タイトル

ラテンアメリカで地域統合の新しい潮流として蘇る「開かれた地域主義」

要旨

ラテンアメリカ・カリブ (LAC) 地域で「開かれた地域主義(Open Regionalism、略してOR)」が蘇り、このORの概念の下で地域統合の再編成が進んでいる。ORは、域内での関税削減・撤廃よる「規模の経済」に基づく工業化や「共通関税」の適用による「関税同盟」などの従来の統合目標とは異なり、域内の通商ルールの簡潔・統一化、財及びサービスの競争力を損なう非関税障壁の削減、行政管理上のコストや諸々の取引コストの低減、「貿易円滑化」措置の導入、インフラ整備の拡充による生産性と国際競争力の強化、を強調する。OR路線に沿って統合の「深化」を図るということは、LAC諸国が自国と地域の競争力を強化し、主要国際市場参入の「質」を高めて、社会公正の是正に貢献することであると考える。LAC諸国はこれまで政府主導の欧州型の地域統合路線 (de jure integration) を進めてきたが、市場主導のアジア型の統合 (de facto integration) との相乗効果を追求する統合構想へと変化してきている。本稿では、アジアに源を発するORの概念をLACの視点から考察した上で、ORに基づく地域統合戦略が、同地域諸国が抱える構造的問題の処方箋と成り得る方向性を提示する。アンデス共同体、メルコスール、中米統合機構、南米諸国連合(UNASUR)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体 (CELAC)、米州ボリバル同盟 (ALBA) 等の統合機構の変遷と各々の業績を評価しながら、昨今世界が注目する太平洋同盟がORに忠実な統合構想であり、また現在進行中のメルコスールと太平洋同盟との関係強化の動きもOR路線に沿う戦略であることを検証する。

連絡先

神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー
桑山 幹夫
E-mail: Mikio.kuwayama@gmail.com