政策研究リエゾンセンター主催 政策研究ワークショップ

「政府統計データを活用した日本企業の分析」


 日本企業は、近年、数多くの深刻な課題に直面している。しかし、その実態、実像が正確に把握されているとは言い難いことも事実ある。官庁に蓄積された企業統計、特にそのミクロデータを更に高度に活用すれば、より正確な現状認識が得られることは確実である。また、こうした精緻な分析に基づいてこそ、的確な政策対応も可能となる。
 そこで、ミクロデータを用いた企業に関する実証経済分析の発表とともに、経済産業省の調査統計部長をお招きして、企業統計データの一層の活用について官学共同で議論する場を設けた。概要、以下のとおり。


日時:2003年2月7日(金) 13:30〜17:20
場所:神戸大学経済経営研究所会議室(新館2階)


第T部  企業統計ミクロデータによる日本企業グローバル化の経済分析
  (1)“Globalizing Activites and the Rate of Survival: Panel Data Analysis on Japanese Firms
                          (木村福成慶応義塾大学教授との共著論文)
       藤井 孝宗(愛知大学経営学部)
  (2)“Foreign Direct Investment into Asia and Domestic R&D Intensity of Japanese Manufacturers: Firm-level Relationship
       冨浦 英一(神戸大学経済経営研究所)


第U部   講演 「データで見る日本企業」   [レジュメ] [参考資料]
               田辺 孝二(経済産業省経済産業政策局調査統計部長)
 研究者による2本の研究発表論文は、いずれも、政府の企業統計ミクロデータを活用した分析であった。また、官庁側講師による講演においては、既存の集計統計ではわからない豊かな情報が統計には含まれていること、政府のための統計という発想から自分の行動のために利用する統計という考え方に転換すべきこと、統計においても、全国画一よりも地域ごとの取り組みや官学連携が重要であること等が強調された。その後の討論の概要は、以下のとおり。
 研究を目的とした統計調査個票の利用承認に関する統計法の基準は厳し過ぎるのではないかとの問題提起に対し、現行の枠内で政策提言に役立つ研究実績をまず積んでいくことが国民的議論につながるので重要との反論があった。また、学術会議答申でミクロデータ利用促進のための施設充実がうたわれていることからも、学会からの積極的提案は重要との認識が示された。
 統計法上の統計に限らず業務統計を販売する、データの格納様式を公開するなど、統計利用を促進するには、積極的公開が重要との指摘があった。個票でなくセミ集計データであれば幅広い公開が可能であるので、オーダーメード集計のためにいかなる集計が必要か研究者から提案してほしいとの提起に対しては、厳密な計量分析を行うには個票を直接扱う必要が大きいこと、企業の場合には匿名化抽出標本が機能しにくいこと等の反論がなされた。ただ、例えば、雇用変化を雇用創出(新規開業、転業、既存事業所)、雇用喪失(廃業、転業、既存事業所)に分解するのは、有効なセミ集計の一例との提案があった。
 日本では、データの利用が難しいので実証分析が進まず、研究者が少ないので、指導も限られ、院生も育たないという悪循環に陥っているとの現状認識が複数の研究者から示されたのに対し、プロジェクト化して研究を進めるのが有効ではとの示唆があった。関連して、日本の経済学教育で会計が重視されていないことも、企業統計の経済分析が進んでいない一因との指摘あり。
 分野としては、特に労働関係の統計に期待が高かった(国と地域ブロック統計の関係調整、ホームページで公開されているデータの拡充、経済実態としての地域区分と統計調査地域単位の調整等)。官庁側出席者(複数)から、国と地方出先機関との連携が統計分野で必ずしも十分ではないとの指摘も出た。このため、複数の中央省庁にまたがる統計を霞ヶ関で調整するには時間がかかるので、地域レベルで企業・労働にまたがる統計の改善を官学で共同研究してはどうかとの具体的リエゾン活動の提案もなされた。