タイトル
異質の経営モデルの融合:フォード主導によるマツダの経営革新

要旨

 大きな経営革新を迅速に実施するためには、既存の組織が持つ構造やプロセスを破壊し、新しい経営モデルをゼロから作り上げることが必要だとする議論が多い。本稿では、ラディカルな経営革新のやり方として既存モデルを否定するのではなく、異なった経営モデルをうまく融合させ、新しい経営モデルを創造するプロセスについて議論する。
 事例として取り上げるのは、フォード主導で実施されたマツダの経営革新である。従来のマツダの経営モデルは、暗黙的な情報交換が重視され、人と人とが場や経験を共有し、組織としての柔軟性をベースとした知識創造という面で優れていた。他方、フォードの経営モデルは、責任体制を明確にし数値やロジックを用いた形式知化されたコミュニケーションをとおして、意思決定を迅速に行い、全社的な目標管理を徹底する面で優れている。
 マツダの変革においては、この2つのモデルのどちらかを選択するのではなく、両方をうまく融合させている。融合の方法としては、(1)柔軟性の高い暗黙知的な知識創造は残しながら、それらを結びつける機能として形式知化した秩序立ったプロセスを利用する、(2)柔軟性の高い知識創造の節目節目に形式知化した秩序を導入する(3)ある時期までは、柔軟性の高い知識創造を許容して、最後の段階で一気に形式知化する、という3つのモードが観察された。
 さらに組織変革のプロセスに関して、フォード派遣者は、人の気持ちを最優先することをポリシーにかかげ、外部からの圧力として変えるのではなく、マツダの立場に立ち内部から変えようとしていた。また、短期的な目的達成以上に新しい組織プロセスの創造を重視していた。結果として、マツダのマネジャーからの反発は驚くほど少ない。また、この変革マネジメントは2つの経営モデルを融合することに貢献した。


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