タイトル
わが国の為替介入の効果に関する実証研究 −1991年5月から2000年4月まで

要旨

  財務省は、2000年の8月から2000年度からの四半期ごとの外国為替平衡操作の実績を公表していたが、2001年7月に、さらに1991年4月から2000年3月の介入のデータを公表した。これにより1991年度以降、いつ、どれだけの介入をしたかがわかるようになった。従来の研究では、外貨準備の増減額から利子収入を差し引いた月次データを用いたり、あるいは日本銀行当座預金増減要因(以前の「資金需給実績」を改称)のうち外為(これは介入のみを反映しない)の月次データを用いていたが、正確な日次データが利用可能となった。ただし、何時何分にどこの市場で介入したかについてまでは明記されていない。
 伊藤隆敏氏(前財務省副財務官)は、日本経済新聞(2001年8月2日)の経済教室の欄で、NY市場の終値の変化率を使って介入を分析しているが、日本の単独介入である場合には適切ではないように思われる。なぜなら、日銀のNY市場での介入やNY連銀への委託介入を除けば、東京市場で介入したと考えられ、東京市場の終値を用いる方が望ましい。米国側の協調介入(この期間には22回)の場合には、米財務省・連銀がNY市場で介入する場合に限ってNY市場の終値を用いるのがよい。しかし、Federal Reserve Bulletin (July,1992,p.485)の Treasury and Ferderal Reserve Foreign Exchange Operationsには、1992年2月17日および20日の協調介入に際して、東京市場で介入したと記載されている。このような場合にはNY市場の終値を用いることは適当ではない。したがって、われわれは1991年5月から2000年4月までの東京外為市場の終値を用いて実証分析をおこなう。
 まず、ドル売り(ドル買い)・円買い(円売り)介入は、円安(円高)方向に進行しすぎているのを反転させることが目的であると考え、介入実施日の終値が介入前営業日の終値よりも円高(円安)になっていれば、介入の効果があったと判断できる。また、為替レートが当局にとって望ましい方向へ向かったとしてもその動きを速めるための介入もあろう。前者は、「風に逆らう介入(leaning against the wind)」であり、後者は「風に乗る介入」(leaning with the wind)と呼ばれる。この分析期間に1ドル=125円よりも円高であれば円売り・ドル買い介入を実施し、125円よりも円安であれば円買い・ドル売りが実施されていた。しかし、計193回の介入(東京市場が休場の日の介入は除いた)のうち、終値で比較すると効果があったのは、69回(約36%)にすぎないことがわかった。さらに、伊藤氏にならって、介入日、前日、前々日の終値から介入が変化率に効果を及ぼしているかどうかについても実証分析も行った。この場合介入によって、必ずしも為替レートを思い通りに反転できなくても変化率を抑えることができれば効果があったといえる。回帰分析の結果、介入には一定の効果があったが、その程度は小さいことがわかった。
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