タイトル

インド産業発展の軌跡と展望

要旨

IMFの予測(World Economic Outlook)によれば、インドのGDP成長率は2015年に7.3%となり、中国の6.8%を上回る。その後、2020年までインドが7%台後半で成長するのに対して、中国は6%台前半で推移する。このIMF予測が正しければ、中国とインドの経済成長率の逆転現象は、1980年以来、天安門事件後の3年間を除くと、歴史上初めてのことになる。  インドは2011年から2013年にかけて断続的に通貨不安に見舞われ、モルガン・スタンレーからはブラジル・インドネシア・南アフリカ・トルコをあわせてフラジャイル・ファイブ(Fragile Five)と命名されていた。高いインフレと景気後退という不安定なマクロ経済環境のなか、2013年9月にシカゴ大学教授・IMFチーフエコノミストを歴任したラグラム・ラジャンがインド準備銀行(RBI)総裁に着任し、翌年5月には総選挙で野党インド人民党(BJP)が大勝し、州首相としてグジャラート州を高度経済成長に導いたナレンドラ・モディを首班とする新政権が成立した。その後、ラジャン総裁による金融政策の巧みな運営とモディ首相による経済改革への強いコミットメントを背景として、インドはマクロ経済の安定化に成功し、フラジャイル・ファイブという名称は過去のものとなった。実際、一時は2桁にも達していたインフレ率は現在は5%台にまで落ち着き、GDP成長率も2012年の5.6%から現在の7%台にまで上昇している。  世界経済全体が減速するなか、再び、高度経済成長軌道に乗ろうとしているインド経済に多くの注目が集まっている。果たして、インド経済はかつての中国のようにこのまま順調に高度成長するのだろうか。中国が工業化をベースにして高度成長を実現したのに対して、ソフトウェアやビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)など情報技術(IT)産業に強みが持っているインドは、サービス経済化による高度成長が可能なのであろうか。そもそも、インドの産業発展はどのような特徴を持っていて、それは経済成長とともにどのように変化し、さらには経済成長にどのような影響を与えるのだろうか(Amirapu and Subramanian (2015), Eichengreen and Gupta (2011), Government of India (2015), Rodrik (2013), Rodrik (2015))  本論文は、近年再び研究関心の高まりを見せている上記の素朴な疑問全てに回答することはできないが、インド政府の公式統計である「国民所得統計」(National Account Statistics)を主として利用することによって、インドの産業発展の特徴とそのことが経済成長に持つ意味を考察してみたい。とりわけ、本論文は、個別産業のなかでも、モディ首相のイニシアティブで開始された「メーク・イン・インディ」(Make in India)政策の焦点になっている製造業部門に注目する。  本論文の構成は、以下のとおりである。第2節ではインド経済全体の産業構造とその変化を、第3節では製造業部門に焦点を絞ってその構造と変化を考察する。第5節では、都市農村と各州の産業構造とその変化を検討する。最後に、第5節では本論文の内容をまとめ、今後の研究課題に言及する。

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