タイトル

インドのバイオ医薬品企業の経営戦略-Bioconの事例研究を中心に

要旨

WTOの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(the Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights、通称TRIPS協定)は、インドの知的所有権制度の転換を余儀なくした。TRIPS協定の義務履行により、インドは1970年特許法を改正し、物資特許を導入することを決めた。TRIPS協定の義務履行によるインドにおける物質特許の導入は、インド製薬産業の成長を鈍化させると考えられた。しかし、その予想を覆し、TRIPS協定以降、インド製薬産業はその成長を加速し、成長を続けてきた。TRIPS協定以降もインド製薬産業が高成長を維持している要因は、TRIPS協定の発効によって、多国籍製薬企業の国際価値連鎖(Global Value Chain: GVC)がインドにも拡大してきたことにある。
 TRIPS協定とGVCのインドへの拡大は、インド製薬企業の経営戦略の転換を促した。第一に、インド製薬企業の研究開発の在り方を大きく変化させ、研究開発によるイノベーションが経営戦略の中心に据えられるようになった。第二に、インド製薬企業は、GVCの拡大を好機として捉え、外資提携を積極的に活用する戦略に転換した。外資提携を通じたGVCへの積極的参加がインド企業の経営戦略の重要な要素となった。本稿では、Humphrey and Schmitz(2000)のアップグレードの枠組みを援用して、Bioconの発展を検証しアップグレードの実態とそれを可能にしたBioconの「企業の能力」について考察する。

キーワード

インド、TRIPS協定、GVC、アップグレード、外資提携、バイオ医薬品

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