【講演者】 |
【タイトル】 |
【概要】 |
辻川尚起 |
「会計規制の政策評価」
―90年代末の金融不安・貸し渋りの解消を目的とした会計基準の効果測定― |
本報告は、1990年代末のわが国における金融システム不安および銀行の貸し渋りを解消することを目的として設定された会計基準の効果を測定し、当該実証結果と考察を踏まえた上で会計規制の政策評価について論じることを目的としている。
90年代後半、大手金融機関の経営破綻に象徴される金融システム不安,低迷する株価,増大する銀行の不良債権,銀行の貸し渋りによる企業のさらなる資金繰り悪化といった問題が深刻化していった。かかる社会経済的背景のもとで設定された、@公的資金の資本注入による資本の増加,A有価証券評価方法の任意選択の許容,B土地再評価法による土地の再評価,C税効果会計前倒し導入という4つ会計基準について,
@銀行の存続・破綻に及ぼした影響について,A貸し渋りの解消つまり貸出の増加に効果があったか,B不良債権の処理に対して及ぼした影響について、本報告では検証する。
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中村恒彦 |
アメリカの研究開発費会計と日本の研究開発費会計への含意 |
フォーラムでは、経路依存概念を用いてアメリカの研究開発費会計を考察しようと考えています。経路依存は、当該時代の人がどのように歴史的事象を認識したかによって、なぜ制度が変化したのかという問題(制度変化)と、なぜ制度が継続するのかという問題(制度変化の経路)を明らかにする方法です。
制度変化と制度変化の経路は、現在の会計政策への経緯ばかりでなく、現在の状況と比較することによって会計基準の問題点も明らかにすることができます。
たとえば、研究開発費会計では、資本化対費用化の問題、経営者と投資家のどちらが研究開発費の便益を計算すべきかという問題が存在します。
このような問題を、経路依存概念を援用して分析することによって、「マクロ会計政策の評価」に一つの考察視角を提言したいと思います。 |
松田昌史・
山岸俊男 |
ネットワーク型取引状況における評判制度の設計と有効性の検証に関する実験研究 |
本研究は、独立し孤立した2者関係を超えたより広い対人関係ネットワークにおける信頼関係形成プロセスを取り扱い、人々に関係拡大・信頼関係形成を可能とさせる制度的基盤としての「評判システム」の設計と有効性を実験で検討することを目的としている。
本研究では、参加者間に情報の非対称性が存在し、ネットワーク状況で相互作用相手を選択する実験状況を用いる(e.g.「レモン市場」;
Akerlof, 1970)。情報の非対称性により、参加者は他者から搾取される可能性があるが、協力的な相手との相互作用を継続することでより大きな利益を得ることができる状況である。
そこでは、他者を信頼するというリスク選択を行うことではじめてより大きな利益の獲得が可能となるが、相手の選択如何によっては重大な損害をもたらす可能性がある。本研究では、このような状況において、人々の間接的モニタリングシステムである「評判」の重要性を検討する。
特に、人々が自主的に評判情報を提供し利用することを可能にする評判システムの設計を目指す。
(山地;注)松田さんの研究は直接的には会計学の研究でないことは、その専攻(山岸先生は日本の実験心理学の第一人者です)からも窺われますが,会計や監査のコンテキストで読み解くと大変興味深い研究だと思います。そこで特に今回の神戸フォーラムに招待しました。
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浅野博信 |
会計利益の質的差異と資本市場―会計発生高アノマリーは存在するのか― |
会計利益には質的差異が存在し、将来利益を予測する際にはこの質的差異について注目すべきであることについては、過去の多くの文献で指摘されているところである。しかしながら、このような指摘があるにも関わらず、投資家は会計利益について機能的固定化(functional
fixation)を行っており、質の‘劣る’会計利益を計上した企業の株価は、将来の利益公表時に下落するということを裏付ける実証結果も存在する。本報告では、会計利益とキャッシュフローの差額である会計発生高(Accounting Accruals)について、
経営者による裁量の有無、短期・長期および透明度の3つの次元で注目することによって、利益の質的差異がいかなる状況において生じ、それが資本市場においてどのように評価されるのかについて明らかにする。加えて、わが国において検討されている会計政策によってもたらされると想定される影響についても展望する予定である。
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八重倉 孝 |
会計情報の有用性と日本における会計ビッグバン |
本報告では、近年の会計ビッグバンによる各種の会計基準の変更が会計情報の有用性に(1)影響をおよぼしているか、(2)影響があったとすれば、それは「良い」影響であったかを検証する。米国における先行研究(Collins,
Maydew, andWeiss [1997 JAE], Francis and Schipper [1999 JAR], Ely and Waymire[1999
JAR], Brown and Lys [1999 JAE])では会計情報の有用性の時系列の変化について中長期的な変化を観察対象としているが明確な結論は得られていない。日本においては会計基準の変更が一気に進行したため、会計基準変更が会計情報の有用性に与える影響をより明確に観察できる可能性があるが、データの制約上有用性の有意な変化を検出できるか否かは微妙である。
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後藤雅敏・
音川和久・
山地秀俊 |
企業内のエイジェンシー関係と会計情報―実験的方法からのアプローチ― |
企業のガバナンスの差異によって、株価形成にどのような差があるかをビジネス・ゲーム的環境を用いて実験的に検証する。さらに、ガバナンスの差異と会計情報の質の差異の相互作用についても同様の環境で検証したい。以下の文献を事前に読んでいただいておれば、
実験の日米比較が可能かと思われます。Anish Shah and Shyam Sunder, "Directors' Incentives and Corporate Performance," Revised March 1999.この論文はサンダー教授の以下のサイトからダウンロード可能です。 |
大石桂一 |
会計政策決定に影響を及ぼす制度的要因―米国の石油・ガス会計基準を手がかりに― |
フォーラムでは、1970年代後半における米国の石油ガス会計基準(SFAS第19号など)が形成された過程を規制論の立場から考察することによって、会計政策決定に影響を及ぼす様々な制度的要因(連邦制、二院制、委員会制、独立規制機関制、民間機関による会計基準設定、etc.)を明らかにすることを目的としている。
石油ガス会計は非常に特殊なケースだと思われるかもしれないが、だからこそ、様々な制度的要因が介在してくるため、そこには米国的会計規制制度の特徴が端的に表れていると考えることもできる。
本報告の分析を通じて、可能な限り、日本における会計基準設定機構改革(日本版FASB構想)と会計制度形成に対するインプリケーションを引き出したいと考えている。
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