タイトル
海外研究開発の一断面 ─シンガポールとマレーシア

要旨

 シンガポールとマレーシアにおける日本企業の研究開発を、両国での現地調査にもとづいて明らかにしょうとしたのが、本論である。
 日本企業がこれら両国で研究開発を行う理由には、現地市場のニーズに対応、コストダウン(部品・材料の現地調達をふやすための研究開発)、研究開発の国際分業、両国の研究開発環境の活用などがある。
 両国で行われている研究開発の活動には、研究開発のうちの研究(調査対象6社のうちの1社)、製品の開発(4社)、技術サービス(1社)などがある。
 両国で行われている研究開発は、日本企業の研究開発の全体のなかでは、小さい部分しか占めていない。
 研究開発の国際ネットワークについては、両国の研究開発は日本親会社と緊密な関係があるが、他の海外子会社の研究開発との関係は概して希薄である。
 研究開発の成果の国際移転では、日本親会社から両国の子会社への移転(順移転)がほとんどであり、両国から他の海外子会社への移転(水平移転)はすくない。両国の子会社から日本親会社への逆移転はほとんどない。
 シンガポールとマレーシアで研究開発を行ううえでの問題点ないし困難としては、人材と言語が重要である。人材の問題点としては、優秀な人材を確保することがむずかしい、ジョブホッピング、技能的技術者の不足がある。言語の問題点は、日本親会社とのコミュニケーションでは英語よりも日本語が多く使われることである。両国の研究開発の組織では、内部のコミュニケーションにおいて、また、他の海外子会社とのコミュニケーションにおいても、英語が使われる。ところが、日本親会社とのコミュニケーションでは日本語が要求されることが多く、このことが研究開発の国際コミュニケーションのネックになっている。


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