タイトル
残余利益評価モデルにもとづく財務比率の特性分析

要旨

本稿は,Nissim and Penman (2001) やPenman (2006) にしたがって,残余利益評価モデ ルに依拠しながら,株式価値と密接に関連する財務比率の特性を横断的・時系列的観点から総合 的に分析する.本稿の特徴は,これまで日本の研究であまり取り上げられなかった財務比率−た とえば正味営業資産利益率やコア正味営業資産利益率,また正味金融負債を株主資本簿価で除し た財務レバレッジなど−について,こうした財務比率が残余利益とどう関連しているのか,さら に,どのような時系列特性を有しているのかなどを詳細に明らかにしている点である.一連の分 析からえられた主要な発見事項は次の通りである.まず,(1) 産業ごとに財務構造や収益構造に 大きな相違が見られるため,株式価値評価に際しては各産業の特性を十分に理解した上で行わ なければならない.また,(2) 残余利益と関連する財務比率には,それぞれ独特の時系列特性が あり,分析者はこの時系列パターンを認識した上で,株式評価を行うことで精度の高い株式価値 を推定できると考えられる.そして,(3) 残余利益評価モデルの実行にあたり,ターミナル・バ リューを設定する際は,予測期間外において残余利益が永続的に持続すると仮定することが現実 データと整合的であり,この仮定が株式価値評価の精度を上げる可能性がある.そのほかにも細 かい発見事項が数多くあったが,本稿の分析結果はすべて正確な残余利益の予測に役立つ基礎資料を提供するものと考えられる.



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