タイトル
信用金庫の規模と範囲の経済性

要旨

 本稿では近年盛んになりつつある信用金庫の合併の効果を予測するために、信用金庫の費用関数の推計を通して規模と範囲の経済性を求めた。信用金庫は地域密着性を特徴とし、それ故に各地で異なる費用構造を有すると予想さる。従って全国を4つの地域(東部都市型、西部都市型、東部地方型、西部地方型)に分割し、それぞれ分析を行なった。また信用金庫は取引先として会員であることを条件としており、本稿では会員を店舗と共に準固定的な投入要素ととらえ、会員数と店舗数についてその増大が費用に与える影響も考察した。 
 主要な結論は以下のようになった。@東部都市型では規模の経済性は生産規模が拡大すると縮小する傾向を示す。生産規模が拡大すると伴に会員数や店舗数の増大が費用を押し上げる傾向が強くなり、これらが規模の経済性を縮小させる要因となっている。従って特にこの地域は生産規模の拡大に伴ない、店舗数とともに会員数の抑制が他の地域よりも望まれる。また貸出金と有価証券間の範囲の経済性は500から2000億円に見られ、この生産規模では業務多様化による費用節約効果が期待できる。A西部都市型では生産規模が拡大すると規模の経済性は縮小する。生産規模が拡大すると伴に店舗数は費用上昇要因としての傾向を弱め規模の経済性を増大させる要因であるが、会員数は規模の経済性を減少させる傾向を示しているが有意な差は本稿では見られなかった。また会員や店舗の影響を除いた規模の経済性は生産規模の拡大に伴い減少する傾向が見られた。従ってこの地域では非常に大きな生産規模では会員数の抑制が有効となる可能性を有する一方で、規模の不経済性を回避するため適切な生産規模の選択が重要になる。貸出金と有価証券間の範囲の経済性は見られず、業務多様化の効果は期待できない。B東部地方型では生産規模が拡大すると規模の経済性は増大する。会員数や店舗数の増大は費用を押し上げ規模の経済性を減少させる傾向を示すが、生産物の直接的な費用削減効果の増加が大きいため会員や店舗の費用押し上げ効果を相殺している。より大きな規模の経済性を得るための会員数や店舗数の抑制は効果的である。範囲の経済性が500から1000億円と4000億円以上にみられる。貸出金と有価証券間に業務多様化による費用節約効果がこれらの生産規模に期待できる。C西部地方型では生産規模が拡大すると規模の経済性が増大する。会員数や店舗数の増加が費用を押し上げる傾向が生産規模の拡大と伴に縮小し、規模の経済性を増大させている。ただし会員や店舗の影響を除いた規模の経済性は生産規模の拡大とともに縮小する傾向を示しており、非常に大きな生産規模では適切な生産規模の選択が重要となる。範囲の経済性は見られない。


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