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第6回 神戸フォーラム(会計学) The 6th Kobe Forum (Accounting)
 


― アメリカ不正会計とその分析 ―
  
【開催趣旨】
 今回は、アメリカで発生したエンロン事件を象徴とする不正会計を分析対象にフォーラムを組織しました。
監査、歴史、実験等様々な会計学の分野からの分析をそろえました。また会計学者の分析が否定的トーンになる可能性が強いことに鑑みて、経営学の碩学、吉原英樹教授にあえてエンロン社が残した光の側面を分析してもらうことにいたしました。



【講演者】 【タイトル】 【概要】 
吉原 英樹
(神戸大学)
エンロンの革新的ビジネスモデル  ローカルな公益事業会社(天然ガスの輸送事業)だったエンロンは、その革新的ビジネスモデルによって15年ほどで米国有数の大企業に成長をとげた。そして、その不正経営(不正会計など)によって、あっという間に破綻してしまった。エンロンといえば、現在ではもっぱら同社の不正経営がとりあげられる。他方、同社の革新的ビジネスモデルのほうは忘れられてしまったようである。エンロンの衝撃の正しい理解、とくに日本企業にとっての意味を正確に理解するためには、不正経営だけでなく、天然ガス、電力、水道、通信など規制産業における規制緩和という環境変化をFT(金融技術)とIT(情報技術)を駆使してグローバルなスケールでビジネスチャンスにしていく同社の革新的ビジネスモデルの重要性の理解を欠かすことができない。この報告では、エンロンの革新的ビジネスモデルに焦点をあてる。
  →内容
一ノ宮 士郎
(日本政策投資銀行 設備投資研究所)
利益操作に関する日米英の比較  米国で端を発した不正会計問題は、粉飾決算や利益操作等を含む財務報告の虚偽表示として理解することができる。現在の経済状況に鑑みれば、我が国でも財務報告の虚偽表示に留意する必要性が、以前に比べ高まっていると言えよう。今回の報告では、虚偽表示の一類型である「利益操作」に着目し、会計・監査実務において限界事例として問題視され、粉飾決算に変容する危険性をも内包する利益操作を巡る諸論点を日米英の比較により考えてみたい。
清水 泰洋
(神戸大学)
アメリカ不正会計とその分析:歴史的視点  今回のエンロン事件もそうであるが,会計に対する規制の出現には,不正会計の発覚やそれに伴う司法・行政の判断が大きく関わっている。その際に特に重要な役割を果たしていたのが判例や,SECの発行する会計連続通牒(ASR)および会計・監査執行通牒(AAER)などである。その中にはUltramares事件(Ultramares v. Touche, 174 N.E.2d 441 (N.Y. 1931))のように,長期間にわたる影響を及ぼしているものも存在する。本報告では,これらを題材として,過去にどのような不正会計が生じ,いかなる対策が行われてきたか,そして会計士の責任はどのように司法・行政によって判断されてきたのかについて分析および類型化を試みる。
  →内容
徳賀 芳弘
(京都大学経済学部)
会計基準設定における姿勢の変化 −エンロン事件のもたらす副産物−  エンロン、ワールドコム事件等によって経済社会の会計不信が高まると、会計基準は経営者の裁量の余地を縮小する方向で画一化が図られる可能性が高くなるであろう。また、現在の会計ルールが会計不正の回避に役立っていないということから、経済的実質主義に基づく複雑な会計ルールに替わる基準設定へのアプローチも模索され始める。本報告では、これまで会計基準設定において重要なコンセプトとなっていた比較可能性及びそれと密接な関係を持って提起されていた経済的実質主義が、画一化や原則的アプローチによってどのように変質されるのか、あるいは捨て去られるのかについて検討する。
  →内容
八田 進二
(青山学院大学経営学部)
会計不信一掃に向けた『米国企業改革法』の意味するところ  エンロン事件を契機として世界に伝播した『会計不信』ないしは『企業不信』の震源地,米国が下した一つの結論は,一連の証券・金融市場に対する信頼性の喪失を一掃するために,厳格な法による規制をもって対処するという方向であった。そこで,2002年7月30日に制定された『2002年サーベインズ=オックスリ―法』(通称『米国企業改革法』)に盛られた会計および監査上の諸問題解決のための規定が意味するところについて,具体的な検討を行うこととする。
  →内容
松本 祥尚
(関西大学商学部)
Blight-Line Accountingと職業会計士の役割  わが国においては、2002年7月30日に成立したSarvanes-Oxley法(企業改革法)の引き金になった重大事件として、2001年10月までSPEに飛ばしていた多額の損失を一気に計上したEnron Corp.と、2002年6月に多額の費用計上を隠していたことが発覚したWorldComの2社、ならびにそれらの法定監査を担当していたAndersenが挙げられる。しかしながら、当時の会計士や企業によって行なわれた「会計操作」は、これら2社及び1事務所に限られたものではなかった。これらの会計操作の底流には、20世紀初頭の証券二法制定当時に、会計と監査を巡ってPrinciples Basis対Standards Basisとして繰り広げられた古くて新しい論争が存在していたのである。今回の報告では、当該論争の意味を振り返りながら、2001・02年当時の会計操作の事例を採り挙げ、現場で会計士が果たした(果たし得た)役割について検討してみたい。
  →内容
後藤 雅敏・
山地 秀俊
(神戸大学)
効率的市場仮説に基づく証券規制の功罪  証券市場が情報効率的であるという実証研究の結果を踏まえて、各国の証券市場規制機関は政策を実施しているという側面がある。しかし実験的証券市場を用いた結果からは、実証的に効率的と言われた株価の動向が、実は必ずしも効率的でなくても発生し、かつ特定の情報保有者を利する可能性があることを主張しえることを指摘し、証券市場規制での「情報監査」ではなく「実体監査」の重要性もあわせて指摘したい。
  →内容


 
 Research Institute for Economics & Business Administration - Kobe University
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