タイトル

日本の製造業の経営成果:近年の動向とその要因の産業別分析

要旨

本稿では、日本の製造業を代表するエレクトロニクスと自動車の分野について、近年の収益性を観察し、それにどのような要素が影響しているのかについて探索的な分析を行った。ここから、大別6つの発見がえられた。第1に、苦戦するエレクトロニクスに対して好調な自動車という対比は2015年まで延長したデータでも確認することができた。第2に、産業間で過去の利益率による影響に違いがあった。デバイス製造業と自動車製造業については儲かっている会社ほどさらに儲かり、儲からない会社はさらに儲からないという関係が存在している。ICT機器製造業については、売上高営業利益率について2期前に儲かっているほど今期は儲からなくなるという関係が存在する。これは過去の利益水準がインプットとなって今期の利益水準を決めているというよりはむしろ、ICT機器製造業においては、儲かっている企業がそのまま儲かるという安定的な関係が成り立たないということを意味しているように思われる。第3に、利益水準にもっとも広く寄与するのは固定資産比率である。第4に、日本企業が推進してきた「選択と集中」は少なくとも事業領域の数を基準として見る限りでは収益性に安定的な効果をもっていない。第5に、資産効率の改善はICT機器製造業において利益水準の向上につながる。第6に売上高の拡大は自動車において営業利益率の向上をもたらすが、それは同時にキャッシュフロー利益率の低下につながる。

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