タイトル
製品開発の市場主義管理 ―ハイアールの事例―

要旨

 本稿は、中国の代表的な家電企業の海爾(ハイアール)の製品開発のケーススタディである。具体的にとりあげたのは、カラーテレビの開発である。
 ハイアールの製品開発は、企業内部市場の観点からみると、製品開発の企業内請負システムということができる。各製品事業本部は、新製品開発の情報を公示し、プロジェクト・マネジャーを社内公募する。プロジェクト・マネジャーになりたい技術者は、新製品開発の計画案を提出する。新製品開発の審査委員会は提出された製品開発の計画案を比較検討し、いちばんすぐれた計画案を採用する。その計画を作成した技術者がプロジェクト・マネジャーになる。プロジェクト・マネジャーは、製品開発のプロジェクト・チームのメンバーを社内公募する。このようにして決まるプロジェクト・マネジャーとメンバーが新製品を開発する。新製品の開発を委託する側(製品事業本部)と新製品を開発する側(プロジェクト・チーム)は、契約をむすぶ。
 製品開発にたずさわるプロジェクト・マネジャーおよび配下の技術者の給料は、市場給料といわれる。その市場給料は、開発された新製品の市場利益によって決まる。新製品の市場利益は、新製品の製造コスト、部品の調達コスト、販売台数、販売価格、市場品質(品質不良のために修理あるいは交換する費用など)などによって決まる。製品開発技術者は自分たちの給料をふやすために、低い製造コストと部品調達コスト、多い販売台数、高い販売価格、高い市場品質を実現できる新製品の開発に努力する。ハイアールの製品開発は、製品開発にたずさわる技術者の給料をつうじて企業外部市場と直結している。
 ハイアールは、その製品開発において、まず、企業の内部に人為的に市場をつくり、その内部市場のメカニズムのもとで内部請負システムとして製品開発を行なう。つぎに、製品開発技術者の給料を新製品の市場業績で決めることによって、外部の市場の力が製品開発に直接的に影響をおよぼすようにしている。このように、ハイアールの製品開発は内部市場と外部市場という2つの市場のもとで行なわれる。われわれはこの点に注目して、ハイアールの製品開発を「製品開発の市場主義管理」と特徴づけたい。


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