情報家電産業・技術経営研究会
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 平成16年度に実施した研究会の概要
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平成16年度は、まずはじめに、デジタル機器の三種の神器と言われる「ディスプレイ」「DVD」「デジタルカメラ」や携帯電話等の製品(セット)を取り上げ、それぞれのデジタル機器の特徴に応じた、(国際的な)競争優位性の現状とその源泉や今後の展開等について、議論・検討を進めました。

第1回 平成16年10月22日(金)

「薄型ディスプレイにおける今後の技術戦略の展望」

問題設定 薄型ディスプレイ市場は、大型テレビへの適応等において成長が著しいが、その一方で、液晶やプラズマをはじめとする有力技術が並立しており、それらの棲み分けや競合の方向性も混沌としている。国際競争では、現状においてまだ日本企業に優位性が見られるものの、韓国等の追い上げも激しく、これまでの競争優位を引き続き維持していくための技術・製品戦略が求められている。
研究会の
インプリケーション
・薄型ディスプレイとしては、液晶、プラズマそれぞれに長所と短所があるが、互いが技術的に競い合う状況はこれからも続くのではないだろうか(市場の「勝者」は技術によっては決まらない?)。
・国内市場における異なる技術方式間の競争よりも、今後の韓国との(開発・生産投資面での)競争がむしろ脅威に感じられる。これは「技術」の問題ではなく「利益」の問題であり日本の制度との違いを踏まえた投資戦略の違いによるところが大きい。
・技術開発には終わりがない状況。現時点で優位性があっても、そのままだと(韓国等に)いずれ追いつかれることになる。
・モノは解析すればまねできるが、作り方はまねができない。薄型ディスプレイの場合は、製造技術のノウハウの保護が現状では有効に作用する。他方で、戦略的には、デバイス(モノ)とセット(作り込み)の両方で利益を出す工夫も必要。
・(大型)テレビの場合、グローバルな市場ではそれぞれに重視される点が異なる。従ってサイズと画質に応じた製品戦略を市場の特性に応じて講じていくことが重要。

第2回 平成16年11月19日(金)

「DVDレコーダーなど光ディスクにおける技術動向と収益モデル」

問題設定 光ディスク関連産業は、DVDレコーダーに象徴されるように、日本企業が技術と市場を牽引してきたデジタル機器の代表的な成功事例であるが、一方では、DVDプレイヤーのような典型的なモジュール型製品となると、中国や台湾企業に比較的早期に模倣され、低価格競争に巻き込まれる傾向が顕著である。従って、今後の光ディスク関連製品は、技術的に優れ顧客ニーズにもあったイノベーション創造を継続しつつ、セット戦略/デバイス戦略なども含め、事業としての競争力・収益力を持続する方策を検討する必要がある。
研究会の
インプリケーション
・DVDプレーヤーの失敗はデバイスにロイヤリティをかけなかったこと。モジュール型製品は、デバイスを購入すれば最終組立てまでを管理費・人件費の安い中国で行うことが可能となり、コスト的に競争できない。
・セット、デバイス、ソリューションなど様々な形で投資を回収する必要がある。
・光ディスクの場合、規格競争のせいで十分な投資回収ができなかった側面がある。自陣営の勢力拡大のためにソリューションを安く中国に売り、それが値崩れを起こした側面が大きい。次世代規格(HDDVDとB−Ray)も思ったより早くきてしまった感がある。
・モジュール型製品でも、キーデバイスである光ピックアップなどは、摺り合わせ型の製造ラインを持つことで技術のブラックボックス化に成功し、利益を上げている。
・DVDレコーダーについては、DVDコンテンツの普及度や録画文化の違いへの対応によって、(ブランド戦略も含めて)プレーヤーとは異なる戦略を検討することが重要。そうでなければプレーヤーの時と同じ様なモジュール型製品の経過をたどることになる。

第3回 平成16年12月3日(金)

「デジタルカメラ(DSC)における日本企業の国際競争戦略」

問題設定 日本企業はこれまでDSCの世界市場をほぼ独占してきたが、最近では、普及帯にある画素数を中心にして、東アジアや北米からの新製品導入が目立つようになっている。今後も市場における優位性を維持し、低下傾向にある収益の拡大を図るためにも、製品アーキテクチャの変化を踏まえ、モジュール化とコモディティー化に対応できるような、デバイスの高付加価値化とアッセンブルの高付加価値化を両立させていくことが必要である。
研究会の
インプリケーション
・DSCは光学やカメラなどの銀塩写真時代に培われた技術がコア技術となる傾向があり、また、それらは摺り合わせの部分が多い。
・垂直統合の強みを生かすためにも、大事なものを内製化し、パーツなりに競争力を持たせることが必要。映像処理はデジタルの中では大事な部品となる。
・DSCにおいて、CMOSとCCDが将来的にどう棲み分けていくかは興味深い。小さな画素サイズではCMOSはCCDに感度が及ばないが、携帯電話のカメラではCMOSが多く使われている。
・CCDからCMOSへの切り替わりが必ずしもコモディティー化を加速させるとは考えていない。例えCMOS化されても、信号処理、レンズの光学設計、手ぶれ補正等で日本メーカーの強みを維持したい。
・CMOSもCCDもまだ技術的には飽和していないとの認識にあり、飽和しないあるいは飽和させない限り、日本がまだ海外のメーカーに勝てるのではないか。

第4回 平成17年1月14日(金)

「システムLSIと組み込みソフトの開発マネジメント」

問題設定 デジタル機器の小型・省電力化に重要な役割を持つのがシステムLSI技術であり、また、システムLSIと対になる組み込みソフトウエア技術は、デジタル機器開発費の大部分を占め、その出来栄えが製品の成否に直結する。ソフトウエアモジュールの調達・管理は、OSやミドルウエアのアーキテクチャ戦略とも関連し、さらに、ハードウエアとの統合等の設計能力、インド等のソフト開発力レベルの高い国へのアウトソースを行う際のプロジェクト管理など、経営学的に議論を行うべき分野は多い。
研究会の
インプリケーション
・これまでは完全に水平分業型の半導体メーカーが成功を収めてきたが、規模の大きいDVD、DTV等のチップを作ろうとすると必要となるリソースが膨大となり、小規模な会社では簡単に開発ができない状況になってきている。大規模なシステムを迅速に開発するためには、プロセス、ライブラリ、メモリー、パーツなどを摺り合わせていくことが必要となり、Fabと設計を両方持つ日本メーカーの優位性が高まるのではないか。
・従来はセットメーカーが提供していた価値がチップに統合されていくと、セットメーカーが儲からなくなる構造が出来上がっていくのではないか。一方で、チップメーカーもセットメーカーの要求に過剰に対応している側面もある(規格外の機器との接続の実現など)。
・半導体メーカーだけでソリューションを構築するのは困難であり、アプリケーションを知ったセットメーカーと一緒にならないとうまくうまく立ち上がらない。協同作業をしてくれるのは海外メーカーではなく、日本メーカーしかない。
・組み込みソフトは品質が重要である上に、複数のモジュールが同時に行われることが頻繁にある。このような開発を行えるのは日本メーカーだけ。
・リードユーザー(セットメーカー)に鍛えられて技術力をつけ、次のステップで汎用化を行って一気に儲けるビジネスを考えたいが、なかなかうまくいかない。
・商品開発においてソフトウエアへの投資額が占めるウエイトが高くなっており、ソフトウエアの生産性を改善しないと利益は出ない。

第5回 平成17年2月4日(金)

「携帯電話における技術動向と製品開発モデル」

問題設定 携帯電話は動きの速い市場であり、技術的にも世代がどんどんと変化し、第一、第二世代では通信・会話が中心であったが、第三世代ではアプリケーションの駆動が重要な開発ポイントとなっている。また、国際的な規格競争の下で、OS・ミドルウエアを中心に従来とは異なるビジネスモデルも模索されている。このような状況の中、これまでは国内市場を中心に製品開発を進めてきたきらいがある日本企業も、今後は、よりグローバルな製品戦略を展開する必要があるのではないか。
研究会の
インプリケーション
・携帯電話のビジネスモデルは、日本と海外では全く異なる。海外では自社が開発負担と製品販売に責任を持つために安い費用で製品を作るが、日本場合、キャリアから開発資金の援助(ペイバック)があるために、全ての機能について高付加価値化の傾向がある。
・日本の携帯電話市場は成熟期に入りつつあるものの、世界と比べると買い換え需要はまだある。但し、このような状況は永続することはないので、いずれ苦しくなる。
・ローエンドの市場が今後も拡大していくことが予想されるBRICS地域では、価格を落としてでもシェアを獲得しようとする競争が行われているが、日本企業はコスト競争力がないために、このような市場には参入できていない。
・キャリアからの資金支援が無くなり、海外で競争しなければいけなくなった時、ローエンドはともかく、ミドルやハイエンドで海外メーカーに勝てるかどうかは今のところ未知数。
・中国のメーカーは携帯電話のオープンアーキテクチャの特徴を活かして、できあいのチップセットなどを使って端末を組み立て、ビジネスは違う側面で勝負するという側面が見られるが、日本企業は独自のチップセット、独自のアーキテクチャで製品を作り、オープンアーキテクチャの特徴を活かしていないのが不思議に感じられる。

第6回 平成17年3月4日(金)

「グローバルIT企業の競争戦略」

問題設定 デジタル機器は世界的な水平分業が進展しており、グローバル企業は様々なサプライチェーン戦略を構築している。それらのうち、製造に特化するEMSを中心とするサプライチェーンソリューションと、日本企業に特有な垂直統合とは異なるビジネスネットワーク(企業買収やアウトソース)の構築について、その戦略の特色や事業の成長性について認識を深め、日本型経営モデルとの融合点を模索してみる。
研究会の
インプリケーション
・EMSは集中化による規模の経済と分権化による各工場での柔軟性という二つのメリットをいかに同時に活かすかということが課題。そのためには、部品の特徴によって調達先を分けたり、キーコンポーネントは顧客が握っているという場合もある。
・EMSを活用する立場(外資系)としては、会社としての「コア」(この場合は販売)には徹底的に資源を投入し、外部に依頼してもよい「コンテクスト」(この場合は製造)とをはっきりと分けることで、グレーゾーンを無くしている。日本企業はそのあたりがまだ中途半端なのではないか。
・同じEMSでも、ODMに近い設計から製造までを対象とするものや、あくまでも製造に特化しつつそれに関連した技術支援サービスを組み合わせるものなど、様々な形態がある。但し、前者だと製品が特化されるが、後者だと対象が広くなって規模のメリットが生かせる。例えば、集中購買などはまさに規模が効いてくる。
・アウトソースをする時は、ハイエンドの製品かローエンドの製品かではなく、コアであるかそうでないかが判断の基準となるべき。従って、単なる製造のように見えても、自社として確保しておきたい製造ラインであれば保持しておくことは合理的。
・技術の将来予測は難しいため、現在はコアではなく利益率も低いが、将来的にコア技術に変化するかもしれないものは外へ出せないということも生じうる。

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