2004年8月23日記
緊密化するブラジルと中国の経済関係
神戸大学経済経営研究所教授 西島章次
近年の中国経済の台頭は世界貿易に大きな変化をもたらしているが、これに伴いブラジルと中国の貿易が急増している。とくにブラジルからの鉄鉱石、大豆などの一次産品輸出の拡大がめざましく、ブラジルでは中国ブームに沸いている。
図にみるように、ブラジルから中国への輸出は1999年には7億ドル程度であったが、2003年には45億ドルにまで急増した。他方、日本への輸出は20億ドル強に過ぎず、いまやブラジルにとって中国は米国に次ぐ貿易相手国だ。
輸出基地としてのブラジル
しかし、ブラジルはたんに天然資源の供給国として重要なだけではない。中国市場も含む世界市場への輸出基地として世界が注目し始めている。ブラジルではマクロ経済が安定し、1990年代に始まった経済自由化が国際競争力を高める環境を整備してきた。
例えば、シーメンスはマナウスに4千万ドルを投入して世界で3番目に大規模とされる携帯電話工場を建設し、全世界に供給する。また、ヘンケル、ボッシュ、バスフ、バイエルなどのドイツ企業はこぞって主力製品や部品の生産をブラジルにシフトさせている。また、ジーゼル・エンジンで知られる米国カミング社のブラジル工場からは、中国向けの輸出が2003年には7倍の急増となった。
自動車メーカーの対中国戦略にもブラジルが重要な位置づけにある。GM、フォルクスワーゲンなどは、小型乗用車のノックダウン部品をブラジル法人から世界に供給しているが、既に中国には年間で10万台分の部品が供給されている。ブラジルでは小型大衆車が主流であるが、同様の車種が中国の需要に一致するため、今後の中国への輸出拡大が見込まれている。
中国企業が直接ブラジルで生産を開始するケースも出始めている。ブラジルでは携帯電話の契約数は5000万台を超え、今後も急激な拡大が見込まれているが、中国の大手通信機器メーカーの中興通訊は、2200万人の顧客を持つ携帯電話会社ヴィヴォと125万台の携帯機器を供給することで合意した。中興通訊は既に
3つの海外工場を有しているが、ブラジルは4番目の工場となる。
残された課題
しかし、両国間の経済関係の更なる進展には、いくつかの課題が存在する。
例えば、ブラジルは世界第2位の大豆生産国であり、その輸出の30%が中国向けであるが、中国政府はルラ大統領の訪中前の5月初旬から訪中時にかけて、カーギル社など23社にブラジル産大豆の受け取り拒否を通告した。中国で使用禁止の農薬で汚染された 大豆が混入していたという理由である。
幸い、農薬汚染種子の混入率の基準で合意し、翌月には輸入停止は解除されたが、ブラジルのトレーダー達は、大豆価格の値引き要求するための戦略であり、背景にバブル崩壊を恐れて実施された金融引き締めが中国の大豆搾油業者に経営問題を引き起こしたことがあると考えている。ブラジルにおける「中国経済はバブルだ」という危惧が、中国との取引を慎重にさせる可能性を否定できない。
他方、ブラジルにも課題が残されている。インフラ整備、行政手続・官僚機構の効率化、税体系の整備などが伴わなければ、さらなる供給能力の拡大は困難である。また、中国が強い関心を示しているインフラへの投資は官民合同計画(PPP)の枠組みでなされるが、PPP法案が上院で審議が止まったままであり、ブラジルへの信頼を揺るがしかねない。
いずれにせよ、日本の頭を通り越して、中国とブラジルが急激に緊密化していることには相違なく、日本企業としても一考の余地があるのではなかろうか。