[講師] 髙槻 泰郎 Yasuo TAKATSUKI
| 所属部門 | グローバル金融研究部門 |
|---|---|
| 生年月 | 昭和54年 5月 |
| 学歴 | 平成14年 3月 慶應義塾大学総合政策学部卒業 平成19年 3月 大阪大学大学院経済学研究科前期博士課程修了 平成22年 3月 東京大学大学院経済学研究科後期博士課程修了 |
| 学位 | 平成22年 3月 博士(経済学)東京大学 |
| 職歴 | 平成20年 4月 日本学術振興会特別研究員(DC2)、社会科学 平成22年 4月 東京大学大学院経済学研究科 助教 |
| 研究分野 | ミクロ政策分析 |
| 研究課題 | 前近代経済の時系列データを用いた計量分析と日本の金融市場を対象とする制度分析 |
研究計画
金融市場における資金調達の形態は、公的な統治の下に行われる市場ベースの金融取引(arms-length financing)と、私的な統治の下に行われる関係的融資(relational financing)とに大きく分類することができ、実際にはこれらを両極とする無数の組み合わせの中から選択される。我が国においては、後者の関係的融資が重要な位置を占めてきたと言われ、その一類型である戦後のメインバンクシステムについては、青木昌彦による研究をはじめとして、豊富に研究が蓄積されている。しかし、貸し手と借り手の間に存在する情報非対称がいかに緩和されたのか、協調融資を行った金融機関同士で、いかなる情報交換がなされたのか、といった点に肉薄する研究は、管見の限り存在しない。これらの極めて内部的な情報に、外部の研究者が接触することは不可能に近いからである。
これを明らかにする鍵が徳川時代に求められる。鴻池屋善右衛門(現三菱東京UFJ銀行)などの両替商は、森泰博が解明した通り、貸付先となる大名の大坂蔵屋敷に手代を派遣して財政上の意志決定に参画させ、大名の行動を監視しつつ、融資の可否を決定し、貸付額が自身の手に余る場合には、他の両替商と協調融資を行っていた。まさに関係的融資を実現していたのである。大坂の両替商が実現した関係的融資は、幕府による債権保護が脆弱であったことを一つの要因として形成されたものであるが、明治以降、近代的な司法制度が整備された後も、全ての金融取引が市場ベースの取引関係に収斂したわけではない。司法制度が整備されても尚、関係的融資が、我が国の金融市場に一定の地位を占め続けたという事実。それは関係的融資が、市場ベースの金融取引に対して優位性を発揮する状況が常に存在し続けたことを意味する。青木の指摘するように、我が国において関係的融資が重要な役割を果たしてきたとするならば、少なくとも過去300年間の金融市場の歴史を振り返り、その実態を地道に解明していく作業が求められる。
そのためには、大きく分けて2つの作業を同時並行的に進める必要がある。
- 前近代経済の時系列データを用いた計量分析
徳川時代における最大の借り手たる大名は、米切手を領主米市場において発行する市場ベースの方法と、特定の商人より融資を受ける関係的融資との2つの方法を持っており、米切手取引市場たる堂島米会所の値動きを注視しながら、この2つから最適な配分を設計していたと考えられる。したがって、徳川時代の金融市場の実態を解明する上で、米切手価格を知ることは不可避の作業課題となる。これを可能にするのが、国文学研究資料館所蔵「近江国蒲生郡鏡村玉尾家文書」所収の「万相場日記」から復元される米切手価格系列である。これは大津郊外の農村に居住した富農、玉尾家が5代にわたって記録した相場帳であり、諸大名が発行した米切手の価格について、特に18世紀末から幕末にかけては日次での記録が継続されている。既に私は、米切手の主要銘柄について、直物と先物の日次時系列データベースを作成しているが、主要銘柄以外の個別銘柄の価格については復元が完遂していない。これらについても、同様に日次時系列データを作成し、各大名が発行した米切手の価格を時系列的に把握することが、分析の基礎作業となる。 - 金融市場の制度分析
大名が直面した、もう一つの金融手段は、両替商との間に結ぶ関係的融資契約であった。その実態を教える史料が、大坂最大の両替商、鴻池屋善右衛門が、貸付を行った大名との交渉履歴を詳細に記録した「掛合控」である。「掛合控」は、幸いにも大阪大学経済史経営史研究室に計33藩分が現存しているが、その豊富な情報量に反して、これまで部分的に利用されるに止まってきた。徳川時代において関係的融資が実現していたことを明らかにした森泰博の貢献は強調するに値するが、その具体像の解明は依然として大きな課題として残されているのである。
以上の研究課題は、科学研究費補助金基盤研究(C)「近世金融市場における私的統治と公的統治-「大名貸」の比較制度分析-」(2011-13、23530408、研究代表者)の助成を得て行われる。
研究活動
研究業績
【査読付き論文】
| Title | Publishing | Date |
|---|---|---|
| 「近世日本における相場情報の伝達―米飛脚・旗振り通信―」 | 『郵政資料館研究紀要』第2号 91-108頁 | 2011年3月 |
| 「近世日本米市場における財産権の保護」 | 『歴史と経済』第205号 33-45頁 | 2009年10月 |
| 「近世期米市場の階層性-大阪堂島米会所と大津御用米会所-」 | 『社会経済史学』第75巻第3号 45-65頁 | 2009年9月 |
| 「米切手再考-宝暦十一年空米切手停止令の意義」 | 『史学雑誌』第118編6号 73-88頁 | 2009年6月 |
| 「近世領主米中央市場の機能-堂島米会所における米価形成の効率性-」 | 『社会経済史学』第74巻第4号 3-22頁 | 2008年11月 |
【査読無し論文】
| Title | Date | |
|---|---|---|
| 「証券市場と商品市場の共進化」 | 神戸大学経済経営研究所 ディスカッションペーパーシリーズ DP2012-J01 | 2012年2月 |
| 「18世紀中後期における大坂金融市場統制策」 | 藤田覚編『十八世紀日本の政治と外交』第I部第2章 山川出版社 | 2010年10月 |
| 「取引統治効果の派生と深化-近世期地方米市場の拡大-」 | 東京大学社会科学研究所 ディスカッションペーパーシリーズ J-178 | 2010年3月 |
| "The Formation of an Efficient Market in Tokugawa Japan" | Institute of Social Science, The University of Tokyo, Discussion Paper Series, F-143 | November 2008 |
| "Informational Efficiency under the Shogunate Governance: Concentration and Integration of the Rice Market in Tokugawa Japan" | Institute of Social Science, The University of Tokyo, Discussion Paper Series, F-141 | September 2008 |
| 「近世的政策金融の終焉-山口県上関町の質物金融-」 | 東京大学社会科学研究所 ディスカッションペーパーシリーズ J-162 | 2008年5月 |
学会報告活動
| Category | Title | Place | Date |
|---|---|---|---|
| 学会報告 | "Informational Efficiency under the Shogunate Governance: Concentration and Integration of the Rice Market in Tokugawa Japan" The 9th Joint Symposium between RIEB/Department of Economics, Kobe University and Hanyang Economic Research Institute/College of Economics and Finance, Hanyang University on "Economics and the Society" | 2011年6月10日 | |
| 学会報告 | 「江戸幕府米切手統制策の変容-18世紀大阪米市場を中心に-」史学会 2009年大会 近世史部会シンポジウム「18世紀の近世」 | 2009年11月8日 | |
| 学会報告 | 「取引統治効果の派生と深化-近世期地方米市場の拡大-」社会経済史学会 第78回全国大会 パネルディスカッション「統治と市場、そして組織-外なる差異の裁定と内なる差異の創出-」 | 2009年9月27日 | |
| 学会報告 | "Informational Efficiency under the Shogunate Govemance: Concentration and Integration of the Rice Market in Tokugawa Japan." World Economic History Congress in Utrecht, Session J7, "States, institutionsm, and development: Standardization and enforcement of trades in diverse markets" | August 6, 2009 | |
| 学会報告 | 「近世期米市場の階層性-大阪堂島米会所と大津御用米会所-」社会経済史学会 第77回全国大会 | 2008年9月27日 | |
| 学会報告 | "Informational Efficiency under the Shogunate Govemance: Concentration and Integration of the Rice Market in Tokugawa Japan." 日本経済学会 2008年度秋季大会 特別セッション "States, Institutions, and Development: Emergence of Designed Enforcement Mechanism in Comparative History" | 2008年9月15日 | |
| 学会報告 | 「金融制度改革期における地方金融-山口県上関町の質物金融-」経営史学会 第43回全国大会 | 2007年10月21日 | |
| 学会報告 | "The formation of the efficient market in Tokugawa Japan." 日本経済学会 2007年度春季大会 | 2007年6月2日 | |
| 学会報告 | 「前近代における市場の情報効率性-堂島・大津米市場における価格形成の分析-」社会経済史学会 第76回全国大会 パネルディスカッション「市場の比較制度史: 近代アジアにおける統治と効率性」 | 2007年5月27日 | |
| 学会報告 | 「堂島町合米(先物)市場のマイクロストラクチャーとヘッジ機能-幕末、天保五年(1834)より元治元年(1864)の分析-」(森平爽一郎・小暮厚之との共同報告)日本ファイナンス学会 第12回大会 | 2004年5月30日 |
受賞歴
- 社会経済史学会 第4回学会賞(2010年)