タイトル
ブラジルの政府債務とインフレーション・ターゲティング政策

要旨

  本稿の問題意識は、ブラジルで実施されているインフレーション・ターゲティング政策が、変動相場制の下で為替レートの変動が激しく、しかも、政府債務や財政赤字の問題が存在するfiscal dominanceの状況にあって、対外的なショックにどのような影響を受けるかである。事実、2002年には大統領選挙直前の市場の混乱のためにブラジルのカントリー・リスク指標が急騰し、資本流失も深刻な事態となった。本稿では、政府債務とリスク・プレミアムを導入したインフレーション・ターゲティングの理論的分析を行い、これに基づき利子率に関する反応関数を推定した。推定は、インフレ目標を達成できなかった期間である2001年から2003年を対象としたが、基本的な結果は、ブラジルの中央銀行は将来の期待インフレ率と目標インフレ率の乖離に基づいて利子率を決定していること、為替レートの変化は利子率の説明変数としては有意ではないこと、また、為替レートを通じるチャンネルではなく、直接的にカントリー・リスクの増大に対しては利子率を引き上げ、政府債務の増大に対しては利子率を引き下げていることが確認された。したがって、2001年から2003年におけるようなデフォルト懸念が深刻となった事態にあっては、緊急避難的にカントリー・リスクや政府債務の急増に対し、インフレーション・ターゲティングの基本的なフォーミュラから逸脱し、利子率を機動的に変化させる必要があったといえる。


連絡先:〒657−8501
     神戸市灘区六甲台町2−1
     神戸大学経済経営研究所
     西島 章次
  TEL: 078−803−7036
  FAX: 078−803−7059