機械計算室の歴史<3>(PCSの更新)

(1)既設機械を利用した研究と教育

昭和22年2月に経営計録講習所が閉所し、新型統計会計機が設置された昭和35年3月までの期間は、戦後の混乱期のため日本経済は低迷していた時代であり、経営機械化研究を進めてゆくための環境にもなかったため、新しい機械設備の導入・更新はなかった。その中で可能な活動といえば、論理を中心とする個人研究か教育・訓練活動くらいではなかったかと推察される。そのような時期に本学経営学部(学部長、平井泰太郎教授)で、学生対象の「事務会計機械化特別講義」が本研究所教職員の講義担当という形式で企画されている。

その第1回は、昭和32年12月4日を第1日(2~4時間/日)とし、第5日まで行われている。その内容は、第1日・「事務会計の機械化」・米花稔、第2~4日・「各種会計機の特性及び適用領域」・木谷秀雄、第5日・「機械の実地操作、及び映画とスライド」・木谷秀雄他、となっている。同特別講義は逐次、時限数を増加しつつ昭和47年まで毎年続けられた。

(2)IBM統計会計機の設置(昭和35年3月)

昭和34年度の予算で統計会計機組織の導入が決定され、当時最も多く生産され、又日本でも1番の販売実績を持っていたIBM416型会計機を中心とするPCS1セットが選定され昭和35年3月19日に設置されている。その機械構成は、

(ア) IBM026型印刷穿孔機(カード上への印刷機能付)
(イ) IBM082型分類機(800枚/分)
(ウ) IBM077照合機
(エ) IBM602A型計算穿孔機(500~3,000枚/時)
(オ) IBM416型会計機(150枚/分)

の各機械よりなる。

同システムはその後、024型穿孔機・056型検孔機・083型分類機・519型集団複写合計印刷穿孔機・548型翻訳機を補充しPCSの全機械を設備している。これらPCS1セットは、昭和32年に竣工した経営機械化実験室(軽量鉄骨造平家建36.89坪)に設置されている。

新型IBM統計会計機導入にともない、本研究所及び経済・経営・法各学部の教官で構成した「経営機械化委員会」が昭和35年10月に設置されている。その目的は、「経済経営研究所に設置せる経営機械の活用に関する諸問題をとりあげ、その効果的運用方法を研究する」又その組織は、「神戸大学経済経営研究所の専門委員会の規定による」と書かれている。
第1回の経営機械化委員会は12月7日に開催されその後、数回開かれているようである。そこで討議された議案は、統計会計機の公開問題、同機械の利用及び当時大学教官に公開されていたIBM7090計算センターの利用にかかわる講習会の開催に関すること、昭和32年より行なわれている経営学部主催の「事務会計機械化特別講義」等、とくに統計会計機の運営と教育・講習問題が主としてとりあげられているが、各種統計データの整備を行うとか、経営機械化研究を行うなど専門委員会活動としてとり組むという意見もだされていたようである。

さて、昭和35年といえば、その時代の電子計算機を風靡した事務用電子計算機IBM650(発表は昭和29年)やユニバックのトランジスタ式電子計算機USSC等が民間企業を中心に導入されており、又国産機でも日本電気のNEAC-2201、三菱電気のMELCOM-2200、富士通のFACOM-212等がユーザーの手に渡っていた。しかし外国機は非常に高価であるうえに、国産機は高水準のプログラム言語を持っていなかったということもあって、利用技術の実績を持つPCSが選定されたようである。ちなみに今回設置された計算機能を持つIBM602A型計算穿孔機がどのように使われていたかを調べてみると、下記の文献にみられるようにかなり高度の計算が行われていた。

  • 「計算穿孔機の特殊用法(3)」、森口繁一箸、1956年、日本科学技術連盟
    (定積分の数値計算・代数方程式の解法・行列の固有値・常微分方程式の解法等の計算論理が示されている)。
  • 「601A計算穿孔機による微分方程式の解法」、藤川洋一郎著、同上。
  • 「602A計算穿孔機による定積分の数値計算と代数方程式の解法」、高田勝。

設置された統計会計機設備は、当初経営機械化委員会活動の一環として、「入試得点の機械集計」、「PCSによる給与計算システムの開発」などか同委員会の幹事であった都藤希八郎氏、日下部知子氏等によってとり組まれている。
同PCSは、公開利用が計られたことによって学内外における関心も高まり多方面の専門分野にわたって利用されてきた。
そのうちの主なものを年代順に、使用者、研究課題(メモによる)、使用期間を列記しておく。

  • 井関清志(理学部)、「整数論」、昭35年9月~
  • 能勢信子(研究所)、「発展期日本における産業及企業格差の測定」、昭35年12月~
  • 三宅一郎(京大・人文科学研究所)、「異なるレベルの選挙における投票行動の研究」、昭36年3月~
  • 小野二郎(研究所)、「商・工業調査」、昭36年6~7月
  • 西川知一・増田毅(法学部)、「農民の政治意識と生活意識」、昭37・38年
 

統計会計機組織は、083型分類機を除きIBM社に引渡される昭和51年12月25日まで使用され研究・教育面で大きな役割を果たした。

目次