が進展した近年において,購買時点情報だけでなく流通環境で発生する情報をいかに流通業者が利用し,自身の流通システムにおけるパワーの源泉としているかに関わり,重要な問いであろう。酒類産業の中でも輸入ワイン流通に着目し事例分析を試みた。その結果,ワインの輸入流通システムにおいて,輸入業者によるセレクティブな情報と,得意先やソムリエとの情報の共同生成が,通常の流通業者の情報縮約・斉合機能に加えて特徴的であった。流通業者の情報活動は再帰的なサイクルを持ち,市場のワインに対する多様なニーズやセグメントを作りだす。また流通業者の情報縮約・斉合機能の重要性を強化する。ワインのヴィンテージが更新されるたび,またワイン生産が日本国内も含め世界中に拡大するにつれ,新たなセレクティブな情報と共同生成が行われるのである。こうした,輸入業者と市場をめぐる再帰的な情報のサイクルが,輸入業者のワイン流通システムにおける存在意義を深める。

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