JICA研究所との共同研究プロジェクト アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定 調和のとれた開発のための政策の方向性

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背景

既存の経済学は、「経済主体が同質である」との仮定を基本として組成されていますが、経済主体の異質性、あるいは豊かな多様性こそが今日のグローバル経済を形作るものとなっています。事実、昨今、世界経済を一体化する流れが進む一方で、国家ごとに異なる経済活動、政治・社会・法などの多様さが浮き彫りにされています。また、市場原理に基づく現在のグローバル経済の構造が、必ずしも人々の厚生を最大化し、経済の安定をもたらすものでないことも明らかになってきました。

経済学では、この数年、経済主体の多様性を分析に取りいれる試みが盛んに行われています。例えば、理論では、個人や企業の経済主体をこれまでのように「同質」と仮定するのではなく、「異質なもの」として取り組み、市場経済の安定性等の特性を検証する研究が多くみられます。しかし、これらの試みは、多様性の一側面を捉えるもの、あるいは既存のモデルの枠組みでパラメーターを一部変えるもので、現実社会の多様性を反映するには至っていません。

理論的には、経済主体の選好が異質であっても、十分に同質で近いか、あるいは均等に分散している市場経済においては、安定的な均衡が存在することが知られていますが、この条件に合致すると仮定しうる国はそれほど多く存在せず、アフリカ諸国を含め、この仮定が成立しないケースが大多数であるといえます。実証研究では、民族の多様性と経済成長の関係が回帰分析で広く分析され、負の相関関係が検出されていますが、この結果は個別の事例研究で確認されておらず、負の関係の詳細は明らかにされていません。また、民族の多様性と経済の不安定性に焦点を当てた実証研究は、これまで見受けられません。

そこで、2009年度より、神戸大学経済経営研究所と国際協力研究科は、JICA研究所との共同研究プロジェクト「アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定:調和のとれた開発のための政策の方向性」を開始しました。アフリカを対象に、民族の多様性と経済の不安定性のリンケージを包括的に検証するため、理論・実証・実験・歴史的考察にケース・スタディを加え、最終的には、分析から得られる知見を基に具体的な政策提言を行います。

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目的

本プロジェクトでは、アフリカを対象に、以下の点を明らかにすることを目的としています。

  • 複数の異質な民族の併存が、市場経済の効率性、最適性、安定性に与える影響
  • 民族の多様性、その他、経済の不安定化要因
  • 市場経済の導入がもたらした民族固有の経済的特性の変化、民族コミュニティ間の格差の現状とその要因及び政治制度における民族の役割と経済の安定性との関連
  • 多様な民族が併存する国家で経済安定化に寄与する税制・地方自治制度・公共財の供給の仕組み及び民族の特性が補完的に作動し、地域経済の経済効率を高め、経済成長にプラスの要因となる事例

個人や社会の多様性がもたらす格差や摩擦や紛争、それに伴う国内あるいはグローバル経済の不安定化が、これからますます国際社会や開発途上国のみならず日本の大きな政策課題となってくるでしょう。したがって、この分野の研究の学術的並びに実務的な需要が今後顕著に増大することが想定されます。しかし、日本ではこの分野に関する研究蓄積は乏しく、その要因の一つは日本自体が民族的にそれほど多様でないために、本プロジェクトのテーマにそれほど関心が注がれてこなかったことにあると考えられます。今後のグローバル化の中では、こうした知的な制約を打ち破ることが重要であり、本研究は、アフリカを例として取り上げ、そうした努力を牽引していくものです。

また、アフリカをはじめ、諸外国の経済内部の多様化に対応する戦略や政策を立案し実践に応用できる研究は、日本にとって極めて重要です。グローバル化の進展とともに日本経済が相対的な地位を低下しつつある状況下で、世界の多様な経済・市場・行動原理などを明確に理解することは、今後の日本経済の国際的な戦略立案にとって欠かせません。具体的には、本研究の結果として、日本政府の国際戦略や対途上国援助政策の基盤強化、アフリカ諸国の経済政策・制度の改善、国際機関への対アフリカ融資政策の新たな視点の提示等が考えられます。

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